2ntブログ

純情子連れ狼 4 

周二には、朱美の言いたいことがわかるような気がしていた。

「好きな奴の傍に居るために、朱美にはしなきゃいけないことがあるってのか。」

「ええ。詳しくは言えないけど、そこにこの子を連れてはいけないの。ちょっと危ないの。」

「……なんだよ。参ったな。……ばあちゃん。この事、取りあえず隼には内緒にしてくれねぇか?いきなり、耳に入れるのはやべぇだろ?」

「そのつもりだっただけど、聞かれたようだよ。ほら。」

硝子障子の向こうの影が、からりと戸を開けた。

「……周二くん。」

「隼っ……あのっ、これは、あのっ。」

「朱美さん……?いつかは帰って来る?」

「ええ、必ず。おばさんにあなたたちの話を聞いて、本当は周ちゃんに頼める筋合いじゃないってわかったんだけど、他に頼める人がいなかったの。あたしの実家も木庭の家と同じで堅気じゃないから、預けるには安全とは言えないしね。ごめんなさいね。」

「この子の名前は、なんていうんですか?」

隼は這い寄って来た小さな子供を、大切そうに抱き上げた。薔薇色の頬のその子は、隼を見つめてにっこりと笑った。
「可愛い……ぷくぷくのほっぺだね、周二くん。甘い匂いがする。」

「なんだよ、くそガキ。俺には人見知り全開の癖に、隼には抱かれるのかよ。」

「双葉……フタバと言います。八か月になったところなの。この子はあなたの事、好きみたい。」

「双葉ちゃん。ぼくのこと、好き?」

「ぷ~……ふぁ~っ……。」

すりすりと頭を隼の胸にこすり付けて、双葉は小さくあくびをした。きゅっと小さな指が、隼のシャツを掴んでいた。

「朱美さん。ぼくには、お母さんがいません。いつも何となく温かい気配を感じているから、お母さんが守ってくれていると思うけど、本当の手の温かさには叶わないと思う……だから、双葉ちゃんを置いてどこかに行くのだとしても、きっと帰ってきて抱っこしてあげてください。どこにいても忘れないで、双葉ちゃんのママでいてあげて。それだけは約束してください。お願いします。」

「わかったわ。必ず帰るって約束する。」

双葉を抱いて頭を下げた隼に向かって、朱美は神妙に肯いた。
だから~、そこでお願いするのは、お前じゃなくて朱美の方だろ……とツッコミを入れたかった周二だったが、さすがに今口を挟むと、四方から火の粉が飛んで来そうなのでやめた。
とんでもない事実が発覚したと言うのに、根掘り葉掘り話を聞くこともなく、隼は平気な顔で抱き上げた双葉のほっぺたをつついたりしている。

「大事なお話は、女将さんと周二くんが聞いてください。ぼくは、双葉ちゃんと向こうに行ってるから。あっち、いこうね。双葉ちゃん。」

「お……おう。」

三人は顔を見合わせた。
隼の背中を見やって、朱美がため息を吐く。

「……びっくりした~。綺麗な子ね。周ちゃん、あんたってばすごい絶倫の女好きだったくせに、ほんとにあんな中坊の男の子と付き合ってるんだ。おばさんから聞いた時は、なんの冗談かと思ったわよ。しかも未だに手も出してないってほんとなの?抱けないわけじゃないでしょ?」

「まぁな。ああ見えて隼は一応、俺と同学年だけどな。」

「えっ、そうなの?!」

「あいつは特別なんだ。今は、あいつしかいらねぇ。」

「惚れたもんね。あの子、すごく幼く見えるけど、見た目と違って肝は座ってんのね。双葉を周ちゃんの子だって言っても何も動じない。付き合ってるって言うから、てっきり周ちゃんを責めるか、罵って修羅場になると思ったから拍子抜けしちゃった。」

朱美は安堵した顔を向けていた。ここまで来るにも、実は相当悩んでいたのだろうとわかる。

「そんな女々しいことするかよ。隼はあんな女みたいな面だけど、中身は結構漢らしいんだ。朱美は知らねぇだろうけどな、名前くらいは聞いたことあるだろ?あいつはマルボウの沢木の息子なんだ。巻き添え食って、結構きついことも経験してる。そのせいで、言葉が上手く出なくてちょっとガキっぽいんだ。ま、何しろ俺が惚れた奴だから、そこいらの顔だけの奴とはちょいと違う。」

「へぇ……そうなの。ちょっとだけ見直しちゃったなぁ。あたし、周ちゃんに無理言ってるって分かってるんだけど、他に頼める人がいなくて……ごめんね。」

「まあ、隼がいなけりゃ、俺はいつかは朱美と結婚するんじゃないかなって、考えたこともあったしな。ちっとばかり驚いたけど、俺のガキなら面倒見るのは当たり前だ。責任は取る。」

「そのことなんだけど、実は……あの、双葉は……。」

何か言おうとした朱美に、先代の妾が小さく首を振って制した。

「朱美ちゃん。色々忙しいんだろ?双葉ちゃんは、あたし達が預かるから心配いらないよ。あんたは、さっさと行っておいで。急ぐんだろ。」

「ええ。ありがとう、おばさん。双葉の事、くれぐれもお願いします。」

「あいよ。」

「ミルクと着替えはこの中に。それと……周ちゃん、いつかちゃんと話するから。」

「おう。またな。」

朱美の話せない事実を知らないまま、隼と周二は双葉を預かることになった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

どうやら双葉ちゃんは、隼にしかなつかないみたいです。
(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)「双葉ちゃん~」「たぁ~♡」
( *`ω´) くそがき……なんで、おれになつかねぇんだよ。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ



関連記事

2 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> まだ話せない秘密を抱えている朱美、帰って来た時に じっくり教えて貰わなきゃね!
> だから 絶対に 無事で帰って来てよ~d(≧ω≦)ネッネッ

これから少しずつ、事情が分かってきます。でないと、このまま隼と周二の子育てシリーズになってしまいます。 ヾ(〃^∇^)ノ
>
> 純真無垢な赤ちゃんには 純真無垢な人が分かるから 双葉は 隼に すぐ懐いたんだと思う。
> だって 周二からは ヘタレで 隼に邪まな感情を持っている事が ダダ漏れだもんねー
> ( ・`з´・)ぷぅーバブ~~バブ~~←そうだ、そうだ!と言っております ...byebye☆

どうやらそうみたいです。
 ヾ(〃^∇^)ノ確かに、よこしまな気持ちが駄々漏れです~
この先どうなるかな、コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)




2013/09/30 (Mon) 21:42 | REPLY |   

けいったん  

まだ話せない秘密を抱えている朱美、帰って来た時に じっくり教えて貰わなきゃね!
だから 絶対に 無事で帰って来てよ~d(≧ω≦)ネッネッ

純真無垢な赤ちゃんには 純真無垢な人が分かるから 双葉は 隼に すぐ懐いたんだと思う。
だって 周二からは ヘタレで 隼に邪まな感情を持っている事が ダダ漏れだもんねー
( ・`з´・)ぷぅーバブ~~バブ~~←そうだ、そうだ!と言っております ...byebye☆

2013/09/30 (Mon) 13:21 | REPLY |   

Leave a comment