最愛アンドロイドＡＵ １０
朝。
微睡(まどろみ)の中で音羽は隣りで眠っているはずの、あっくんに手を伸ばした。
幸せそうに音羽の胸に頬を寄せ、大きなエメラルドグリーンの瞳を煌めかせていた。
起き抜けの音羽に、ご主人さまの心臓の音が聞こえます……と、頬を染めて嬉しげに笑った。
……昨日までは。
「あっくん……？」
伸ばした腕が虚しく空を切り、音羽は一気に覚醒した。
「あっくん！どこだ！」
隅から隅まで捜してみたが、狭いマンションの中、アンドロイドＡＵの姿はどこにもなかった。リビングのソファの脇に置かれたプレミアムセットの箱の中に、薄い七色のＴバックと、ありえないデザインのぱんつを置き土産にして「あっくん」は消えた。
どうにも諦めきれず、最初に掛けた直通電話に連絡してみた。
「……はい。こちらはアンドロイドＡＵ……メンテナンス事業部です。」
「モニター中のアンドロイドが消えたんだ。捜してくれないか。ＧＰＳが付いているんだろう？」
「アンドロイドＡＵの……モニターは終了しました。アンドロイドは速やかに返納されております。モニターのご協力……ありがとう……ございまし……。く……っすん。」
機械音のオペレーターが鼻をすするのを聞いて、やっとボイスチェンジャー……？と気づく。もしかすると電話の向こうにいるのは、あっくんなのか……？
「モニターが済んだら、アンドロイドはどうなるんだ？同一モデルの販売予定はあるのか？」
「販売予定はありません。お客さま……アンドロイドＡＵがお気に召しましたでしょうか。」
「ああ。とても気に入ったんだ。だからできれば、このままずっと傍に置いておきたい。有償でも構わない。モニターしたアンドロイドを返してくれ。」
「ご主人さ……お客さまが、お掛けになった番号はこれからは通じることはありません。モニター終了と共にアンドロイドＡＵメンテナンス事業部は閉鎖されることになっております。」
「っ……そんな馬鹿な！だったら、もう一度あっくんに会わせてくれ。きちんと別れも言わずにモニター終了なんて、あんまりじゃないか。」
「……ぴ～……」
「こら～！ぴ～じゃない！！あっくんなんだろう？声を変えたってわかるぞ。今すぐ帰っておいで。ずっと一緒に居ようと約束しただろう？魚を焼いてくれるって言ったじゃないか。」
「お掛けになった電話番号は……え～ん……モニターは……終了……しました……。」
「あっくん！愛してるから！ずっと、一緒に居よう。」
「……モニターの……ご協力、あ、ありがとう……ございました。ぴ～……。」
電話の向こうで、鼻をつまんだあっくんがえぐえぐと泣いていた。音羽はひたすら帰ってくるように話をしたがモニター終了を告げたきり、回線は閉じられて音羽はオペレーターとも話が出来なくなった。二度と電話にオペレーターが出ることはなかった。
苛々と時計を見て勤務時間に気付き、音羽は朝食を取らずに出かけた。
ベランダの隅っこに隠れていたアンドロイドＡＵは、涙ながらに片隅から小さくなってゆく音羽を見送った。
「先生。さようなら……ありがとう。これで、もう思い残すことはありません。」
はらはらと零れ落ちる涙を拭おうともせず、アンドロイドＡＵは電話を掛けた。
「秋月博士。無理を聞いてくださってありがとうございました。幸せな時間を過ごせました。手術前の綺麗な身体を見てもらえたし……いっぱい優しくしてもらいました。はい、先生は昔と変わりなくとても優しかったです。」
「そうか。良かったな。」
＊＊＊＊＊
翌日、新妻モードの追加ディスクがあっくん宛てに送られてきた。音羽が開けてみると中身は「キュー○ー三分間クッキング」のＤＶＤだった。
簡単な料理に失敗し、放り込むだけの洗濯はハウスクリーニングを呼ぶ羽目になった。思わず笑ってしまうほど何もできなかった幼な妻モードのあっくんは本当にアンドロイドだったのだろうか。
「あっくん……。」
ＤＶＤを手にした音羽は、肩を落としてしばらく呆然としていた。
失ったものは、思ったよりも大きく、音羽の胸に空いた風穴は埋まることはなかった。
(´・ω・｀) 音羽：「あっくん……、どこへ行ってしまったんだ。帰ってこい。」
（´；ω；｀） ＡＵ：「いつか、逢えるから……。今は、お別れです……くすん。」
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
微睡(まどろみ)の中で音羽は隣りで眠っているはずの、あっくんに手を伸ばした。
幸せそうに音羽の胸に頬を寄せ、大きなエメラルドグリーンの瞳を煌めかせていた。
起き抜けの音羽に、ご主人さまの心臓の音が聞こえます……と、頬を染めて嬉しげに笑った。
……昨日までは。
「あっくん……？」
伸ばした腕が虚しく空を切り、音羽は一気に覚醒した。
「あっくん！どこだ！」
隅から隅まで捜してみたが、狭いマンションの中、アンドロイドＡＵの姿はどこにもなかった。リビングのソファの脇に置かれたプレミアムセットの箱の中に、薄い七色のＴバックと、ありえないデザインのぱんつを置き土産にして「あっくん」は消えた。
どうにも諦めきれず、最初に掛けた直通電話に連絡してみた。
「……はい。こちらはアンドロイドＡＵ……メンテナンス事業部です。」
「モニター中のアンドロイドが消えたんだ。捜してくれないか。ＧＰＳが付いているんだろう？」
「アンドロイドＡＵの……モニターは終了しました。アンドロイドは速やかに返納されております。モニターのご協力……ありがとう……ございまし……。く……っすん。」
機械音のオペレーターが鼻をすするのを聞いて、やっとボイスチェンジャー……？と気づく。もしかすると電話の向こうにいるのは、あっくんなのか……？
「モニターが済んだら、アンドロイドはどうなるんだ？同一モデルの販売予定はあるのか？」
「販売予定はありません。お客さま……アンドロイドＡＵがお気に召しましたでしょうか。」
「ああ。とても気に入ったんだ。だからできれば、このままずっと傍に置いておきたい。有償でも構わない。モニターしたアンドロイドを返してくれ。」
「ご主人さ……お客さまが、お掛けになった番号はこれからは通じることはありません。モニター終了と共にアンドロイドＡＵメンテナンス事業部は閉鎖されることになっております。」
「っ……そんな馬鹿な！だったら、もう一度あっくんに会わせてくれ。きちんと別れも言わずにモニター終了なんて、あんまりじゃないか。」
「……ぴ～……」
「こら～！ぴ～じゃない！！あっくんなんだろう？声を変えたってわかるぞ。今すぐ帰っておいで。ずっと一緒に居ようと約束しただろう？魚を焼いてくれるって言ったじゃないか。」
「お掛けになった電話番号は……え～ん……モニターは……終了……しました……。」
「あっくん！愛してるから！ずっと、一緒に居よう。」
「……モニターの……ご協力、あ、ありがとう……ございました。ぴ～……。」
電話の向こうで、鼻をつまんだあっくんがえぐえぐと泣いていた。音羽はひたすら帰ってくるように話をしたがモニター終了を告げたきり、回線は閉じられて音羽はオペレーターとも話が出来なくなった。二度と電話にオペレーターが出ることはなかった。
苛々と時計を見て勤務時間に気付き、音羽は朝食を取らずに出かけた。
ベランダの隅っこに隠れていたアンドロイドＡＵは、涙ながらに片隅から小さくなってゆく音羽を見送った。
「先生。さようなら……ありがとう。これで、もう思い残すことはありません。」
はらはらと零れ落ちる涙を拭おうともせず、アンドロイドＡＵは電話を掛けた。
「秋月博士。無理を聞いてくださってありがとうございました。幸せな時間を過ごせました。手術前の綺麗な身体を見てもらえたし……いっぱい優しくしてもらいました。はい、先生は昔と変わりなくとても優しかったです。」
「そうか。良かったな。」
＊＊＊＊＊
翌日、新妻モードの追加ディスクがあっくん宛てに送られてきた。音羽が開けてみると中身は「キュー○ー三分間クッキング」のＤＶＤだった。
簡単な料理に失敗し、放り込むだけの洗濯はハウスクリーニングを呼ぶ羽目になった。思わず笑ってしまうほど何もできなかった幼な妻モードのあっくんは本当にアンドロイドだったのだろうか。
「あっくん……。」
ＤＶＤを手にした音羽は、肩を落としてしばらく呆然としていた。
失ったものは、思ったよりも大きく、音羽の胸に空いた風穴は埋まることはなかった。
(´・ω・｀) 音羽：「あっくん……、どこへ行ってしまったんだ。帰ってこい。」
（´；ω；｀） ＡＵ：「いつか、逢えるから……。今は、お別れです……くすん。」
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