わんことおひさまのふとん 10
目が覚めたらすっぽんぽんの足首に、夏輝が俺に買ってくれた、鈴の付いた紅い首輪が付いていた。
「猫用だけど、ナイトにはこの色が似合うから、これでもいいよな?」
「わん~っ。」
ホームセンターのお姉さんが、俺たちのやり取りを聞いて、うふふ、会話してるみたい、可愛いと笑っていた。
……そうだ、夏輝!
うっかり気持ちが良くて、忘れるところだった。一宿一飯の恩義を果たすために、俺はここへ来たんだ。
「夏輝―――っ!」
俺は一目散に荼枳尼神社を後にした。
その頃、いなくなった俺を探して夏輝があちこち走り回っているとも知らないで……。
早く文太に会わなくちゃ。
文太に逢って夏輝が、文太の事をどれほど大好きか伝えてやるんだ。
本当は、好きな奴への告白は自分でするのが一番いいはずなんだけど、俺はその時初めての人間の身体に舞い上がっていたんだと思う。
四足で走った方がはるかに速いと思いながら、俺はぎこちなく二本足で急いだ。
白狐さまが着せてくれた服も、できるなら全部脱いで、四足で走りたかった。
駅前の道路工事現場で、文太が資材運びのバイトをしているのは知っていた。
「ふけいき」で、文太も夏輝も「しおくり」が減って大変だという話は、この間ペンキ塗りの後二人がしてた。
だから、ホットケーキは特別なんだ。
頭にタオルを巻いて、黒タンクになんだかぱたぱたしたズボンをはいた文太を見つけて、俺はぶんぶんと手を振った。
「ブンターーー!ヨカッタ、サガシタヨーー!」
何だ、この言葉……。帰国子女……?
この身体って、片言しか話せないじゃん。使えねぇ……。
しかも、なぜか周囲にたちまち人だかりが出来てしまった。
「おう~、綺麗な兄ちゃんだなぁ……」
「ねぇ、あんたモデルなの?撮影中?カメラどこなの?一緒に写メ撮っていい?」
「日本語話せますか。 OK?モデルになる気はありませんか?」
ちょっと~!白狐さまいろいろ間違ってるよ~!
俺、人間になったら父ちゃんみたいな苦み走った渋いタイプの男になるはずだったのに、白いふわふわ(イメージ)になってるし、なんか言葉が変な片言になってるし。
「遊びに行こうぜ、兄ちゃん。」
「驕ってやってもいいぜ、その代わり一緒に朝まで遊ぼうぜ。」
「ちょっと、叔父さんたち。知り合いじゃないでしょ。」
「ワォ。メス……コワイ。ヨラナイデ。」
得体の知れない輩に囲まれて、俺は片言で騒いでいた。何だか発音が難しい……。
「ハナシテ、アッチイッテ。」
「そうだよ、俺らと遊ぶんだよな~。」
「ブンタ、ハナシアルヨ~!」
「そうか、俺らが好きか。よっしゃ、朝までやりまくるぜ~!」
「ヤリマクルッテ、ナンノコト?」
「行こうぜ、綺麗ちゃん。」
「アッ!」
引っ張られて、上に着ていた薄物が奪われた。
「ヤダーーーッ!!」
これって、まじで貞操の危機ってやつ……?
人型になったから、港ごとに女がいる父ちゃんみたいに、フェロモンがだだ漏れしているんだろうか。危険がアブナイ。色々、ぴんち。
俺は、涙目になりながら周囲の人間をかき分け、力いっぱい叫んだ。
「タスケテ、ブンター!ブンター!」
気が付いた文太が、頭のタオルを投げ捨てて走って来た。
ひらりとガードレールを飛び越える。
「てめぇら、いたいけな外人さんに何やってんだよ。それでも、日本国民かよ。泣いてるじゃないか。」
俺を庇って立ちふさがった文太の背中に、俺は思わず縋った。
この、弱っちい身体だと威嚇する犬歯もないし、走って逃げることもかなわないんだ。
まじ、不自由なんですけど。
「文太ぁ……」
あ。ちゃんと、言えた。
「突然やってきて、横から何言ってんだ、兄ちゃん。」
「そうよ、あたしたちが先に見つけたんですからね。」
「こっちに渡して貰おうか、威勢のいい兄ちゃん。」
しつこく俺を連れて行こうとする奴らに、文太は凛々しく告げた。
「あ~、もう、仕方ねぇなあ。」
「いいか。こいつと俺はできてんだよ。一緒に風呂入る間柄なの。な?俺のことを迎えに来たんだよな。」
俺は必死で頷いた。
……嘘じゃないし!一緒にお風呂、入ったことあるし!写真も一緒に撮ったし!
「それにさ、あそこにいる工事中の関係者、みんな、こっちの様子うかがってるけど、呼んでもいいのか?俺の連れ多いぜ。」
道路向こうの文太の仕事仲間が赤銅色の太い腕を、ぶんぶん振って加勢しようか~と叫んでいた。手にはつるはしと、電動掘削機を持って。
だったら、はなっからそう言えよ~、バカ~と、嘘ぶきながら無頼の輩たちは消えた。
「文太……。」
「なんだ、俺の名前知ってるのか。」
「うん。……文太……。あのね、話があるの。」
夏輝はお前のこと、本当に好きなんだ……って一番に告げるはずだった。
夏輝は毎日寝る前に、お前の名前呼びながら、前のおしっぽ握り締めて泣くほど好きなんだ。
……本当はそう言いたかったけど、さっきの奴らに連れて行かれそうになって、何もできなかった自分が悔しくて俺はその場にしゃがみ込んで……声を殺して泣いた。
白狐さまにせっかく人間の体を貰っても、俺の中身はちびの子犬だった。
夏輝の指を吸いながらじゃないと眠れない、まだおっぱいを夢見るちっぽけな奴でしかなかった。
「え~ん……。」
▼・ェ・▼……おれ、とうちゃんに似ているはずだったのに~……。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
励みになっています。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
お礼の代わりに、此花絵をかきました。(`・ω・´)
白狐さまです。色っぽく見えたらうれしいです。
どぞ。
ご覧になってください。
頑張ったので、アップも見てね。ヽ(*⌒▽⌒*)ノ
「猫用だけど、ナイトにはこの色が似合うから、これでもいいよな?」
「わん~っ。」
ホームセンターのお姉さんが、俺たちのやり取りを聞いて、うふふ、会話してるみたい、可愛いと笑っていた。
……そうだ、夏輝!
うっかり気持ちが良くて、忘れるところだった。一宿一飯の恩義を果たすために、俺はここへ来たんだ。
「夏輝―――っ!」
俺は一目散に荼枳尼神社を後にした。
その頃、いなくなった俺を探して夏輝があちこち走り回っているとも知らないで……。
早く文太に会わなくちゃ。
文太に逢って夏輝が、文太の事をどれほど大好きか伝えてやるんだ。
本当は、好きな奴への告白は自分でするのが一番いいはずなんだけど、俺はその時初めての人間の身体に舞い上がっていたんだと思う。
四足で走った方がはるかに速いと思いながら、俺はぎこちなく二本足で急いだ。
白狐さまが着せてくれた服も、できるなら全部脱いで、四足で走りたかった。
駅前の道路工事現場で、文太が資材運びのバイトをしているのは知っていた。
「ふけいき」で、文太も夏輝も「しおくり」が減って大変だという話は、この間ペンキ塗りの後二人がしてた。
だから、ホットケーキは特別なんだ。
頭にタオルを巻いて、黒タンクになんだかぱたぱたしたズボンをはいた文太を見つけて、俺はぶんぶんと手を振った。
「ブンターーー!ヨカッタ、サガシタヨーー!」
何だ、この言葉……。帰国子女……?
この身体って、片言しか話せないじゃん。使えねぇ……。
しかも、なぜか周囲にたちまち人だかりが出来てしまった。
「おう~、綺麗な兄ちゃんだなぁ……」
「ねぇ、あんたモデルなの?撮影中?カメラどこなの?一緒に写メ撮っていい?」
「日本語話せますか。 OK?モデルになる気はありませんか?」
ちょっと~!白狐さまいろいろ間違ってるよ~!
俺、人間になったら父ちゃんみたいな苦み走った渋いタイプの男になるはずだったのに、白いふわふわ(イメージ)になってるし、なんか言葉が変な片言になってるし。
「遊びに行こうぜ、兄ちゃん。」
「驕ってやってもいいぜ、その代わり一緒に朝まで遊ぼうぜ。」
「ちょっと、叔父さんたち。知り合いじゃないでしょ。」
「ワォ。メス……コワイ。ヨラナイデ。」
得体の知れない輩に囲まれて、俺は片言で騒いでいた。何だか発音が難しい……。
「ハナシテ、アッチイッテ。」
「そうだよ、俺らと遊ぶんだよな~。」
「ブンタ、ハナシアルヨ~!」
「そうか、俺らが好きか。よっしゃ、朝までやりまくるぜ~!」
「ヤリマクルッテ、ナンノコト?」
「行こうぜ、綺麗ちゃん。」
「アッ!」
引っ張られて、上に着ていた薄物が奪われた。
「ヤダーーーッ!!」
これって、まじで貞操の危機ってやつ……?
人型になったから、港ごとに女がいる父ちゃんみたいに、フェロモンがだだ漏れしているんだろうか。危険がアブナイ。色々、ぴんち。
俺は、涙目になりながら周囲の人間をかき分け、力いっぱい叫んだ。
「タスケテ、ブンター!ブンター!」
気が付いた文太が、頭のタオルを投げ捨てて走って来た。
ひらりとガードレールを飛び越える。
「てめぇら、いたいけな外人さんに何やってんだよ。それでも、日本国民かよ。泣いてるじゃないか。」
俺を庇って立ちふさがった文太の背中に、俺は思わず縋った。
この、弱っちい身体だと威嚇する犬歯もないし、走って逃げることもかなわないんだ。
まじ、不自由なんですけど。
「文太ぁ……」
あ。ちゃんと、言えた。
「突然やってきて、横から何言ってんだ、兄ちゃん。」
「そうよ、あたしたちが先に見つけたんですからね。」
「こっちに渡して貰おうか、威勢のいい兄ちゃん。」
しつこく俺を連れて行こうとする奴らに、文太は凛々しく告げた。
「あ~、もう、仕方ねぇなあ。」
「いいか。こいつと俺はできてんだよ。一緒に風呂入る間柄なの。な?俺のことを迎えに来たんだよな。」
俺は必死で頷いた。
……嘘じゃないし!一緒にお風呂、入ったことあるし!写真も一緒に撮ったし!
「それにさ、あそこにいる工事中の関係者、みんな、こっちの様子うかがってるけど、呼んでもいいのか?俺の連れ多いぜ。」
道路向こうの文太の仕事仲間が赤銅色の太い腕を、ぶんぶん振って加勢しようか~と叫んでいた。手にはつるはしと、電動掘削機を持って。
だったら、はなっからそう言えよ~、バカ~と、嘘ぶきながら無頼の輩たちは消えた。
「文太……。」
「なんだ、俺の名前知ってるのか。」
「うん。……文太……。あのね、話があるの。」
夏輝はお前のこと、本当に好きなんだ……って一番に告げるはずだった。
夏輝は毎日寝る前に、お前の名前呼びながら、前のおしっぽ握り締めて泣くほど好きなんだ。
……本当はそう言いたかったけど、さっきの奴らに連れて行かれそうになって、何もできなかった自分が悔しくて俺はその場にしゃがみ込んで……声を殺して泣いた。
白狐さまにせっかく人間の体を貰っても、俺の中身はちびの子犬だった。
夏輝の指を吸いながらじゃないと眠れない、まだおっぱいを夢見るちっぽけな奴でしかなかった。
「え~ん……。」
▼・ェ・▼……おれ、とうちゃんに似ているはずだったのに~……。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
励みになっています。
ご意見ご感想お待ちしております。 此花咲耶
お礼の代わりに、此花絵をかきました。(`・ω・´)
白狐さまです。色っぽく見えたらうれしいです。
どぞ。
ご覧になってください。
頑張ったので、アップも見てね。ヽ(*⌒▽⌒*)ノ
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