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沢木淳也・最後の日 17 

ドアホンが鳴り、木本が相手を確かめた。

「松本です。」

「ただいま戻りました。」

隼を迎えに行った松本が帰ってきた。

「ただいま、周二くん……何かあったの?」

「いや。腹減ってないか?隼。」

隼はすぐに周二の腕の中に、すっぽりと抱かれて見上げた。無垢な瞳にじっと見つめられて、思わず視線を外しそうになるが、辛うじて笑みを浮かべた。感が良すぎて、時々周二は困るが、木本が助け舟を出してくれた。強面の木本は、カフェのギャルソン風のエプロンを腰に巻き付けている。

「さぁ、ねんね。アップルパイが有りますよ。召し上がりますか?」

「アップルパイ?木本さんが作ったの?すごぉい!」

「ええ。紅玉の良いのが手に入りましたのでね。パイシートは市販のものですが、先ほど焼き上がったところです。召しあがりますか?甘さ控えめだから、周二さんも。」

「マジすごいよなぁ、木本。パティシエも逃げ出す腕前だな。」

「店の客はご婦人が多いですからね。これも店の為です。」

「本当は性に合ってんだろ?」

「このいい香りはシナモンだったんだ。樋渡会長も誘って来ればよかったなぁ……。木本さんが毎日お弁当作ってくれるから、樋渡会長もすごく幸せそうです。今日のお弁当も、おいしかったし。あのね、ぼく鳥の照り焼きすごく好き。」

「そりゃ、良かった。今度、また作ります。蒼太は今日は塾のはずですから、アップルパイは後で届けておきます。」

「ん~……みんな……ちょっと変なの。」

隼がぽつりとつぶやいた。

「……松本さん、いつも帰ってきたらすぐにぼくの服を脱がせるのに、今日はどうしたの……?「めのほよう」しないの?「さわさわ」もしないの?どうして?教えて?」

「あ……の。」

芝居のできない松本は返事が出来ず、目を泳がせてその場で固まっていた。隼の真っ直ぐな「どうして」に答える事が出来ない。
自分を置いて先に周二が帰った理由を隼は知りたがっていると、周二は理解した。

「ねんね。松本は何も知りません。実は、沢木の旦那から木本に電話が有りましてね……」

「木本、まだ言うな!」

「いずれわかることです。」

「話して、木本さん。ぼくは平気だから。」

木本はアップルパイを切り分けながら、こともなげに伝えた。

「沢木の旦那が、だれかに拉致されたようです。通話の途中で携帯が壊されました。」

「……そう。」

静まり返った空気に耐えきれず、松本がテレビのリモコンを取り上げた。画面が出ると同時に、いきなりニュース速報の硬質なチャイムが流れる。
テロップに流れた文字を見て、周二は思わずリモコンに飛びついたが、傍に居た隼の手の方が一瞬早かった。

『本日未明、○○河川敷にて、30代~40代の男性の遺体発見、連続死体遺棄事件との関わり濃厚、身元を明らかにする目立った所持品などは発見されず。』




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