わんことおひさまのふとん 11
人型になったら何でもできると思っていたのに、余りの無力に打ちのめされて、俺は鳴いた。
声を殺して泣いていたが、いつしか嗚咽が漏れた。
「うっ……う、うわあぁ~~~ん……。」
「うわ……おい……。何だ、何だ……?」
傍目には文太がふわふわした恋人を、宥めてる風に見えているんだろう。遠巻きに人が見ていた。
「よしよし。大丈夫だからな。」
文太は夏輝と違った汗臭い腕で、俺をぎゅっとした。
心から俺を心配している優しい気持ちが流れ込んできて、その時俺は夏輝がどうしてこいつの事を泣くほど好きなのかわかったような気がした。文太はきっと人間には珍しく、相手の気持ちに寄り添える奴なんだ。
俺の、ふわふわの毛の中に(髪の毛)、手ぬぐいで拭っただけの汚い手を突っ込んで、文太はがしがしと混ぜる。
夏輝、おまえの人を見る目は正しいよ……。ちゃんと気持ちが通じるといいな。
くん……、夏輝の匂い……?
鼻をすすって顔を上げたら、目を見開いて蒼白になった夏輝がそこにいた。
俺の「おひさまのふとん」夏輝。
そうだった、俺、夏輝の為に文太との仲を取り持つために人型になったんだ……。
「文太……そんな人がいたんだ……。」
強張った顔が、俺を見つめていた。
「夏輝。もうすぐ上るから待ってろよ。一緒にナイト捜すからさ。」
「もう……、いいよ。ナイトは、俺一人で捜すから。あの……知らなくて、これまで迷惑かけて……ごめん……。俺、一人で平気だから。」
「何言ってんだ?」
「だって、泣いてるじゃないか……。俺のことは良いから、その子といてあげて……っ!」
夏輝は振り絞るように告げると、ものすごい勢いで、俺と文太の前から走って行った。
「あ!おい、夏輝ってば!ナイトいないままなんだろっ!待てって!」
文太はちらりと、傍で鼻を鳴らしている俺を見た。
「……くそっ、夏輝、誤解しやがったな。」
「誤解……?」
「ああ、あいつはすごく気を回すんだ。言いたいことも言わないし、我慢ばっかりなんだ。俺はもうずいぶん長いこと、あいつが素直になるのを待ってるんだけどな。」
見上げた俺の鼻をきゅと摘まんで、文太は何故だかほんの少し悲しそうだった。
「どうせ、またどっかでめそめそしてるんだろうなぁ……。勝手に誤解して、あの馬鹿。」
俺は夏輝の走ってゆく前の言葉を考えていた。
『あの……知らなくて、迷惑かけて…ごめん…。……泣いてるじゃない…その子と、いてあげて……っ。』
泣いてるじゃないって言いながら、泣いてたのは夏輝だった。
ちょっと、待て。夏輝ってば何かおかしいぞ。何で夏輝が泣くんだ?俺、夏輝に笑ってもらうために人型わんこになったのに。
「夏輝っ!」
俺は直ぐに夏輝の匂いを辿って、必死に駆けた。
夏輝。俺が夏輝を泣かせたなんて。最悪だ。
俺が人間の体が欲しかったのは、夏輝に笑ってもらうためだった。俺は匂いを追って懸命に走りだした。
夏輝を泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったのにどうしてこんなことになってしまったんだろう。
「あっ、ちょっと待てって。」
俺は文太に捕まった。
「お前、あいつを知ってるみたいだけど、夏輝の何なの?」
「な……にって?おれ……」
どうして?俺の事わからないの?うそだ……。
俺、夏輝の気持ち文太に伝えたかったから、白狐さまに人間にしてくださいって頼んだんだよ。
「うりゅ……。」
「泣くなよ。男だろ……(たぶん)。」
「う……ん。」
「それにしても……この白いふわふわ。なんか、どこかで会った気がするんだよなぁ……。どこかで会ったっけ?」
文太はそういって、しげしげと人型の俺を見つめ、俺は困っていた。
もじもじしたら、足首の首輪の鈴がちりんと鳴り、気が付いた文太はますます俺をじっと見つめる。
「赤い首輪、ふわふわの毛、まさか……ナイト?」
「そうだよっ!」
「ええーーーーっ!?」
驚く文太を背後にして、一言だけ叫ぶと俺は駆けだした。
早くしないと夏輝の匂いが薄くなる。
俺の「おひさまのふとん」夏輝は、すごく悲しそうな顔をして俺の前から消えたのだった。夏輝。どこにいるんだ!?
・°・(ノД`)・°……おれが夏輝を泣かせたなんて……まじ、ショック。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
励みになっています。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
声を殺して泣いていたが、いつしか嗚咽が漏れた。
「うっ……う、うわあぁ~~~ん……。」
「うわ……おい……。何だ、何だ……?」
傍目には文太がふわふわした恋人を、宥めてる風に見えているんだろう。遠巻きに人が見ていた。
「よしよし。大丈夫だからな。」
文太は夏輝と違った汗臭い腕で、俺をぎゅっとした。
心から俺を心配している優しい気持ちが流れ込んできて、その時俺は夏輝がどうしてこいつの事を泣くほど好きなのかわかったような気がした。文太はきっと人間には珍しく、相手の気持ちに寄り添える奴なんだ。
俺の、ふわふわの毛の中に(髪の毛)、手ぬぐいで拭っただけの汚い手を突っ込んで、文太はがしがしと混ぜる。
夏輝、おまえの人を見る目は正しいよ……。ちゃんと気持ちが通じるといいな。
くん……、夏輝の匂い……?
鼻をすすって顔を上げたら、目を見開いて蒼白になった夏輝がそこにいた。
俺の「おひさまのふとん」夏輝。
そうだった、俺、夏輝の為に文太との仲を取り持つために人型になったんだ……。
「文太……そんな人がいたんだ……。」
強張った顔が、俺を見つめていた。
「夏輝。もうすぐ上るから待ってろよ。一緒にナイト捜すからさ。」
「もう……、いいよ。ナイトは、俺一人で捜すから。あの……知らなくて、これまで迷惑かけて……ごめん……。俺、一人で平気だから。」
「何言ってんだ?」
「だって、泣いてるじゃないか……。俺のことは良いから、その子といてあげて……っ!」
夏輝は振り絞るように告げると、ものすごい勢いで、俺と文太の前から走って行った。
「あ!おい、夏輝ってば!ナイトいないままなんだろっ!待てって!」
文太はちらりと、傍で鼻を鳴らしている俺を見た。
「……くそっ、夏輝、誤解しやがったな。」
「誤解……?」
「ああ、あいつはすごく気を回すんだ。言いたいことも言わないし、我慢ばっかりなんだ。俺はもうずいぶん長いこと、あいつが素直になるのを待ってるんだけどな。」
見上げた俺の鼻をきゅと摘まんで、文太は何故だかほんの少し悲しそうだった。
「どうせ、またどっかでめそめそしてるんだろうなぁ……。勝手に誤解して、あの馬鹿。」
俺は夏輝の走ってゆく前の言葉を考えていた。
『あの……知らなくて、迷惑かけて…ごめん…。……泣いてるじゃない…その子と、いてあげて……っ。』
泣いてるじゃないって言いながら、泣いてたのは夏輝だった。
ちょっと、待て。夏輝ってば何かおかしいぞ。何で夏輝が泣くんだ?俺、夏輝に笑ってもらうために人型わんこになったのに。
「夏輝っ!」
俺は直ぐに夏輝の匂いを辿って、必死に駆けた。
夏輝。俺が夏輝を泣かせたなんて。最悪だ。
俺が人間の体が欲しかったのは、夏輝に笑ってもらうためだった。俺は匂いを追って懸命に走りだした。
夏輝を泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったのにどうしてこんなことになってしまったんだろう。
「あっ、ちょっと待てって。」
俺は文太に捕まった。
「お前、あいつを知ってるみたいだけど、夏輝の何なの?」
「な……にって?おれ……」
どうして?俺の事わからないの?うそだ……。
俺、夏輝の気持ち文太に伝えたかったから、白狐さまに人間にしてくださいって頼んだんだよ。
「うりゅ……。」
「泣くなよ。男だろ……(たぶん)。」
「う……ん。」
「それにしても……この白いふわふわ。なんか、どこかで会った気がするんだよなぁ……。どこかで会ったっけ?」
文太はそういって、しげしげと人型の俺を見つめ、俺は困っていた。
もじもじしたら、足首の首輪の鈴がちりんと鳴り、気が付いた文太はますます俺をじっと見つめる。
「赤い首輪、ふわふわの毛、まさか……ナイト?」
「そうだよっ!」
「ええーーーーっ!?」
驚く文太を背後にして、一言だけ叫ぶと俺は駆けだした。
早くしないと夏輝の匂いが薄くなる。
俺の「おひさまのふとん」夏輝は、すごく悲しそうな顔をして俺の前から消えたのだった。夏輝。どこにいるんだ!?
・°・(ノД`)・°……おれが夏輝を泣かせたなんて……まじ、ショック。
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