わんことおひさまのふとん 6
俺は一目散に霊験あらたかな白狐さまの「荼枳(だき)尼(に)神社」に走った。
夏輝、待ってて。
お前が大好きな文太に何も言えないで、毎日泣いているのを俺は知っている。
せめて、文太に夏輝の気持ちを代わりに伝えてやりたいと思った。
これが、一宿一飯の世話になった俺の漢気だぜ。
全速力で駆けた町はずれの寺の境内には、「荼枳尼神社」の祠があるはずなのだ。
「あれ?……祠ってどんなのだっけ……。」
境内を走り回ったけど、ちゃんと猫たちに聞かなかったから、祠というのがどういうものなのかよくわからなかった。赤い鳥居の奥に、おれは入って行った。
「……あ、やべ。」
おしっこしたくなっちゃった。
俺は、まだ乳離れも済んでないチビなので、片足上げておしっこという大人の階段はまだ上がれていない。奥ゆかしいタイプなので、隅のほうでお座りで用を足した。
じょおぉぉ~……←お食事中の方、ごめんね。
「この慮外者めが!」
脳天を直撃する轟音が頭上から響き、俺は用を足しながらあわあわと後ずさりし、おしっこで線を描いた。
「仔犬。その方、これが我の住処と知っての狼藉か?」
「あわゎ……白狐さまだ……。」
余りのど迫力に、おっきいほうもちょっとだけ、ちびってしまった。やべっ……。
一目で荼枳尼天の神使、白狐さまと分かる神々しいまでのお姿に、俺は畏怖し震えていた。
どうやらこの方が、祠に封印されているらしい。
艶のあるきらきらとした絹糸のような銀の髪、この世をすべてを知る深淵の美しい瞳。
怒っていたのだろうが、俺は、目の前に降りてきた端正な顔に思わず告げてしまった。
「……白狐さまってば、めっちゃ綺麗~。超美人さん~。」
白狐さまは一瞬、相好を崩すと、ちびったばかりの俺を抱き上げ「正直な奴め。」と、言った。
もしかすると……気をよくした……?
「そうか。お前の目には、そう見えるか?」
俺は必死に肯いた。
「だれだって思うよ!」
「俺。祠に封印されたらしいって話を聞いて、何か悪さをした意地悪ないけずなやつかと思っていたの。こんなに、若くてぴちぴちで綺麗な白狐さまだと思わなかった。」
「そうか、ぴちぴちか。」
「愛されゆるふわ系~。」
「うふふ。」
白狐さまは多分上機嫌になったのだろう。俺が願いごとが有って来たのを知ると「仔犬、そなたの願いをかなえてやるぞ。」と、言って来た。
「まじで?」
「まじで。本日限りの出血大サービスでっす。」
「きゃあ~!白狐さま~の太っ腹~。」
俺は祠の白狐さまに、一生懸命お願い事をした。
俺を寒い日に拾い上げてくれた大切な「おひさまのおふとん」が毎日泣いていること。
一宿一飯の恩義を果たすために、俺は夏輝の為に一肌脱ぎたいんだと必死に告げた。
夏輝の役に立つためには、どうしても人間になるしかないんだ。だって俺には、人間の言葉がわかるけど話せない。夏輝も俺の言葉がわからない。
俺は潤んだ瞳で白狐さまを、上目づかいで見た。
夏輝と文太が、こうすると殺人的に可愛いといつも言うから、ちょっとは効き目あるかな。白狐さまはちょっと目を逸らし、印を結んで呪文(九字護身法)の九字を切った。
目の前が真っ白になってゆく。
消えゆく意識の中で俺は一生懸命俺の「おひさまのおふとん」のことだけを考えていた。
俺は粘土になって、あちこち引っ張りまわされて引き伸ばされてゆく。
身体中が痛い……。
お願い、白狐さま。
出血サービスしてくれるなら、もうちょっと優しくして。
「かあちゃん~……とうちゃ~ん……」
俺の意識は、闇に呑まれた。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
ご意見感想お待ちしております。 此花咲耶
夏輝、待ってて。
お前が大好きな文太に何も言えないで、毎日泣いているのを俺は知っている。
せめて、文太に夏輝の気持ちを代わりに伝えてやりたいと思った。
これが、一宿一飯の世話になった俺の漢気だぜ。
全速力で駆けた町はずれの寺の境内には、「荼枳尼神社」の祠があるはずなのだ。
「あれ?……祠ってどんなのだっけ……。」
境内を走り回ったけど、ちゃんと猫たちに聞かなかったから、祠というのがどういうものなのかよくわからなかった。赤い鳥居の奥に、おれは入って行った。
「……あ、やべ。」
おしっこしたくなっちゃった。
俺は、まだ乳離れも済んでないチビなので、片足上げておしっこという大人の階段はまだ上がれていない。奥ゆかしいタイプなので、隅のほうでお座りで用を足した。
じょおぉぉ~……←お食事中の方、ごめんね。
「この慮外者めが!」
脳天を直撃する轟音が頭上から響き、俺は用を足しながらあわあわと後ずさりし、おしっこで線を描いた。
「仔犬。その方、これが我の住処と知っての狼藉か?」
「あわゎ……白狐さまだ……。」
余りのど迫力に、おっきいほうもちょっとだけ、ちびってしまった。やべっ……。
一目で荼枳尼天の神使、白狐さまと分かる神々しいまでのお姿に、俺は畏怖し震えていた。
どうやらこの方が、祠に封印されているらしい。
艶のあるきらきらとした絹糸のような銀の髪、この世をすべてを知る深淵の美しい瞳。
怒っていたのだろうが、俺は、目の前に降りてきた端正な顔に思わず告げてしまった。
「……白狐さまってば、めっちゃ綺麗~。超美人さん~。」
白狐さまは一瞬、相好を崩すと、ちびったばかりの俺を抱き上げ「正直な奴め。」と、言った。
もしかすると……気をよくした……?
「そうか。お前の目には、そう見えるか?」
俺は必死に肯いた。
「だれだって思うよ!」
「俺。祠に封印されたらしいって話を聞いて、何か悪さをした意地悪ないけずなやつかと思っていたの。こんなに、若くてぴちぴちで綺麗な白狐さまだと思わなかった。」
「そうか、ぴちぴちか。」
「愛されゆるふわ系~。」
「うふふ。」
白狐さまは多分上機嫌になったのだろう。俺が願いごとが有って来たのを知ると「仔犬、そなたの願いをかなえてやるぞ。」と、言って来た。
「まじで?」
「まじで。本日限りの出血大サービスでっす。」
「きゃあ~!白狐さま~の太っ腹~。」
俺は祠の白狐さまに、一生懸命お願い事をした。
俺を寒い日に拾い上げてくれた大切な「おひさまのおふとん」が毎日泣いていること。
一宿一飯の恩義を果たすために、俺は夏輝の為に一肌脱ぎたいんだと必死に告げた。
夏輝の役に立つためには、どうしても人間になるしかないんだ。だって俺には、人間の言葉がわかるけど話せない。夏輝も俺の言葉がわからない。
俺は潤んだ瞳で白狐さまを、上目づかいで見た。
夏輝と文太が、こうすると殺人的に可愛いといつも言うから、ちょっとは効き目あるかな。白狐さまはちょっと目を逸らし、印を結んで呪文(九字護身法)の九字を切った。
目の前が真っ白になってゆく。
消えゆく意識の中で俺は一生懸命俺の「おひさまのおふとん」のことだけを考えていた。
俺は粘土になって、あちこち引っ張りまわされて引き伸ばされてゆく。
身体中が痛い……。
お願い、白狐さま。
出血サービスしてくれるなら、もうちょっと優しくして。
「かあちゃん~……とうちゃ~ん……」
俺の意識は、闇に呑まれた。
ランキングを外れているのにも関わらず、お運びいただきありがとうございます。
ご意見感想お待ちしております。 此花咲耶
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