純情子連れ狼 14
「まだよ。聞くことが有るわ。」
「しょうがねぇなぁ。どうせ、こいつは墨花会に連れて帰っても、他の誰かにばらされるだろうからさ、朱美が聞きたいことを聞いたら、強制送還されるように大使館前にでも捨てて来てやるよ。ま、二度とおいたが出来るような状態じゃないけどな。」
周二の言葉など聞く必要はなかった。おそらくあっさりと殺された方が良かったかもしれない恐怖と痛みを張は味わっていた。
自分が襲撃した組長の女だと知り、片言でひたすら詫びていた。
「スミマセン……スミマセン。姐サン、スミマセン……」
朱美は張の胸ぐらをつかみ、直も思いっきり打った。頬に指輪で出来た筋が走り、血が滴ってゆく。
「いい?返答次第では、これから一生、お日さまの下を歩けなくなるわよ。英龍水の女を、甘く見ない事ね……?嘘をついたり言い逃れしたら、強制送還されようがどうしようが、あたしは中国全土くまなく捜すわよ?あんたにも家族がいるらしいじゃない。いい事?あんたは、墨花会を敵に回したの。それは、一族郎党の「死」をあんたが自分で選んだと言う事よ。考えて答えなさい。……龍水への襲撃は、大門に言われてやったのね?」
張という男は、すでに人相が変わるほど顔が腫れあがっていた。その背後には減音器の付いた銃を構えた木本がいて、殺気を放っていた。もう、逃げ場はどこにもないと張は理解した。
「死」という単語を理解し、目を据えた張は、一つ身震いすると潔くその場に座りなおした。所詮、この男も哀れな捨て駒の一つに過ぎなかった。
「大体、お前もなぁ、何で割の合わない鉄砲玉なんて引き受けたんだよ。こうなることは考えなかったのか?金だって、兄貴分に大方かすめ盗られてんだろ?」
周二の言葉をきっかけに、張はやっと重い口を開いた。
「若頭ノ大門サント、趙ノ兄貴ハツナガッテイル。大門サン、墨花組ハ俺ノモノト言ッタ。長年支エテキタノニ、報ワレナイ。ヤット組長ガイナクナッテ、自分ノ番ダトオモッタラ、何モワカラナイ若造ガ、跡目ヲ継グ。ダカラ趙ニ手ヲ貸セト言ッテキタ。俺ガ組長ニナルノガ、一番タダシインダ……手ヲ貸セバ、幹部ニ据エテヤル。趙ノ兄貴ガ、英ヲ撃テト俺ニ命令シタ。」
「やっぱり、そういうことだったのね。あの、くそっ垂れ。それから?何で、引き受けたかまだ聞いてないわ。」
「……妹ガ……趙ノ兄貴ノソバニイル。捕マッテ薬ヲウタレテ大門ノ手下ニ輪姦サレテイル。助ケテト電話口デサケンデイタ。……俺ハドウシヨウモナカッタ……俺モ大門ガ憎イ。デモ、断レバアイツラニ殺サレル。妹モ殺サレル……うっうーっ……助ケタイ……」
「……汚ったねぇ!極道の癖に、任侠のへったくれもねぇな。正々堂々と正面からタイマンでケンカ売ったんならまだしも、鉄砲玉をやらせるために、妹を人質に取るって、どいつもこいつもどこまで腐ってんだ。」
「ま、それもある意味、極道らしいですけどね。嫌がる奴に、どうしても仕事をさせたいときには、決して逆らえないように質を取っておくのは当たり前です。」
「そうか。雁字搦めだな。」
「こいつがここまで追い込まれるほど、大門には時間がなかったってことでしょうよ。前組長の人望は絶大でしたから、息子の襲名に異を唱える者もいなかったはずです。後ろ盾になりたがる古老も多いと聞きました。まして墨花会の名前を聞いたら、捨て駒の鉄砲玉なんぞやりたがる奴は、日本にはいないでしょうね。趙という中国人マフィアも大門も、すぐに足がつくってのに馬鹿なことをやったもんです。」
「趙と大門は、どこよ?」
「ワカリマセン……」
力なく張は頭を振った。嘘ではないようだった。英龍水を襲撃した後、まとまった金を渡され、潜伏先を指示されただけで趙とも連絡は取ってないと言う。張には、拉致された妹の安否すらわからない状況だった。
「おい。お前も仕事の後は、証拠を残さないように消される運命だったんだよ。お前が潜伏するはずのビルには、兄貴分が代わりに入って好き放題やってるしなぁ。下っ端はどこも難儀だな。妹はとうに風俗にでも売り飛ばされてんだろ。わざわざ日本まで来て、893何ぞに足を突っ込むから、妹までこんなことになるんだ。兄貴が馬鹿なせいで、妹が泣きを見る。自業自得だ。」
「梅花(メイファン)……っくっ……」
妹を呼ぶ張の泣き声が響いた。同情の余地はないが、さすがに周二も木本も張を哀れだと思った。
大門が何処に潜伏しているか、捜すのが先決だった。
本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)
朱美は、生まれ育ちのせいもあって筋金入りの気の強さです。
感情の起伏が激しいですが、愛情も深いのです。(。'-')(。,_,)ウンウン
(´-ω-`)ぶっ飛ばされる方は、たまりませんけどね……
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