純情子連れ狼 10
「で、木本。黒幕は若頭で決まりとして、誰が組長の命(タマ)を狙ったのか、わかったのか?」
「鉄砲玉はすぐに関東に逃げたみたいです。実行犯は、若頭の息がかかってる中国人マフィアのようです。若頭も、そのうちしっぽ出しますよ。表向き実行犯を探す陣頭指揮を執ってます。実行役に情報を流しているんでしょう。」
「まじかよ?狸だなぁ。自分で殺れって言っておいて、陣頭指揮かよ。見つかりそうか?」
「中国人マフィアの隠れるところってのは、関東では大体決まってますから、いずれ情報屋から場所は上がってきます。後、大阪の十三に、若頭が女にやらせている店があるんで、うちの女を入店させました。いい具合に、ホステスの募集が出てたんです。木本なら、事を起こす前に絶対新しい女なんぞ入れませんけどね。大門って男は、考えられないほど脇が甘いですね。」
「すげぇな、木本。でもメールや電話がばれたら、潜り込ませた女もやばいぞ。」
「営業メールに暗号を仕込んであります。ばれません。」
「抜け目ねぇな。」
周二は忘れかけていたが、頭脳明晰な木本はホストとしても凄腕だったりする。
すでにあの手この手を使って、情報収集に乗り出しているらしかった。木庭組は誰も若頭に面識がなく、墨花会に接点がないのがかえって動きやすかった。
「噂によると向こうの若頭って奴は、武闘派といや聞こえはいいですが、脳みそが筋肉でできてるような残念な奴らしいですから、できれば墨花の姐さんが、いっそ会長の葬儀の段取りを若頭にしろと命じてくれればいいんですけどね……さすがにそれは、難しいっすか?」
「恐らく襲われた組長は、生きるか死ぬかの瀬戸際だろうな。葬儀の段取りの話をしろと、母親に言うのはちっと酷かなと思ったが、合同葬儀の段取りを立てろと言った方が、跡目指名の信憑性があがるのは確かだな。ケツ叩くか。」
木庭組長は、リビングを出て行った。
「さすがっすよね、親父さん。あれで話が通じるんですから。」
木本はほうっと、息を吐いた。現組長の母親が、配下に義理ごと(葬儀)の段取りを命じたら、それはもう次の跡目を誰にするか、現段階で実権を握る姐が指名したも同然になる。しかも合同葬儀となると、油断した若頭が、狂喜の余りしっぽを出すと木本は踏んでいた。
「そんなんでうまくいくか?組長の容体は、組員にも伏せてるんだろう?」
「行くんですよ。まあ、見ててください。周二坊ちゃん。葬儀の段取りを振られたら、墨花会が自分の懐に転がりこんだと思って気が大きくなりますから。」
「だけど、もし組長ってのが本当に命がやばいんなら、そう言う話を母親にするってのはひどくねぇか?」
「ひどい……ですか?」
木本は意外なほど静かに答えた。平和ボケした周二は話を聞いて顔色を変えた。
「……周二さん。お忘れになっちゃ困ります。木庭組は任侠稼業からは離れちゃいますけど、木本は今でも極道の端くれだと思ってます。墨花の姐さんも倅の仇が誰か判ったら、恐らく自分で始末付けるくらいの覚悟は持ってます。極道の姐(あね)と呼ばれる女の性根は、昔っからそういうもんです。今も昔も、惚れた男の仇はバシタが討つもんです。」
まだまだ自分は甘い……周二は手のひらに拳を打ち付けた。
「情けねぇ。ばあちゃんが、俺に話をしないはずだな。」
「平和に解決できれば、それに越したことはありません。実際、跡目を継ぐ時は、大概どこもきな臭いもんです。それに早く片がつかないと、墨花会はこのまま先代の葬儀も出せないまま解散です。姐さんに話をしてくれと言いましたけど、本当に合同葬儀なんてことにならないように、組長の怪我が軽いのを願うばかりです。」
「そうだな。じゃ、俺は鉄砲玉の方を当たればいいか?」
「情報屋の居場所をいくつか教えますから、周二さんは直接会って来て下さい。幸い、木庭組が動いてるなんて、向こうは思ってないでしょうから、派手に動いてもらって結構です。」
パチンコ屋、マージャン店、サウナ、スナック、焼き肉店……数件の面会場所を受け取って、周二は丸暗記した。会った証拠は決して残さない。情報屋の命は守る。それが情報屋を使う最低の決め事だった。
「合言葉は決めてあるのか?」
「こっちが先に、『おい。羽振りがいいなら、ちょっと金貸してくれねぇか。』……です。向こうが、『女房がこれなんで勘弁してください。』って、腹ボテのジェスチャーをしたらそれが情報屋です。」
周二は呆れた。
「おまえなぁ……それで、俺が恐喝してるとか思われて、通報されたらどうすんだよ?しかも、何軒回ると思ってるんだ?」
「周二さんはタッパもあるから目立ちますね。……しょっぴかれたら、沢木の旦那が大笑いしそうです。」
「笑えねぇつ~の。まあ、取りあえず行って来る。」
食えねぇ奴だと、周二は肩をすくめた。
だが、話は木本の描いた絵図に従って、面白い様に進んでゆく。どの情報屋からも、一つの同じ場所が伝えられた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
作者も、実は木本が凄腕のホスト上りということを忘れかかっていました。 ヾ(〃^∇^)ノあはは~
※出てくる団体は、あくまでも此花の想像の世界の産物です。既存の団体等とは無関係です。
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