純情子連れ狼 5
先代の妾は何か知っているようだったが、双葉の事にも朱美の事にも触れようとはしなかった。小さな孫に接するようにして、隼と二人で、双葉の離乳食の話などしている。
呑気な二人を眺めながら、周二は密かに頭を抱えていた。
「ねぇ、ばあちゃん。パパが周二くんだとすると、ぼくは少しの間ママの代わりなのかな?でも、子育ては初めてだから困ったな~……預かったからには、責任があるでしょう?周二くんはお手伝いしてくれないと思うし、ちょっと、心配。」
「そうねぇ。でも、取りあえず最近は紙おむつだし、離乳食もレトルトがいっぱいあるから電子レンジで何とかなるんじゃないかい。あら、便利だよ。ミルクも一回ずつに小分けしてあるんだね。人見知りもないようだし、ぐずらなければ何とかなりそうだ。着替えも十分あるようだね。後は、育児雑誌でも読んでみるかい?」
「うん、そうする。帰りに本屋さんに寄ってみる。双葉ちゃんも、いい子だからだいじょうぶ。でもね……がんばってみるけど、困ったら電話してもいい?パパは助けてくれると思うけど、病院から帰って来たばかりだから、なるべく無理はさせたくないの。」
「いいよ。何かあったら真夜中でも電話しておいで。隼ちゃんは学校があるから、朝七時半頃には、木庭の家にあたしか店の誰かが双葉を迎えに行くからね。店があるから、夕方からは交代してくれるかい。お父さんの分も、しばらくはご飯は全部こっちで用意するからね。」
「うん、ありがとう。ばあちゃんも無理しないでね。」
「洗濯なんぞは若いものがやるだろうから、隼ちゃんは双葉の面倒だけみておくれ。それにしても、周二は双葉に嫌われたもんだね。ほら、顔を見せただけでしゃくりあげて泣きそうだ。あの分じゃ、手伝いたくても役には立たないね。」
「くそ餓鬼。何で俺の顔見て泣くんだよっ。がお~っ!」
「たぁっ。」
「いてっ!くそ餓鬼!蹴りいれやがった。まだ伝い歩きのくせに、生意気だぞ。」
何とか双葉を抱こうとしたが、ぷ~と泡を飛ばしてそっぽを向かれた周二は苛立っていた。この様子では、どうみても周二の手助けは期待できそうにない。
「うふふ~。大人げないですよ~。周二くんの抱っこは嫌なんだね。どうしてかなぁ。おいで、双葉ちゃん。」
「どうせ抱っこされるなら、双葉も可愛い方が良いんだよ。それに隼ちゃんが優しいって、赤ん坊には本能でわかるんじゃないかい?双葉は隼ちゃんが好きなんだね。」
「ぷ~ぅ♡」
周二を睨みつけた双葉が、隼を目指して満面の笑みを浮かべ、はいはいでやって来る。不思議なことに、双葉は隼から離れようとしなかった。無理に引き離して周二が抱こうとすると、エビぞりになって嫌がってしまう。足に縋って、つかまり立ちしようとするのを抱き上げた。
「きゃあ~♡」
「ぼくといこうね、双葉ちゃん。」
「本屋にも寄るんだろ?隼。重くないか?抱けるか?」
「あ、うん。」
周二は大荷物を下げた。
朱美の持って来た抱っこひも(ベビーキャリア)で、カンガルーのように胸に双葉を抱いた隼は、まるで若い母親のように見える。それから周二を伴って本屋へ行き「ひよこくらぶ」だの「はじめての育児」だの……手当たり次第、育児雑誌をカウンターに積みあげた。
双葉は周二に懐かない以外とても手のかからない子供で、隼が抱いてさえいれば、指をしゃぶりながら機嫌良くしている。眠くなっても、ぐずって困らせるようなことはなかった。
「なんで俺にこねぇんだよ、クソガキ。俺に懐けば連れて帰って木本にでも松本にでも面倒見させればいいのに、こいつ隼にべったりだな。」
「双葉ちゃんは、ぼくを好きなんです~。ね~。」
「きゃ~あ。」
「あ。笑った~。可愛い~。」
「やべぇよなぁ……もし、隼のくそ親父が俺に子供がいるなんて知ったら、ぜってぇ隼と別れろって言いだすよな。朱美も朱美だ、何でこれまで俺にひとっことも言わねぇかな。……つか、隼は俺の子供だって言われて何で動じないんだよ、漢らしすぎて、俺の方がびっくりするっつ~の。」
周二の葛藤を他所に、先を行く隼が自宅前でくるりと振り向いて、ねぇと声を掛けた。
「周二くん。双葉ちゃんは、やっぱりぼくの家にお泊りした方がいいよね?周二くんが抱っこすると泣いちゃうから連れて帰れないでしょう?」
「い……やっ!いやいや、それは駄目だ。こいつを隼が連れて帰ったら、俺がくそ親父に殺される気がする。とにかく、飯だけ届けたらそのまま俺の家にUターンするぞ。」
「それは駄目。だって、周二くんが抱っこすると泣くじゃない?パパは大丈夫だよ。」
「だから~!双葉じゃなくて、俺の方が危ないんだって。連れて行ったら、誰の子だって話になるだろ?」
「周二くんと朱美さんの子供です。(`・ω・´)」←きっぱり。
「隼。だから、それはくそ親父には言えねぇんだって。物事には何でも話す時期って言うものがあってな。」
ん~?どうして?と、隼は小首をかしげた。
「本当の事だもん、パパに嘘はつけないよ?ね~、双葉ちゃん。いこ。」
「ぷ~♡」
隼は胸の中の小さな生き物を抱きしめた。
「目が周二くんに似てるね。双葉ちゃんは、きっとかっこよくなるよ。」
「そうか?」
褒められて思わず相好を崩した周二に、隼は柔らかな笑顔を返した。
「うん。きっと、この子も周二くんの小っちゃい時みたいに我慢強いんだよ。ママが傍に居なくても泣かないもの。いい子……ん~?」
「どうした?」
「……うんちかも。」
ぷ~~ん……
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
すっかり隼になついてしまった双葉ちゃんです。
さて、パパ沢木はどう出るかな? ヾ(〃^∇^)ノあはは~
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