純情子連れ狼 20
隼の指を握ったまま離さない双葉の小さな手を、そっと外したら、気付いた双葉がぱっと大きな目を向けて、隼をじっと見つめた。
「ちゃん~♡」
「はい。双葉ちゃん~。いい子で大きくなってね。忘れないからね……バイバイ……」
隼の頬を涙が転がってゆく。安堵した反面、束の間の温もりが離れてゆくのが悲しい。たった数日過ごしただけなのに、かけがえのない存在になっていた。
「……ちゃん~」
指を離されて、双葉がえびぞって隼を求めた。朱美の腕から、必死に身を乗り出してくる。思わずきゅと抱きしめた双葉の温もりを、覚えて居ようと思う。
「双葉ちゃん……」
きっとこれが誰かを守り、愛すると言う気持ち。
*****
関西へ向かう車に乗っても、双葉は窓から手を伸ばし隼を求めて泣いていたが、もう隼はにこにこと笑っていた。
「またね。双葉ちゃん。大好きだよ。パパとママにいっぱい愛してもらってね。」
「ええ~~ん、ちゃん~、ちゃん~……」
「また、会おうね。」
「ありがとう。あなたの事は忘れないわ。さ……双葉、行くわよ。」
「ちゃん~……ふぇぇ~ん……」
*****
車が小さくなって見えなくなると、隼はほっと息を吐いた。
耳の奥に自分を呼ぶ双葉の泣き声が残っていた。その場に、気が抜けたように隼はすとんと腰を落とした。
「大丈夫か?隼。」
「うん。」
「好かれたもんだな。」
「……双葉ちゃんね……ママがいなくても、いい子で我慢してたんだよ……。もっと、一緒に居たかったなぁ。会いに行くには大阪はちょっと遠いね。」
「泣いてもいいぞ、隼。今なら誰も見ていないし、ずっと漢らしかったんだ。別れて寂しいのは当たり前の気持ちだ。女々しくなんてないぞ。」
くすん……と隼は周二の胸に額をつけると、鼻を鳴らした。腕の中で見上げる隼は、濡れた目で周二を見つめた。
「周二くん。ぼく、いつか双葉ちゃんみたいな子が欲しいなって思ったよ……」
「そうか。」
「ぼく、誰かと恋愛しようかなぁ……。」
が~ん……
周二はその場に固まった。
「……なんてね。嘘だよ。」
ふふっと微笑んだら、たまった涙が転がった。
「きっと、周二くんが助けに来てくれるって信じてたから、ぼくは双葉ちゃんを守れたんだよ。ありがと、周二くん……」
「俺は、隼が呼んだらいつだって駆け付ける。地球の裏側に居たって、隼の声だけは聞こえるんだ。俺は不完全だけど、隼が傍に居ると完全になるんだ。」
「ミッション・インポッシブルのトム・クルーズの台詞だね。ぼくも……周二くんがいるから、強くなれる。だから、ずっと傍にいてね。」
「約束する。隼。」
夏が終わろうとしていた。
ふと見上げれば、羊雲が広がって秋の空になっている。頬を弄る風がほんの少し、冷たくなっている気がした。
「ね。野分って知ってる?周二くん。」
「何だ、それ?」
「台風の事だよ。双葉ちゃんは、夏の終わりの小さな台風みたいだなって、パパが言ってた。……行っちゃった……」
感傷的になった隼が、双葉の去った西の空を涙ぐんで見つめる。
周二は手を伸ばし、丸い肩を懐に抱きしめた。
夕陽に伸びた二つの影が、自然に一つになった。
「腹、減ったな。ばあちゃんちで、何か食うか?」
「ううん。あのね、ぼくの手料理を、周二くんにご馳走します。」
手料理と聞いて、僅かに周二は逡巡した。隼の出来るものは、チキンラーメンと冷奴、湯豆腐……くらいか。
「……俺、冷奴好きだぞ、隼。」
「ううん。涼しくなったから温かいものだよ。」
「そうか。隼が作るものなら、のりたまご飯でも何でもうまいけどな。」
「期待しててね。」
周二の腕に巻きついた隼は、いつになく熱を込めた視線を向けた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
いつになく熱を込めた視線…… ヾ(〃^∇^)ノ「やった~~!ついにこの日が、来た~!!」
どうなりますやら。うふふ~
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