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新しいパパができました・19 

真っ白に血の気の無い顔を向けて、詩鶴は今にも消え入りそうな風情で立ち尽くしていたらしい。

母ちゃんが手のひらに固く握りこまれていたカッターナイフを取り上げたとき、詩鶴の体はぐらりと傾いて母ちゃんの胸に倒れこんできたんだそうだ。

「誰・・・も、いない。いなくなってしまった・・・いなくなったほうが良いんだ、ぼくなんて・・・ぼくも逝く、連れて行って、おばあさまぁ・・・っ!」

「わああぁ・・・っ・・・」

かわいそうな詩鶴は、大好きなおばあさんの死に動転し、それこそ子供のように支離滅裂な言葉を発しながら戒名を書いた陶板の前で、泣きじゃくっていたらしい。
母を幼い頃に亡くし、父は病院のベッドに横たわり、ただ一人の理解者を失って詩鶴は絶望し慟哭した。

母ちゃんに会ったとき、詩鶴は祖母の最期を看取った後、本気で死ぬ気だったと語った。
人は生きてゆくうえで、生きる理由をきちんと持っている。
そのときは発作ではなく、ただ荒い息をついていたばかりだったと言う。
それから、母ちゃんは詩鶴と同じ場所で何度も会った。
大切な者を失った者同士、労わり励ましあっていたのだろうか。

生きる理由は、未来への夢だったり、かけがえの無い人のためだったりするのだけど、詩鶴は気の毒なほど何も持っていなかったと母ちゃんは語った。

「あたしには、柾もいたし人形も有った。でも、あの子にはお父さんが倒れて以来、おばあさんと暮らした時間がすべてだったみたいなの。」

「ふ~ん・・・って、なんだよ、母ちゃん。詩鶴を絶対連れて帰れって指令を出したくせに、俺のこと信用してなかったのかよ。」

父ちゃんの眠る墓所に満面の笑顔で現れた母ちゃんに、俺はほんの少しむくれていた。
正直言うと、ほっとしたのも半分くらいはあると思うけど。

「亜由美さん。又ここで会えるなんて、ぼく嬉しいです。ここは、亜由美さんに最初に出会った、大切な場所だから。」

さらりと綺麗な顔で母ちゃんを喜ばせて、詩鶴ははにかみながら母ちゃんの首に、自分のマフラーを回した。

「ぼくの大切な亜由美さんが、風邪引くといけないから。」

似合わね~・・・何だ。この男前っぽい台詞。

まんざらでもない顔をした母ちゃんが、「さあ、墓参りも済んだ事だし、帰ろうか?」と、軽やかに告げた。

俺の脳天気なところは、きっとこの明快な母ちゃん譲りだ。

「母ちゃん。なんだか詩鶴の家って、複雑なんだ。だから、まだ・・・向こうは、話とかありそうだったし帰るわけにはいかないんじゃないか。」

「ばかだね、柾。あんたの単純な頭で考えたとおりに動いて良いんだよ。詩鶴くんも、したいようにすればいいんだよ。自分の人生なんだから。いけ好かない親類の顔色なんて、伺うこと無い。」

きっぱりと答えを出した母ちゃんの胸に頭を押し付けて、詩鶴は固まってしまった。
搾り出した言葉は、俺には聞き取れなかった。

「・・・ありがとう。」

出会った時に見せた飛び切り綺麗な泣き笑いで、詩鶴は今日はまだ帰れないと告げた。

「少しだけ、ぼくの家に来てください。そんなに遠くないから。」

タクシーの運転手は、詩鶴の顔を知っているようだった。
地元では有名な病院の跡取り息子という上に、この面じゃ目立つなと言うほうが無理だと思う。
上気した運転手が、舞い上がってしまってスピードを出しすぎたのを、後の座席から母ちゃんが容赦なく張り倒していた。

勿論、完璧に親指を握りこんだ拳で。(爆)

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どうぞよろしくお願いします。 此花

やっとテレビが見れる環境になりました。ふ~・・・(´・ω・`)
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2 Comments

此花咲耶  

Re: でも すぐに 10万HITに なりそうだよ~♪

> 何か 分かんないけど 大変そうですね。特に 此花さまの様に 日に 2作品を UPされてると!

もうほとんど、限界です。書くの好きですけど、時々、少ない脳みそがこんがらがってしまいそうです。

> 柾の母は 男前だなぁ~。ほんと自分の人生なんだから 悔いの無いように 過ごすことを 心がけなくては!!

誰か、引っ張ってくれる常識のある人が居ないといけないので、母ちゃんがその役になりました。(*^ー^)ノ

> 「蜻蛉の記」の2作品、「瀬良兄弟仇討譚」、「ずっと 君を 待っていた」、「命 一葉」、「青い海の底の浄土」、「雪うさぎ」...
> これらの作品だけしか 読んでないので 上手く 言えませんが、 このジャンルの 此花さまの作品の雰囲気が 私は 好きですよ~♪

此花もけいったんさまが好き~♪(*^3^)ノうちゅ~じゃなくて、こんなにたくさんお読みいただいてありがとうございます。いつも的確なコメントありがたいです。お勉強になってます。

> でも 私 歴史に 全く興味が無く 基本的な事も無知なので 他の方の様に どうコメしていいのか さっぱり分からん!のです。
> コメは書けないですが 作品もちゃーんと読んでますし、コメを読むのも面白いです。

此花も、かなり怪しいです。何しろ脳みそ控えめですから、ごまかしながら書いてます。しかも、時代も思いっきり偏っています。学校でも西洋史しか習っていません。(`・ω・´) ←あんぽんたん~

> これからも 色々なジャンルの作品で 楽しませて下さいまし~
> (^^)ゞbyebye☆

過去作品まで読んでくださっているとお聞きしただけで、もうくるくる~と浮かれてます。
BLブログといいながら、エチはどこ~と捜索隊が出動するような場所ですがこれからもよろしくお願いします。
コメントありがとうございました。コメント引用しながら初めて書いてみました。嬉しかったです。(*^▽^)ノ

2010/12/05 (Sun) 23:09 | REPLY |   

けいったん  

でも すぐに 10万HITに なりそうだよ~♪

何か 分かんないけど 大変そうですね。特に 此花さまの様に 日に 2作品を UPされてると!
柾の母は 男前だなぁ~。ほんと自分の人生なんだから 悔いの無いように 過ごすことを 心がけなくては!!

「蜻蛉の記」の2作品、「瀬良兄弟仇討譚」、「ずっと 君を 待っていた」、「命 一葉」、「青い海の底の浄土」、「雪うさぎ」...
これらの作品だけしか 読んでないので 上手く 言えませんが、 このジャンルの 此花さまの作品の雰囲気が 私は 好きですよ~♪
此花さまも 生き生きして 楽しそうですね。
でも 私 歴史に 全く興味が無く 基本的な事も無知なので 他の方の様に どうコメしていいのか さっぱり分からん!のです。
コメは書けないですが 作品もちゃーんと読んでますし、コメを読むのも面白いです。

これからも 色々なジャンルの作品で 楽しませて下さいまし~
(^^)ゞbyebye☆

2010/12/05 (Sun) 22:21 | REPLY |   

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