続 星月夜の少年人形 ３
食事を終えて、帰ってくると赤色灯が回り周囲は大騒ぎだった。大体この町に、警察車両や救急車両が走り回るのは珍しいことではない。
初めて食べた、お子様ランチの旗を大切に握り締めた桃李の手を曳いて、花村が桃李の居場所へ近付いたとき事の重大さがわかった。酔客のけんか騒ぎ程度ではないらしい。
「幻夜のホストが、やられたらしい。引きずられて行ったそうだ。」
「警察は？」
「被害者も加害者もいないんじゃね、どうしようもないさ。あの出血量から見ると、無事では済まないだろうが、手当てしてもらえたとも思えないしな。」
花村は桃李を抱き上げたまま、世間話に耳を傾けていた。
「幻夜のあいつか？そりゃ、仕方ないな。孕ませた女も数人じゃきかないんじゃないか？いつかは、こうなると思ってたよ。」と、誰かのささやきも聞こえて来る。警察の聞き込みには誰もが沈黙を守っていたが、拉致された男がろくでもない奴だという事は、町中の誰もが知っていた。
「よりによって、あいつに入れこんだ短大生ってのが、入駒組の娘だったっていうじゃないか。男の方は知らなかったらしいが、孕んだってのは確からしい。中出しを豪語する男のことは、皆知っていたし実際何人も闇医者で堕胎したって話だろう？」
噂の的になっているのは、たぶん桃李の父親の話だ。桃李は大きな目で、じっと花村を見つめていた。目の前でお子様ランチの、星条旗をくるくる回していた。
「娘がどんなあばずれでも、父親ってのは娘のことを聖少女だって思ってるんだよなぁ。たまらないね。」
花村は、裏口の片づけをするさっきの男を見つけ、桃李を手渡した。
「おじちゃん。ありがと・・・」
「おお、またな。」
＊＊＊＊＊＊＊
花村はその後、仕事仲間の成瀬を訪ねた。
スワンというゲイバーで、成瀬たちは祝杯をあげ上機嫌だった。何度も乾杯を繰り返し、貸切にした店は盛り上がっていた。
成瀬が世界中で一番愛する娘は、寂しい世間知らずで、田舎から家を出てこの町に来たばかりの時、早々にあっさりと毒牙に掛かり孕まされていた。男の嘘と涙に同情し、支度金目当てで何度も店を変わらされるたび、娘の働く店はひどい条件を提示した。
口車に乗せられて、多額の借金を背負わされ、地方のヘルスへ送られる寸前の娘を、成瀬は身を挺して必死に守った。借金の肩代わりを申込み、めり込むほどの土下座をして、成瀬は愛する女を守った。
少し膨らんだお腹の中には、ろくでもない奴の子供を宿していたが成瀬は全てを受け止めた。
「俺には子供を作ったりできないからさ、きっと神さまがくれたんだよ。これで、腐れ縁とも本当におさらばだ。本当に、良かったなぁ、祥子。これで、もう誰に遠慮することもなく子どもが生まれたら三人で暮らせるんだ。ばんざい！」
「さっさと、てめぇが自分の付けを払って来い！」と、叫んで成瀬は花村に抱きついた。
「これで、祥子と子供は俺だけのものだ。誰に何の遠慮もなく、俺たちは親子になる。」
泣きながら叫ぶ成瀬に花村は、乱暴な祝福をした。酔いつぶれた成瀬に、太い二の腕のスワンのママが、良かったわねぇと野太い声でささやいた。無垢な野の花は、都会の虫に食いつくされそうになった所を助けられた。
細い身体に、お腹だけを膨らませた少女のような、思い人が傍で微笑んでいた。
「ろくでもない親なら、いっそいない方が良いわよねぇ・・・。成瀬ちゃんや、あたしみたいな女は、幸せなんてほど遠いと思ってたけど、幸せになんなさい祥子。成瀬ちゃんは、あたしが認める本物の、いい男よ。」
幸薄そうな儚げな笑顔で微笑んだ女性は、それからしばらくして、取り上げた助産師が驚くほどの綺麗な子供を産んだ。仲睦まじい夫婦と、なさぬ仲の親子。
生まれた子供は「海広(みひろ)」と名付けられ、やがて数奇な運命をたどることになる。
だがそれは、また別の話だった。
生まれた子供「海広(みひろ)」の物語は、過去作品「凍える月」です。もし、宜しければお読みいただければうれしいです。
性同一性障害の「海広(みひろ)」のお話は、ＢＬではないかもしれませんが自分でも色々調べて書いた思い入れのあるお話です。(*⌒▽⌒*)♪「ＣＭです～～～❤」
拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
← 見れば見るほどきゅんきゅん～♪です。
初めて食べた、お子様ランチの旗を大切に握り締めた桃李の手を曳いて、花村が桃李の居場所へ近付いたとき事の重大さがわかった。酔客のけんか騒ぎ程度ではないらしい。
「幻夜のホストが、やられたらしい。引きずられて行ったそうだ。」
「警察は？」
「被害者も加害者もいないんじゃね、どうしようもないさ。あの出血量から見ると、無事では済まないだろうが、手当てしてもらえたとも思えないしな。」
花村は桃李を抱き上げたまま、世間話に耳を傾けていた。
「幻夜のあいつか？そりゃ、仕方ないな。孕ませた女も数人じゃきかないんじゃないか？いつかは、こうなると思ってたよ。」と、誰かのささやきも聞こえて来る。警察の聞き込みには誰もが沈黙を守っていたが、拉致された男がろくでもない奴だという事は、町中の誰もが知っていた。
「よりによって、あいつに入れこんだ短大生ってのが、入駒組の娘だったっていうじゃないか。男の方は知らなかったらしいが、孕んだってのは確からしい。中出しを豪語する男のことは、皆知っていたし実際何人も闇医者で堕胎したって話だろう？」
噂の的になっているのは、たぶん桃李の父親の話だ。桃李は大きな目で、じっと花村を見つめていた。目の前でお子様ランチの、星条旗をくるくる回していた。
「娘がどんなあばずれでも、父親ってのは娘のことを聖少女だって思ってるんだよなぁ。たまらないね。」
花村は、裏口の片づけをするさっきの男を見つけ、桃李を手渡した。
「おじちゃん。ありがと・・・」
「おお、またな。」
＊＊＊＊＊＊＊
花村はその後、仕事仲間の成瀬を訪ねた。
スワンというゲイバーで、成瀬たちは祝杯をあげ上機嫌だった。何度も乾杯を繰り返し、貸切にした店は盛り上がっていた。
成瀬が世界中で一番愛する娘は、寂しい世間知らずで、田舎から家を出てこの町に来たばかりの時、早々にあっさりと毒牙に掛かり孕まされていた。男の嘘と涙に同情し、支度金目当てで何度も店を変わらされるたび、娘の働く店はひどい条件を提示した。
口車に乗せられて、多額の借金を背負わされ、地方のヘルスへ送られる寸前の娘を、成瀬は身を挺して必死に守った。借金の肩代わりを申込み、めり込むほどの土下座をして、成瀬は愛する女を守った。
少し膨らんだお腹の中には、ろくでもない奴の子供を宿していたが成瀬は全てを受け止めた。
「俺には子供を作ったりできないからさ、きっと神さまがくれたんだよ。これで、腐れ縁とも本当におさらばだ。本当に、良かったなぁ、祥子。これで、もう誰に遠慮することもなく子どもが生まれたら三人で暮らせるんだ。ばんざい！」
「さっさと、てめぇが自分の付けを払って来い！」と、叫んで成瀬は花村に抱きついた。
「これで、祥子と子供は俺だけのものだ。誰に何の遠慮もなく、俺たちは親子になる。」
泣きながら叫ぶ成瀬に花村は、乱暴な祝福をした。酔いつぶれた成瀬に、太い二の腕のスワンのママが、良かったわねぇと野太い声でささやいた。無垢な野の花は、都会の虫に食いつくされそうになった所を助けられた。
細い身体に、お腹だけを膨らませた少女のような、思い人が傍で微笑んでいた。
「ろくでもない親なら、いっそいない方が良いわよねぇ・・・。成瀬ちゃんや、あたしみたいな女は、幸せなんてほど遠いと思ってたけど、幸せになんなさい祥子。成瀬ちゃんは、あたしが認める本物の、いい男よ。」
幸薄そうな儚げな笑顔で微笑んだ女性は、それからしばらくして、取り上げた助産師が驚くほどの綺麗な子供を産んだ。仲睦まじい夫婦と、なさぬ仲の親子。
生まれた子供は「海広(みひろ)」と名付けられ、やがて数奇な運命をたどることになる。
だがそれは、また別の話だった。
生まれた子供「海広(みひろ)」の物語は、過去作品「凍える月」です。もし、宜しければお読みいただければうれしいです。
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