純情子連れ狼 7
何しろ、先代同士が盃を交わしている。先代の遺言は、どちらも反故にするわけにはいかなかった。さすがに周二も、そのあたりの事は重分承知していた。
「済みません、沢木さん。このまま双葉の事預かってください。俺はひとまず家に戻って親父と話をしてきます。もしかすると、朱美とこのガキも絡んでいるのかもしれません。あいつは何も言わなかったけど、たぶん言えない何かがあるんだと思います。双葉の父親の事もきちんと聞いてきます。迷惑かけるけどお願いします。」
「周二くん。双葉ちゃんはここにいる方がきっと安心だよ。パパはおまわりさんだもん。ね、パパ。」
「そうだな。あのばあさんの知り合いだったら、余計に助けてやんねぇとな。」
「うん。」
「野獣。これだけは言っておくが、絶対に早まった真似はするなよ。ガキのお前が暴走しないようにってんで、ばあさんは赤ん坊を重石にしてお前に預けたんだ。騙された振りをして、部外者でいろ。いいな?鉄砲玉みてぇな真似すんじゃないぞ。赤ん坊を守ることだけに専念しろ。ケツの青いお前に出来るのは、それだけだ。」
「俺に信用がないのは、わかってます。俺には隼がいるから、迂闊な真似はしません。」
「わかってりゃいい。」
肯いた周二を追って、隼は玄関先に走った。
「周二くん、待って……」
「隼。巻き込んで悪いな。もしかすっと、うちの組もきな臭いことになるかもしれない。結局、双葉はサツの傍に居るのが一番安全なんだと思う。双葉を頼む。」
「だいじょうぶ。双葉ちゃんとパパと三人で待ってる。」
心細いはずなのに、隼は不安を押さえて笑顔を向けた。こんな時、周二は腕の中に納まってしまう頼りなく小さな隼が愛おしくてたまらなくなる。守ってやると言いながら、いつも周二の方が隼に支えられている気がしていた。
遠く関西で起きた抗争の仔細は分からないが、平穏な日常が揺らぐ気がする。
抱きしめた周二が、一瞬いつもと違う激しい気圧をまとったのに気が付いて、隼はさりげなく腕を巻きつけた。
「心配しないで行ってらっしゃい、周二くん。気を付けてね。帰ったら卵の入ったラーメン作ってあげる。一人で作れるようになったから、楽しみにしてて。」
「ああ……。隼がいるところが、いつだって俺の帰る所だな。」
「ぼくは、いつだって周二くんの岸壁だよ。」
戦後、岸壁で帰らぬ息子を待っていたのは年老いた母親だ、隼。それを言うなら、港じゃねぇか?
雰囲気しか伝わらないが、潤んだ瞳がたまらないぜ、隼。
甘い唇が濡れて俺を誘う。
「隼、なぁ、ちょっとだけ、さくら餅触らせろって……ん~、キス位いいだろ?」
「いや~ん……」
あれ?いつから、こんな冷たい唇に……?
「パパ、不衛生です~」
「野獣。最近は便所のスリッパにキスするのが趣味なのか?傍に、こんなに可愛い隼がいるのに。物好きだな。」
『くっ、くそ親父~~~!!てめぇ、覚えてやがれ!』
心の中で悪態を吐きながら、笑い転げる沢木と見送る隼を後に、周二は一人自宅へと戻った。
本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)
しっかりパパ沢木に釘を刺された周二です。……つか、「岸壁の母」って…… ヾ(〃^∇^)ノあはは~
隼ちゃん、やっぱり色々残念です~
※出てくる団体は、あくまでも此花の想像の世界の産物です。既存の団体等とは無関係です。
- 関連記事
-
- 純情子連れ狼 14 (2013/10/09)
- 純情子連れ狼 13 (2013/10/08)
- 純情子連れ狼 12 (2013/10/07)
- 純情子連れ狼 11 (2013/10/06)
- 純情子連れ狼 10 (2013/10/05)
- 純情子連れ狼 9 (2013/10/04)
- 純情子連れ狼 8 (2013/10/03)
- 純情子連れ狼 7 (2013/10/02)
- 純情子連れ狼 6 (2013/10/01)
- 純情子連れ狼 5 (2013/09/30)
- 純情子連れ狼 4 (2013/09/29)
- 純情子連れ狼 3 (2013/09/28)
- 純情子連れ狼 2 (2013/09/27)
- 純情子連れ狼 1 (2013/09/26)
- 純情子連れ狼 【作品概要】 (2013/09/25)