新しいパパができました・25
このまま俺たちと一緒に暮らす覚悟を決めて、報告に帰ってきたのだという。
問題は山積みなのだろうが、ともかく俺は泣いてばかりいるのではなく、腹を据えて自分で決めた詩鶴に感心していた。
詩鶴は見た目の儚さと違って、意外にきちんと自分を持っているような気がする。
「1人で行って来る。平気だから。」
さすがに詩鶴を1人で虎穴に放り込む勇気はなかったので、口出ししないで見守るだけという約束で、ついてゆくことにした。
母ちゃんは人形の展示会が、大阪の百貨店であるとかで一足先に京都を後にした。
「お父さんとも、別れを言わなきゃいけないって本当はわかっていたんだ。でも、独りになる勇気がなくて先延ばしにしていたんだ。もう父の抜け殻に、さようならを言うよ。」
脳死状態の詩鶴の父親は、今は器械につながれて辛うじて息をしているにすぎない。
何の反応もない状態を、生きていると言えるのかどうか、俺にはわからなかったけど、詩鶴にはかけがえのない父親だった。
話が何も出来なくても、そこにいるだけでずっと詩鶴の支えだった父親。
母親がいなくなった後、ずっと支え合ってきた父子。
その最愛の父親に、詩鶴は決別するのだと言う。
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「お父さんを、どうか宜しくお願いします。」
伯父と、天音を前に殊勝に詩鶴は頭を下げた。
傍に第三者がいるのも構わず、伯父は詩鶴に手を伸ばした。
コートを滑らせ、不自然にセーターがたくし上げられる。
何の躊躇もなく半裸に剥かれた詩鶴は、簡単に転がされていた。
「出て行った後、こいつがどうなっても構わないんだな、詩津。器械を止めたら、聡は直ぐに死ぬ事になるぞ。」
伯父の手が静かに詩鶴の首に係り、そっと傍目にも力が込められた。
「それでも、出てゆくのか。」
「う・・・っ・・・あ・・・!」
詩鶴の腕が空に伸ばされ、俺は何も言わないという約束を反故にして、伯父という男に掴みかかろうとした・・・その時。
詩鶴は首を絞められながらも、腕を懸命に伸ばし、その薄い胸に伯父を抱えた。
「お・・・じさ・・・。聞いて。」
「悟さ・・・ん。あなたを心から求める人を、愛してあげて。」
「だめ・・・だよ。待っている人が、直ぐ傍にいるのに・・・生きている人の方を、ちゃんと向いてあげて。」
顔をゆがめた伯父が、詩鶴の顔を驚愕の表情を浮かべたまま見つめる。
きっと詩鶴は、こんな風に自分の考えを口にしたこと等なかったのだろう。
ほろほろと、詩鶴の目じりから清らかな水滴が光を弾いて、いくつも転がってゆく。
みはった瞳は、じっと伯父を捉えていた。
「詩津・・・。」
「詩津・・・お母さんは、もう死んだんだよ。伯父さん、辛くても認めて。ぼくも、もう誰にお母さんの名前を呼ばれても返事しないって、決めたから。」
「伯父さん。もうお母さんは過去にしかいないんだよ。」
サイドベッドに転がったまま、詩鶴は伯父に別れを告げていた。
「詩津。私は君を見捨てた。もっと早くに手術をすれば、君は助かったはずだ。聡(さとる)の花嫁になった君を眺めて暮らすくらいなら、いっそ君をと・・・カルテを改ざんして、自分の思い出の中に閉じ込めてしまおうとしたんだ。」
「伯父さん、きっとお父さんは知っていたと思う。お医者様だったんだもの。助けられなくて辛かったのはみんな一緒だよ。」
「私を赦すのか、詩津。」
抱きしめられたまま、伯父という人が話をしているのは、きっと詩鶴の母親だった。
天音は呆然と、父と義理の弟の抱擁(?)を見詰めていた。
そして、そのとき別れを告げた詩鶴に呼応するように、父親、澤田聡の生命維持装置のハートレイトが高い音で鳴り響き、切れ掛かっていたか細い命の終了を告げた。
振り向いた伯父は、恋敵でもあった澤田聡の機器に飛びつき、「聡」と叫んだ。
恐らくそれが本能という物だったのだろう。
殺したいほど憎んだはずの弟が、静かに絶命を迎えようとした時、彼は迷わず蘇生しようとさえした。
「まだ、間に合う!カンフルを、天音っ!」
「伯父さん、もういい、お父さんを眠らせて。お父さんは、もうお母さんの傍に行くんだよ。」
「お別れを言って。」
「詩・・・鶴。」
物言わぬ父親を枷にして、長い間詩鶴を思い通りにしてきた伯父と天音が、ベッドサイドに立ち脈を取った。
「ご臨終です。」
医師の顔で天音が告げ、別れを決意していたはずの詩鶴は、大きな声で父親の名を呼び泣いた。
「あぁ~ん・・おとうさ・・・ん・・・お父さん・・・」
細く骨の浮いた腕を握り締めて余りに悲痛に詩鶴が泣くから、俺はもうどうしようもなく傍に呆けたようにして佇んでいるだけだった。
つい最近、俺も経験した身内との別れ。
詩鶴の父親は、息子の選択が正しいと言わんばかりに命を手放した。
「お母さん、お父さんが逝ったよ。これで一緒に、ずっと一緒にいられる・・・」
俺は、緊張の糸が切れたように静かに泣く詩鶴を、ここで一人にしなくてすんだことにほっとしていた。
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二重カウントを止めていますので、キリ番は当分ないと思いますが今回、ニアピンを踏んで下さった方が名乗ってくださいました。(//▽//) きゃあああっ!此花、大喜びです。小春さま、どうぞリクエスト、おっしゃってくださいね。
キリ番踏んだよ~と、おっしゃる方もまだまだ拙いですが、頑張るつもりです。
いらっしゃいましたら、是非。
昼ドラのような、今話ももう直ぐ終わります。北壁のアイガー(此花にとってのエチ場面)の征服は恐らく最終話に入るはずです。どんだけ、ひっぱっとんね~ん、こら~(`・ω・´)←うっすら、頑張ります!・・・と、自分にハードル。
さて、BL修行中の此花の近況です。
先日、初めて買った商業誌が、漫画でした。ショック!Σ(´@□@`)←小さな本は、皆小説だと思ってた。
勇気がなくて先日のチャットで出てきたのが確かこんな名前~と、思い出して買ったのですが(DVD付きよ~)中身が見えないように本屋さんが自主規制(?)してナイロンが掛けられていて確認出来ませんでした。
今、紙袋に入れて部屋の見えないところに封印してあります。
表紙を開くと、目くるめくファンタジーの住人がくんずほぐれつしていて「きゃあああああっ・・・ブツ~!くっきり~しっかり~!や~ん、おっき~!」←1人大騒ぎ。
(//▽//) ・・・DVDも見れてないです。あう~・・・
初めてエッチ本買った、可愛い子達の気持ちを体感しているような気がします。dvdは袋とじを開く気分・・・
いや~、心臓に悪いですけどこれからきっと慣れてゆくのね。
そして、どっぷり。
でもね、あそこに「参考書」が隠してあるでしょ。やばい~!
「今、死ねない。」(`・ω・´)まじで!
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