わんことおひさまのふとん 12
夏輝は泣きたい気持ちを堪えて、俺のことを一生懸命、街中捜し回っていたらしい。
「すみません。黄色っぽい白い毛がふわふわしたこんな小犬、見かけませんでしたか?耳の上に茶色のメッシュが入ってるんです。猫用の、鈴の付いた細い赤い首輪してるんです。」
「さあ……。見かけなかったわねぇ。」
「見たことないなぁ。」
「そうですか。足を止めてすみません。ありがとうございました。」
いつも一緒に歩いた駅周辺や、スーパーの入り口で、夏輝は自分で描いた俺の似顔絵を持って、見知らぬ人に懸命に声を掛けていた。
……つか、似顔絵……似てね~……
「すみません。黄色っぽい白い毛がふわふわした小犬なんですけど……まだ一ヶ月くらいの……」
「知らないわ。このあたりで小犬は見たことないわ。」
「すみません……。」
延々と繰り返される様子を俺は見つめていた。
目からでた水が壊れた蛇口みたいにぽたぽたと溢れてきて、俺の顔を濡らしていた。
「ねぇ、あれってお前のことなんじゃね~の?あいつ、お前の飼い主だろう?」
誰かが俺の顔をひょいと覗き込んだ。
薄く、覚えのある猫の匂いがする。
「う……ん。そうみたい。夏輝、俺の事捜し……てる。」
「大きなお世話かもしれないけどさ、ぴ~ぴ~泣いてないで、あいつのところ行った方が良いと思うよ。何かあいつ真っ青で、今にも倒れそうじゃん。」
「う……うん。」
人型猫はぺろりと優しく労わるように、俺の涙を舐めた。
俺に話しかけてきたのは、女の子みたいだけどれっきとした雄猫で、お尻ぷりぷりのお色気むんむんのこまっちゃうな~の(死語?)感じの猫だった。誘因フェロモンがすごくて、発情期の雄猫に手籠めにされかけたところを、俺の父ちゃんが助けたという話を聞いたことがあった。
きっと、こいつの事だと思う。
確かに俺が猫だったら、ぷぷって鼻血噴いてたかもしれない位の美形猫だった。
白狐さまに人型にしてもらったという人型猫は、俺の欲しかった答えをくれた。
夏輝が泣いたら俺も悲しくなる。文太と呼んで泣いてるときだって、俺はいつも寢たふりしていたけど胸の中ではどしゃぶりの涙が降ってた。
「ねぇ、あの飼い主さんの事、大好きなんでしょう?」
「お、俺。ぱんのみみよりも、夏輝がいっとう好きだ……。」
「じゃあ、早く行かなきゃ。人間には動物みたいに見つめ合っただけで心が通じ合うなんて、高等手段はないの。面倒くさくても、ちゃんと言葉で言わなきゃわかんないんだよ。」
「うん、ありがと~。俺、頑張ってみる。」
そうだよ。ちゃんと伝えなきゃ。
俺はそれから勇気を出して、周囲の人に声を掛け続ける夏輝の元へと足を進めた。
「すみません。たんぽぽみたいな白い毛が、ふわふわした小犬なんですけど……」
「夏輝……。」
「……文太と一緒に居た子。……何?……何か用?文太に何か言われてきたの?」
「夏輝。俺……家出したわけじゃないんだ。」
夏輝は俺に向かって、俺の知らない冷ややかな目を向けた。
「何言ってるのかわからないよ?文太を探しているんなら、お門違いだよ。見ればわかるでしょ、俺は今忙しいし君の尋ね人はここにはいない。邪魔だからさっさと向こうに行ってくれないかな?」
「あの、夏輝……?」
「気安く、俺の名を呼ぶな!良いから、向こうに行けよ!」
「夏輝……」
「俺にかまうなって言ってるだろう!行けったら。君なんか、知らない!」
俺は思いがけなく刺々しい夏輝の言葉に、その場に立ちすくんでいた。
そこにいたのは、いつも俺に優しい顔でたまごかけごはんを半分こしてくれる、俺の夏輝じゃなかった。
強張ってゆく俺の頬……。どくんと、心臓が跳ねた。
「あの……あのね、夏輝が描いた似顔絵。これ、俺の顔……?」
「触るなっ!」
夏輝は似顔絵に手を伸ばした俺の手を、バシッと叩いた。
向けられたきつい視線が、全身でおれを拒絶している。
「夏……輝……。」
胸に重石が乗せられたようで、苦しくなる。ひくっと、嗚咽が漏れた。
俺の「おひさまのおふとん」……どうして……?
「おひさまのおふとん」が突然、冷たい北風に吹かれてしまった。
夏輝は、わんこの俺が好きなだけで、人型になった俺のことは嫌いなんだ。
俺は人型になって、夏輝に笑ってもらうために文太に近付いたのに、夏輝は俺のことが分からないんだ。俺は今わんこじゃないから、夏輝の傍にいちゃいけないんだ。
どんなに好きでも、嫌われてしまったら……俺には傍にいる勇気何てない。
夏輝は俺の方を見もせず、背中を向けたまま黙りこくって俺を拒否した。
「お……俺……。……わぁ~ん……」
俺はその場から走って逃げた。
悲しくて、悲しくて、胸が張り裂けそうだった。
・°・(ノД`)・°……おれ、夏輝にきらわれちゃった…え~ん。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
励みになっています。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
此花、お絵かき練習中です。
わんこのナイトがとぼとぼと、悲しみをこらえながら白狐さまのところに戻ってきた場面です。
かわいそうにねぇ…←書いといて。
「夏輝…くすん。」
「すみません。黄色っぽい白い毛がふわふわしたこんな小犬、見かけませんでしたか?耳の上に茶色のメッシュが入ってるんです。猫用の、鈴の付いた細い赤い首輪してるんです。」
「さあ……。見かけなかったわねぇ。」
「見たことないなぁ。」
「そうですか。足を止めてすみません。ありがとうございました。」
いつも一緒に歩いた駅周辺や、スーパーの入り口で、夏輝は自分で描いた俺の似顔絵を持って、見知らぬ人に懸命に声を掛けていた。
……つか、似顔絵……似てね~……
「すみません。黄色っぽい白い毛がふわふわした小犬なんですけど……まだ一ヶ月くらいの……」
「知らないわ。このあたりで小犬は見たことないわ。」
「すみません……。」
延々と繰り返される様子を俺は見つめていた。
目からでた水が壊れた蛇口みたいにぽたぽたと溢れてきて、俺の顔を濡らしていた。
「ねぇ、あれってお前のことなんじゃね~の?あいつ、お前の飼い主だろう?」
誰かが俺の顔をひょいと覗き込んだ。
薄く、覚えのある猫の匂いがする。
「う……ん。そうみたい。夏輝、俺の事捜し……てる。」
「大きなお世話かもしれないけどさ、ぴ~ぴ~泣いてないで、あいつのところ行った方が良いと思うよ。何かあいつ真っ青で、今にも倒れそうじゃん。」
「う……うん。」
人型猫はぺろりと優しく労わるように、俺の涙を舐めた。
俺に話しかけてきたのは、女の子みたいだけどれっきとした雄猫で、お尻ぷりぷりのお色気むんむんのこまっちゃうな~の(死語?)感じの猫だった。誘因フェロモンがすごくて、発情期の雄猫に手籠めにされかけたところを、俺の父ちゃんが助けたという話を聞いたことがあった。
きっと、こいつの事だと思う。
確かに俺が猫だったら、ぷぷって鼻血噴いてたかもしれない位の美形猫だった。
白狐さまに人型にしてもらったという人型猫は、俺の欲しかった答えをくれた。
夏輝が泣いたら俺も悲しくなる。文太と呼んで泣いてるときだって、俺はいつも寢たふりしていたけど胸の中ではどしゃぶりの涙が降ってた。
「ねぇ、あの飼い主さんの事、大好きなんでしょう?」
「お、俺。ぱんのみみよりも、夏輝がいっとう好きだ……。」
「じゃあ、早く行かなきゃ。人間には動物みたいに見つめ合っただけで心が通じ合うなんて、高等手段はないの。面倒くさくても、ちゃんと言葉で言わなきゃわかんないんだよ。」
「うん、ありがと~。俺、頑張ってみる。」
そうだよ。ちゃんと伝えなきゃ。
俺はそれから勇気を出して、周囲の人に声を掛け続ける夏輝の元へと足を進めた。
「すみません。たんぽぽみたいな白い毛が、ふわふわした小犬なんですけど……」
「夏輝……。」
「……文太と一緒に居た子。……何?……何か用?文太に何か言われてきたの?」
「夏輝。俺……家出したわけじゃないんだ。」
夏輝は俺に向かって、俺の知らない冷ややかな目を向けた。
「何言ってるのかわからないよ?文太を探しているんなら、お門違いだよ。見ればわかるでしょ、俺は今忙しいし君の尋ね人はここにはいない。邪魔だからさっさと向こうに行ってくれないかな?」
「あの、夏輝……?」
「気安く、俺の名を呼ぶな!良いから、向こうに行けよ!」
「夏輝……」
「俺にかまうなって言ってるだろう!行けったら。君なんか、知らない!」
俺は思いがけなく刺々しい夏輝の言葉に、その場に立ちすくんでいた。
そこにいたのは、いつも俺に優しい顔でたまごかけごはんを半分こしてくれる、俺の夏輝じゃなかった。
強張ってゆく俺の頬……。どくんと、心臓が跳ねた。
「あの……あのね、夏輝が描いた似顔絵。これ、俺の顔……?」
「触るなっ!」
夏輝は似顔絵に手を伸ばした俺の手を、バシッと叩いた。
向けられたきつい視線が、全身でおれを拒絶している。
「夏……輝……。」
胸に重石が乗せられたようで、苦しくなる。ひくっと、嗚咽が漏れた。
俺の「おひさまのおふとん」……どうして……?
「おひさまのおふとん」が突然、冷たい北風に吹かれてしまった。
夏輝は、わんこの俺が好きなだけで、人型になった俺のことは嫌いなんだ。
俺は人型になって、夏輝に笑ってもらうために文太に近付いたのに、夏輝は俺のことが分からないんだ。俺は今わんこじゃないから、夏輝の傍にいちゃいけないんだ。
どんなに好きでも、嫌われてしまったら……俺には傍にいる勇気何てない。
夏輝は俺の方を見もせず、背中を向けたまま黙りこくって俺を拒否した。
「お……俺……。……わぁ~ん……」
俺はその場から走って逃げた。
悲しくて、悲しくて、胸が張り裂けそうだった。
・°・(ノД`)・°……おれ、夏輝にきらわれちゃった…え~ん。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
励みになっています。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
此花、お絵かき練習中です。
わんこのナイトがとぼとぼと、悲しみをこらえながら白狐さまのところに戻ってきた場面です。
かわいそうにねぇ…←書いといて。
「夏輝…くすん。」
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