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わんことおひさまのふとん 14 

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俺は父ちゃんと一緒に、旅に出ることにした。

「本当に決心したんだな。ナイト。」

「う……ん。行くよ。」

夏輝と暮らせないなら、この町には何の未練もない。
父ちゃんは白狐さまに別れを告げて、しゅっと犬型に戻っていた。犬種は、四国犬という奴だ。人型で居るのは、体が大きい分「燃費」が悪いんだそうだ。
父ちゃんみたいに大人になると、狗神の血を引く俺も、いずれ自分で自在に人型に変身できるだろうと白狐さまが言った。

「長次郎に教えてもらうと良い。修業は大変だろうがしっかりおやり、仔犬。」

「はい。」

白狐さまが九字を結んで呪を掛けてくれたから、俺はもう少しの間は人型で居られるらしい。俺は、父ちゃんみたいに苦み走ったタイプが良かったのに、人型になるとふわふわした小型犬の雌みたいでがっかりした。
父ちゃんみたいに人型になったとき、誘因フェロモンがだだ盛れする「すけこまし体質」だけ似たみたいだ。そのうち「せいぎょ」することも覚えなきゃなって父ちゃんが言っていた。でないと、あちこちに狗神の落とし胤(だね)が散らばるだろうって。そっか、それでいろんな奴に声掛けられたのか。

「白狐さま、ありがとう。俺、また会いに来るから、それまで今のまま綺麗でいてね。」

「嬉しいことを。さすがは狗神の子だな。このたらしめ。」

白狐さまは俺に頬をくっつけて、すりすりした。

「元気で、仔犬。また会おう。」

「良い匂いがする……白狐さま。俺も大きくなったら、いつか、父ちゃんと一緒にあんあん言わせるから待っててね。」

そう言ったら、白狐さまは「いや、3pはちょっと…」と言って、桜色に染まった。
3pって、なに……?
ぱんのみみより、おいしいの……?

白狐さまは紅い祠の内側、張られた結界の向こうで、手を振ってくれた。
きっとこうして、俺は幾度(いくたび)もの別れと出会いを繰り返して、成犬(おとな)になってゆく。俺は父ちゃんと旅をして知らない世界を見るんだ。
いつかこの悲しみも過去の事として笑って振り返る時が来るだろう。今は、こんなに哀しくて夏輝の事をちょっと考えただけでも、涙が出そうになるけど……。ちゃんと、諦めなきゃ。
町はずれで、かすかな懐かしい匂いを嗅ぎ取って、俺は思わず振り返った。夏輝がおれを追って来るなんて、そんなことあるわけない。
俺は、口の端で笑ってうそぶいた。

「流れものには男(飼い主)は、いらねぇのさ。」

陽が落ちて、影が長くなっていた。
夕暮れは、哀愁の漂う男の背中が良く似合う。きっと、かあちゃんと別れて旅立つやくざな父ちゃんも、今の俺みたいな気持だったに違いない。
冷たい夜風が身に染みるぜ。頬を転がってゆくのは、きっと夜露だ。

「ナイトーーーーーーッ!!!」

俺を呼ぶ夏輝の空耳まで聞こえる。ちくしょう、どこまでも未練な俺だぜ。
諦めな、新しい旅立ちに涙は禁物だぜ。生きていれば、またどこかで会えることもあるだろうよ。その位の夢を見てもいいじゃないか。
束の間の飼い主、夏輝、感謝してるぜ。あばよ。
俺は思い出の染み付いたこの町を出て、父ちゃんと一緒に行くんだ。
いつか、苦み走ったいい男になった俺を見ても惚れるなよ。

「行くな、ナイトーーーーーーッ!!!」

「あっ!夏輝だ。」

俺は父ちゃんの顔を見た。
苦み走ったいい男の父ちゃんは、後悔するようなことだけはするなよと言った。父ちゃんも神さまの端くれだけあって、何でもお見通しだ。

「心の中でいくら思ったって、人間は下等な生き物だから、おまえの気持ちは伝わらないぞ。ナイト、夏輝とこれでお終いにする気なら、きちんと別れを告げるのも男の甲斐性だ、行って来い。」

でも……、もう一度あの冷たい夏輝だったらどうしよう。
大好きな夏輝にあんな顔をされる位なら、もう逢わずに別れた方がいい……。もう一度あんな夏輝を見てしまったら、俺は……きっともう立ち直れない。
父ちゃんに背中を押されても、暗い考えしか浮かばなかった。……夏輝。俺、本当にお前のことが、大好きだったんだ。
不安な俺を、夏輝の声が一気に払しょくした。

「ナイト!オージービーフのステーキ買って来たよ!一緒に食べよう!」

「オ……オージービーフ……ッ!?」

俺の食べたい物ランキングで、燦然と一位に輝く憧れのオージービーフ(赤身の安い方)のステーキで、夏輝が俺を引き留めようとする。でも、もう大人の階段を昇った俺は、オージービーフのステーキにも揺らがないんだ。

「もう、いいよ。文太と一緒に仲良く暮らせよ。夏輝はもう、俺がいなくてもやっていけるだろ。短い間だったけど、お世話になりました。ありがとう、夏輝。」

「ナイトは?……俺がいなくてもナイトは一人で眠れるの?平気なの?」

俺は黙って、夏輝を見つめていた。一人で眠れるかどうかなんて、寝てみなきゃわかんないじゃないか。

「……八つ当たりしてごめんよ、ナイト。俺がばかだったんだ。だって、ナイトがそんな可愛い子になってるって思わなかったし。俺、文太の恋人だと勘違いして、ナイトにやきもち焼いたんだ。本当にごめん。」

『何言ってんだ。俺、夏輝より綺麗な人間って、見たことないぞ。』←ナイトの心の声。

「ナイト……。お願いだから、帰ってき……て。お前がいたから、俺、文太にも気持ち伝えられたし、ナイトがいないと俺……本当に寂しい。お願いだから……俺と一緒に居てくれ。ナイト……。謝るから。俺を許してくれよ……。」

俺の「おひさまのふとん」が、その場にうずくまって俺の為に泣いていた。何度も繰り返し、行かないでくれと、俺の名前を呼ぶ。
俺がいないと、どうしていいかわからないって。全く、しょうがねぇなぁ…俺の夏輝ってば。俺がいないと一人じゃいられないんだな。

「……じゃあ。メープルシロップ塗った指、吸っても……いい?」

「いいよ。一晩中、ふやけるまで舐めてもいい。」

「嫌がらせに、ばんそうこう卷いたり、練辛子塗ったりしない?」

「もうしない。げんまんする。」

ほら…と言って、夏輝が突きだした人差し指に、俺は飛びついた。

「きゃあ~っ!!」

ぽんっ!

夏輝の腕の中で、うんとちびの小犬の姿に戻った俺は、夏輝の指をちゅう~っと吸った。
寝不足だった俺は、あっという間に夏輝の指の魔力に落ちて、夢の世界に落ちてゆく。

人型に変身した父ちゃんが、息子をよろしく頼みます、と頭を下げたと後から夏輝に聞いた。






▼・ェ・▼夏輝ってば、俺がいないと泣いちゃうからな。一宿一飯の恩義もあるし。

今回も表紙風です。
デジ絵描くの楽しいです。(`・ω・´)←小説も。
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