最愛アンドロイドAU 13
男装の麗人のようだと言うので、近所の女の子は密かに金髪の兄貴の方を「オスカルさま」と呼んでいた。しかもご丁寧に黒髪の恋人が出来て、そっちについたあだ名は当然アンドレだった。
確かに眺めているだけで、男装の麗人オスカルと従者のアンドレは、誰もがうっとりと見惚れるほど美しい恋人たちだった。あの綺麗な人は、どんな声で愛を語るのだろう。
そう考えただけで、音羽の芯は放出したくなるほど熱を持った。
「そういや確か……、しばらくしてからラスカルが病気になって、上田さん一家は治療の為にアメリカに引越ししたんだよな。」
「兄さん、ラスカルは、あらいぐまだ……。確かに、長身だったけど本当に男装の麗人にしか見えなかったよな。おれはチビとは仲良くなれたけど、結局、目当ての兄貴の方とは最後まで口もきけなかった。我ながら、可哀想なほど初心だったね~。」
「そういや、移民でアメリカに渡った爺さんの遺言とかで、代々男子は日本名なのが笑えたな。お前が好きだったラスカルの名前も……侍みたいな名前じゃなかったか?」
「だから、兄貴の方のあだ名はオスカルだってば。名前までは覚えてないけど、トム・クルーズに似てた父親の名前も、ないわ~ってお袋が笑ってた気がする。代々の当主が日本名にこだわって、子供や孫に自分の名前の一字を入れてたんだよ。」
よく覚えてるな……と言って、音矢が笑った。
あっくんの話をするはずが、久しぶりに会った兄弟は懐かしい昔話に盛り上がっていた。
十分に一昔前の話だった。何しろあれから10年以上も経っていた。
音羽はほっと、息を吐いた。
治療の為にアメリカに渡った翠玉のオスカルは、その後元気になっただろうか。やせっぽちでたんぽぽの綿毛みたいに細い髪の毛しか生えてなかったみにくいあひるの子は、綺麗な白鳥になっただろうか。
気休めに語った音羽の慰めに、零れそうな瞳に涙を溜めてこっくりと深く頷いたのを覚えていた。
「先の事なんて、誰にもわからないんだよ。その大きな瞳は、お兄さんにそっくりじゃないか。ぼくは、きっと君が大きくなったらお兄さんと同じくらい、いや、もしかするともっといい男になるかも知れないと思うよ。」
「……みんな、ぼくを余所から貰って来た子だって言ってる。ぼく、おうちの誰にも……似て……ないもん……。」
「パパとママは、そんなこと言わないだろう?」
「う……ん。ママのお腹から生まれたのよって言ってる。」
「そうか。じゃあね、君のことを悪く言う人と、パパとママ、どっちを信じる?」
「……パパとママ……。」
「そうだろう?みんな、君が元気に大きくなるのを、すごく楽しみにしてるんだよ。お兄さんだって、君がどんな大人になるか楽しみだよ。」
「うん。遠くに行っても会いに来る。綺麗になったら会いに来る。待っててね、おにいちゃん……」
音羽は子供を抱えて、長い事ブランコに乗っていた。
夕日が落ちて、背中におぶって送り届けてやった時には、泣き疲れて眠っていたような気がする。
あの子、なんて名前だったかな……。
*******
「おい。お前の事呼んでるぞ。」
どこか遠くで構内アナウンスが、音羽の名を呼んでいた。
「ああ。行かないと。さっき挨拶したときに、数日後のオペの参加を打診されたんだ。レシピエントとドナーが来たんだろう。行って来る。」
「そうか。じゃあ、又な。」
音羽は音矢に、詳しい話を聞くつもりだったが、互いに忙しい身上だった。昔話に花を咲かせただけで、あっくんの情報を手に入れられないまま音羽は仕事に向かった。
(〃ー〃) 会えるかな~・・・
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
確かに眺めているだけで、男装の麗人オスカルと従者のアンドレは、誰もがうっとりと見惚れるほど美しい恋人たちだった。あの綺麗な人は、どんな声で愛を語るのだろう。
そう考えただけで、音羽の芯は放出したくなるほど熱を持った。
「そういや確か……、しばらくしてからラスカルが病気になって、上田さん一家は治療の為にアメリカに引越ししたんだよな。」
「兄さん、ラスカルは、あらいぐまだ……。確かに、長身だったけど本当に男装の麗人にしか見えなかったよな。おれはチビとは仲良くなれたけど、結局、目当ての兄貴の方とは最後まで口もきけなかった。我ながら、可哀想なほど初心だったね~。」
「そういや、移民でアメリカに渡った爺さんの遺言とかで、代々男子は日本名なのが笑えたな。お前が好きだったラスカルの名前も……侍みたいな名前じゃなかったか?」
「だから、兄貴の方のあだ名はオスカルだってば。名前までは覚えてないけど、トム・クルーズに似てた父親の名前も、ないわ~ってお袋が笑ってた気がする。代々の当主が日本名にこだわって、子供や孫に自分の名前の一字を入れてたんだよ。」
よく覚えてるな……と言って、音矢が笑った。
あっくんの話をするはずが、久しぶりに会った兄弟は懐かしい昔話に盛り上がっていた。
十分に一昔前の話だった。何しろあれから10年以上も経っていた。
音羽はほっと、息を吐いた。
治療の為にアメリカに渡った翠玉のオスカルは、その後元気になっただろうか。やせっぽちでたんぽぽの綿毛みたいに細い髪の毛しか生えてなかったみにくいあひるの子は、綺麗な白鳥になっただろうか。
気休めに語った音羽の慰めに、零れそうな瞳に涙を溜めてこっくりと深く頷いたのを覚えていた。
「先の事なんて、誰にもわからないんだよ。その大きな瞳は、お兄さんにそっくりじゃないか。ぼくは、きっと君が大きくなったらお兄さんと同じくらい、いや、もしかするともっといい男になるかも知れないと思うよ。」
「……みんな、ぼくを余所から貰って来た子だって言ってる。ぼく、おうちの誰にも……似て……ないもん……。」
「パパとママは、そんなこと言わないだろう?」
「う……ん。ママのお腹から生まれたのよって言ってる。」
「そうか。じゃあね、君のことを悪く言う人と、パパとママ、どっちを信じる?」
「……パパとママ……。」
「そうだろう?みんな、君が元気に大きくなるのを、すごく楽しみにしてるんだよ。お兄さんだって、君がどんな大人になるか楽しみだよ。」
「うん。遠くに行っても会いに来る。綺麗になったら会いに来る。待っててね、おにいちゃん……」
音羽は子供を抱えて、長い事ブランコに乗っていた。
夕日が落ちて、背中におぶって送り届けてやった時には、泣き疲れて眠っていたような気がする。
あの子、なんて名前だったかな……。
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「おい。お前の事呼んでるぞ。」
どこか遠くで構内アナウンスが、音羽の名を呼んでいた。
「ああ。行かないと。さっき挨拶したときに、数日後のオペの参加を打診されたんだ。レシピエントとドナーが来たんだろう。行って来る。」
「そうか。じゃあ、又な。」
音羽は音矢に、詳しい話を聞くつもりだったが、互いに忙しい身上だった。昔話に花を咲かせただけで、あっくんの情報を手に入れられないまま音羽は仕事に向かった。
(〃ー〃) 会えるかな~・・・
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