わんことおひさまのふとん 4
夏輝の指を、いつものように吸っていると、ある日とても甘い匂いがした。
肉球で押さえて思わず顔を見上げ、「きゅん~?(あれ~?)」と、聞いてみた。
「あはは……、甘いだろ?」
葉山夏輝は、俺が驚いたのを見て、ずいぶん嬉しそうだった。
ホットケーキのメイプルシロップを塗って、俺がどんな反応をするか笑って観察していた夏輝。
それから時々、指に塗ってくれる甘い密は、俺の大好物になった。
炊飯器で焼いたホットケーキは、卵の特売日のとっておきのおやつだ。
*****
俺の飼い主は、週末は大家さんの用事をするため、ねじり鉢巻きで働いていた。
「さてと。ナイトは、ペンキをひっくり返しそうだからさ、今日はここで見てな。」
古い手すりにレンタルしてきた電動サンダーをがんがん掛けて、夏輝は黙々と赤いさび止めを塗ってゆく。
見上げると俺の「おひさまのふとん」はお日さまの中でオレンジ色に染まっていた。
「夏輝!手伝いに来たぜ~!」
速乾性のさび止めが半分乾いたころ、俺は初めて「文太」に出会った。
「あ、本当に来てくれたんだ。助かるよ、文太。」
文太は夏輝の友達で、俺がいつか成りたい男の姿をしていた。名前もおれが付けてほしいと願った好きな名前だった。
精悍な浅黒い肌、黒いタンクトップから突きでた腕に乗っかった筋肉は、俺と同じくらいの大きさだった。きりりとした眼差しの文太は、俺を抱き上げ頬を寄せた。
「こいつか、夏輝。めっちゃ可愛いじゃないか~、うわ~このちび、まじ殺人的に可愛いって。」
……可愛い?違うよ。俺が可愛いわけない。
俺は、かあちゃんに似てなくて捨てられた一匹おおか……狗神とボルゾイの雑種だぞ!
夏輝は俺を抱きまくって遊ぼうとする文太を、すごく嬉しそうに見つめている。
俺の本能が、その視線は「恋の季節」だとささやいた。
そうか。夏輝は文太に恋をしてるのか~……。しかも、その寂しげな視線は、どうやら報われている感じだけど、気付いていないのか?
人間って不自由。
由緒あるアパートのペンキ塗りを終えた二人は、かわるがわる夏輝の部屋の小さな風呂に入った。
ざぶざぶと湯を使い、豪快に泡を飛ばしまくる文太は、俺をついでに丸洗いすると狹い湯船に浸かっていた。
小さな俺用のタオルを半分に折って頭に乗せると、風呂の外の夏輝に声を掛ける。
「なあ、なあ。夏輝、ほら、こいつと2ショ撮って。」
「文太、ばっかみたいだ。」
そう言いながら夏輝は、失敗する振りをして文太の写真をアップで撮った。
「ナイトが動くから失敗しちゃったから、もう一枚ね。」
夏輝ったら、俺のせいにしたぞ。
風呂から上がると、見たことないくらいのおごちそうが並んでいた。俺は嬉しくて、こたつの周りをぐるぐる回った。
貧しい学生の夏輝は、俺を養うためにバイトを増やしたくらい生活はかつかつだった。
朝はいつも卵一個をご飯にかけて、半分こにした。
パンの耳に賞味期限ぎりぎりの牛乳をかけて、夏輝は俺の為にパン粥を炊く。時々は、魚肉ソーセージ。蛙のお腹みたいに膨らんだ俺のお腹をくすぐって、夏輝は笑っていた。
「お肉!お肉!お肉!」
俺は久しぶりの香ばしい匂いにはしゃぎまわり、夏輝と文太は俺を見て大笑いしてた。
お皿に顔を突っ込んで焼き肉のたれがべったりと付いた、俺の顔を見て二人はげらげらと笑った。
「泥棒みてぇ~。」
「頬かむりさせてみようぜ。」
「ふざけんなよ~!」← わん~!
結局、俺は心ならずもほっかむりの泥棒の格好をさせられて、写真に収められた。
ばか~!
その夜、俺たちは薄い布団に転がって、雑魚寝をした。
いつものように夏輝の指を吸いながら、俺は眠りについたが、その夜、俺は月明りの中、夏輝が文太の名を呼んで切なく啼くのをみた。
俺の吸っている指をそっと抜くと、夏輝は足の間にぶらさがった前のおしっぽをこすって文太の背中を見つめていた。
甘い匂いが、俺の鼻をくすぐる。
いつも舐めているメイプルシロップとは違う、もっと甘そうな匂い。
それは瓶に入った液体で(ローションというらしい)、俺は迷わず夏輝の指を舐めに行った。
「ナイト……、だめ、だめだって。これは、食べ物じゃないんだ。」
独りで何舐めてんだよ~、ずるいぞ、夏輝。
おいしそうな甘い匂いに、思わずたまらなくなって、夏輝の前しっぽを甘噛みしたら、夏輝がうめいた。
「あぅ……ああぁ……もう……ナイトったら……うっ。」
夏輝は文太を起こさないように、そうっと足元を四つん這いのままで風呂場に向かった。
狹い風呂場で、俺の身体にシャンプーを振りかけ「ごめん」と何度も言いながら夏輝は泣いていた。
狭い部屋の向こうでは、夏輝の好きな文太がペンキ塗りで疲れて眠っていた。
「ナイトに、顔射しちまった。ごめんなぁ……」
俺を綺麗に洗ってくれながら、夏輝は哭いた。
夏輝の前しっぽが、ふるりと薄い桃色になって、文太が好きだと揺れていた。
夏輝……。
「俺の「おひさまのおふとん」、お前に涙は似合わないぜ。」
きっと、俺の父ちゃんだったらニヒルにそういうはずだ。
父ちゃんみたいに、かっこいい台詞が似合うように、早く乳ばなれしなきゃ。俺。
当時、@くるみさんがお寄せくださったナイトの絵です。転載させていただきました。
▼・ェ・▼ ナイト:「がんしゃってなに?」
(*⌒▽⌒*)♪此花:「それはね~。二本のレールの上を走る四角い箱でね~……」
▼・ェ・▼ ナイト:「でんしゃ……?」
「子供にうそを教えんな!」■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆‘Д´)ノ
本日もお読みいただきうれしいです。(*⌒▽⌒*)♪
拍手も励みになってます。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
肉球で押さえて思わず顔を見上げ、「きゅん~?(あれ~?)」と、聞いてみた。
「あはは……、甘いだろ?」
葉山夏輝は、俺が驚いたのを見て、ずいぶん嬉しそうだった。
ホットケーキのメイプルシロップを塗って、俺がどんな反応をするか笑って観察していた夏輝。
それから時々、指に塗ってくれる甘い密は、俺の大好物になった。
炊飯器で焼いたホットケーキは、卵の特売日のとっておきのおやつだ。
*****
俺の飼い主は、週末は大家さんの用事をするため、ねじり鉢巻きで働いていた。
「さてと。ナイトは、ペンキをひっくり返しそうだからさ、今日はここで見てな。」
古い手すりにレンタルしてきた電動サンダーをがんがん掛けて、夏輝は黙々と赤いさび止めを塗ってゆく。
見上げると俺の「おひさまのふとん」はお日さまの中でオレンジ色に染まっていた。
「夏輝!手伝いに来たぜ~!」
速乾性のさび止めが半分乾いたころ、俺は初めて「文太」に出会った。
「あ、本当に来てくれたんだ。助かるよ、文太。」
文太は夏輝の友達で、俺がいつか成りたい男の姿をしていた。名前もおれが付けてほしいと願った好きな名前だった。
精悍な浅黒い肌、黒いタンクトップから突きでた腕に乗っかった筋肉は、俺と同じくらいの大きさだった。きりりとした眼差しの文太は、俺を抱き上げ頬を寄せた。
「こいつか、夏輝。めっちゃ可愛いじゃないか~、うわ~このちび、まじ殺人的に可愛いって。」
……可愛い?違うよ。俺が可愛いわけない。
俺は、かあちゃんに似てなくて捨てられた一匹おおか……狗神とボルゾイの雑種だぞ!
夏輝は俺を抱きまくって遊ぼうとする文太を、すごく嬉しそうに見つめている。
俺の本能が、その視線は「恋の季節」だとささやいた。
そうか。夏輝は文太に恋をしてるのか~……。しかも、その寂しげな視線は、どうやら報われている感じだけど、気付いていないのか?
人間って不自由。
由緒あるアパートのペンキ塗りを終えた二人は、かわるがわる夏輝の部屋の小さな風呂に入った。
ざぶざぶと湯を使い、豪快に泡を飛ばしまくる文太は、俺をついでに丸洗いすると狹い湯船に浸かっていた。
小さな俺用のタオルを半分に折って頭に乗せると、風呂の外の夏輝に声を掛ける。
「なあ、なあ。夏輝、ほら、こいつと2ショ撮って。」
「文太、ばっかみたいだ。」
そう言いながら夏輝は、失敗する振りをして文太の写真をアップで撮った。
「ナイトが動くから失敗しちゃったから、もう一枚ね。」
夏輝ったら、俺のせいにしたぞ。
風呂から上がると、見たことないくらいのおごちそうが並んでいた。俺は嬉しくて、こたつの周りをぐるぐる回った。
貧しい学生の夏輝は、俺を養うためにバイトを増やしたくらい生活はかつかつだった。
朝はいつも卵一個をご飯にかけて、半分こにした。
パンの耳に賞味期限ぎりぎりの牛乳をかけて、夏輝は俺の為にパン粥を炊く。時々は、魚肉ソーセージ。蛙のお腹みたいに膨らんだ俺のお腹をくすぐって、夏輝は笑っていた。
「お肉!お肉!お肉!」
俺は久しぶりの香ばしい匂いにはしゃぎまわり、夏輝と文太は俺を見て大笑いしてた。
お皿に顔を突っ込んで焼き肉のたれがべったりと付いた、俺の顔を見て二人はげらげらと笑った。
「泥棒みてぇ~。」
「頬かむりさせてみようぜ。」
「ふざけんなよ~!」← わん~!
結局、俺は心ならずもほっかむりの泥棒の格好をさせられて、写真に収められた。
ばか~!
その夜、俺たちは薄い布団に転がって、雑魚寝をした。
いつものように夏輝の指を吸いながら、俺は眠りについたが、その夜、俺は月明りの中、夏輝が文太の名を呼んで切なく啼くのをみた。
俺の吸っている指をそっと抜くと、夏輝は足の間にぶらさがった前のおしっぽをこすって文太の背中を見つめていた。
甘い匂いが、俺の鼻をくすぐる。
いつも舐めているメイプルシロップとは違う、もっと甘そうな匂い。
それは瓶に入った液体で(ローションというらしい)、俺は迷わず夏輝の指を舐めに行った。
「ナイト……、だめ、だめだって。これは、食べ物じゃないんだ。」
独りで何舐めてんだよ~、ずるいぞ、夏輝。
おいしそうな甘い匂いに、思わずたまらなくなって、夏輝の前しっぽを甘噛みしたら、夏輝がうめいた。
「あぅ……ああぁ……もう……ナイトったら……うっ。」
夏輝は文太を起こさないように、そうっと足元を四つん這いのままで風呂場に向かった。
狹い風呂場で、俺の身体にシャンプーを振りかけ「ごめん」と何度も言いながら夏輝は泣いていた。
狭い部屋の向こうでは、夏輝の好きな文太がペンキ塗りで疲れて眠っていた。
「ナイトに、顔射しちまった。ごめんなぁ……」
俺を綺麗に洗ってくれながら、夏輝は哭いた。
夏輝の前しっぽが、ふるりと薄い桃色になって、文太が好きだと揺れていた。
夏輝……。
「俺の「おひさまのおふとん」、お前に涙は似合わないぜ。」
きっと、俺の父ちゃんだったらニヒルにそういうはずだ。
父ちゃんみたいに、かっこいい台詞が似合うように、早く乳ばなれしなきゃ。俺。
当時、@くるみさんがお寄せくださったナイトの絵です。転載させていただきました。
▼・ェ・▼ ナイト:「がんしゃってなに?」
(*⌒▽⌒*)♪此花:「それはね~。二本のレールの上を走る四角い箱でね~……」
▼・ェ・▼ ナイト:「でんしゃ……?」
「子供にうそを教えんな!」■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆‘Д´)ノ
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