新しいパパができました・26
父親を荼毘に付した詩鶴は、小さな骨壷を抱き祖母の眠る公園墓地へ向かった。
ほんの少しの骨をさらし袋に入れて、戒名を書いたプレートの下に埋める。
いつか布が朽ちて、骨は自然に土に還る、そんな埋葬方法だった。
俺の父ちゃんも眠る桜の下で、共に樹木葬にしてあげたいと言う。
春になったら此処に座って、一緒に桜を見上げようね、と花のように詩鶴が笑う。
本当はお母さんと一緒に埋葬してあげたいと、心から望んでいるだろうにそんなことをおくびにも出さなかった。
ほっそりと流されるように儚げでいて、詩鶴は意外に芯が強いのかもしれない。
母親の遺骨は、誰が持ち出したものか、長く行方が知れなかった。
**********************************
伯父と天音に「この度は、父の葬儀への、ご参列ありがとうございました。」と、深々と頭を下げ、詩鶴は家を出てゆきます、と告げた。
「これまで、お世話になりました。病院の事は全て伯父さんのよろしいようになさってください。いずれ成人したら、弁護士と相談して正式に財産放棄の書類を作ります。」
詩鶴の前で黙したまま、何も語ろうとしない二人には詩鶴の思いつめた覚悟も、届かなかったのだろうか。
「父の残してくれた生命保険がありますから、大学へも進学するつもりです。じゃ・・・ここで。さようなら。」
しばらく声を掛けてくれるのを待ったようだったが、押し黙ったままの身内に、結局頭を深く下げて踵を返し、詩鶴はタクシーに乗り込もうとした。
「詩鶴!」
天音が絞り出すように、言葉をかけた。
「これ。この場所に、眠っているから。」
「え・・・?眠ってる・・・って?」
その一言で全てを悟り、詩鶴の双眸から筋となって涙が溢れた。
渡された封筒の中に、見知った寺の名前と戒名があった。
「お・・・母さ、ん・・・」
そして詩鶴の祖母の眠る隣にあった真新しいプレートが、実は母のものと知り、詩鶴は天音の胸にどんと頭をぶつけた。
俺は腹立たしい思いで、詩鶴の涙が天音の白衣に吸われてゆくのを眺めた。
「天音さん。・・・ありがとう。お母さんのお骨、ぼく・・・もうないのかと思って・・・どこかに散骨されてしまっていると思っていたから・・・ありがと・・・う、天音さん、伯父さん、ぼく・・・嬉しい。」
「まあ、少しは情も残っていたと言う事だ。複雑だがな。死んだ者をいつまでも憎んでも仕方がないだろう。それに、元々父のしたことが全ての発端だ。」
驚いた事に、どこか肩の荷を下ろし安堵したような優しい表情を向けた天音に、詩鶴は頭をくっつけたきりじっとしていた。
「やっぱり、天音さんは昔のまま優しかった。ぼく、叔母さんのこともあるから天音さんに酷くされるのは仕方ないって思っていたけど・・・。」
詩鶴の肩を掴んで自分から引き離した天音はぶっきらぼうだったが、その視線は昨日とはまるで別人だった。
「七日ごとのお参りには帰って来い。あと、全て法事の日を知らせるから、落ち着いたら住所をメールしてくること。いいね。」
「はい。」
これを血縁の情と一言でいうのは、短絡的過ぎる。
俺には伯父と天音が、まるでとってつけたようにいい奴になったのが胡散臭くて信じられなかった。
詩鶴の背後から、睨みつける俺の視線を感じたのだろう、天音は苦笑していた。
「これで、丸く収まったなどとは誰も思っていないさ。津田くん・・・だっけ?」
「はい。」
「詩鶴をよろしく頼む。いつか、笑って話せる日も来るだろう。」
俺の傍らで涙ぐんだ詩鶴は、もう言葉を発せなかった。
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ほんの少しの骨をさらし袋に入れて、戒名を書いたプレートの下に埋める。
いつか布が朽ちて、骨は自然に土に還る、そんな埋葬方法だった。
俺の父ちゃんも眠る桜の下で、共に樹木葬にしてあげたいと言う。
春になったら此処に座って、一緒に桜を見上げようね、と花のように詩鶴が笑う。
本当はお母さんと一緒に埋葬してあげたいと、心から望んでいるだろうにそんなことをおくびにも出さなかった。
ほっそりと流されるように儚げでいて、詩鶴は意外に芯が強いのかもしれない。
母親の遺骨は、誰が持ち出したものか、長く行方が知れなかった。
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伯父と天音に「この度は、父の葬儀への、ご参列ありがとうございました。」と、深々と頭を下げ、詩鶴は家を出てゆきます、と告げた。
「これまで、お世話になりました。病院の事は全て伯父さんのよろしいようになさってください。いずれ成人したら、弁護士と相談して正式に財産放棄の書類を作ります。」
詩鶴の前で黙したまま、何も語ろうとしない二人には詩鶴の思いつめた覚悟も、届かなかったのだろうか。
「父の残してくれた生命保険がありますから、大学へも進学するつもりです。じゃ・・・ここで。さようなら。」
しばらく声を掛けてくれるのを待ったようだったが、押し黙ったままの身内に、結局頭を深く下げて踵を返し、詩鶴はタクシーに乗り込もうとした。
「詩鶴!」
天音が絞り出すように、言葉をかけた。
「これ。この場所に、眠っているから。」
「え・・・?眠ってる・・・って?」
その一言で全てを悟り、詩鶴の双眸から筋となって涙が溢れた。
渡された封筒の中に、見知った寺の名前と戒名があった。
「お・・・母さ、ん・・・」
そして詩鶴の祖母の眠る隣にあった真新しいプレートが、実は母のものと知り、詩鶴は天音の胸にどんと頭をぶつけた。
俺は腹立たしい思いで、詩鶴の涙が天音の白衣に吸われてゆくのを眺めた。
「天音さん。・・・ありがとう。お母さんのお骨、ぼく・・・もうないのかと思って・・・どこかに散骨されてしまっていると思っていたから・・・ありがと・・・う、天音さん、伯父さん、ぼく・・・嬉しい。」
「まあ、少しは情も残っていたと言う事だ。複雑だがな。死んだ者をいつまでも憎んでも仕方がないだろう。それに、元々父のしたことが全ての発端だ。」
驚いた事に、どこか肩の荷を下ろし安堵したような優しい表情を向けた天音に、詩鶴は頭をくっつけたきりじっとしていた。
「やっぱり、天音さんは昔のまま優しかった。ぼく、叔母さんのこともあるから天音さんに酷くされるのは仕方ないって思っていたけど・・・。」
詩鶴の肩を掴んで自分から引き離した天音はぶっきらぼうだったが、その視線は昨日とはまるで別人だった。
「七日ごとのお参りには帰って来い。あと、全て法事の日を知らせるから、落ち着いたら住所をメールしてくること。いいね。」
「はい。」
これを血縁の情と一言でいうのは、短絡的過ぎる。
俺には伯父と天音が、まるでとってつけたようにいい奴になったのが胡散臭くて信じられなかった。
詩鶴の背後から、睨みつける俺の視線を感じたのだろう、天音は苦笑していた。
「これで、丸く収まったなどとは誰も思っていないさ。津田くん・・・だっけ?」
「はい。」
「詩鶴をよろしく頼む。いつか、笑って話せる日も来るだろう。」
俺の傍らで涙ぐんだ詩鶴は、もう言葉を発せなかった。
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