純情子連れ狼 18
先に到着していた周二は、確かに隼の声を聴き、店の表に飛び出した。
朱美のチャイナドレスをばっとまくり上げると、躊躇なく腿に張り付けた暗器を奪う。
見当をつけ、まっすぐに走り出した。
「周ちゃん?どうしたのよっ!」
「周二さんっ、ねんねですか?」
周二のまとう気圧に、二人は圧倒されていた。
「木本さん、どういうこと?」
「おそらく、ねんねの身に危険が迫ったんです。実は……」
木本は手短に説明した。
*****
「隼―っ!?」
その一瞬、周二は真っ直ぐに獲物に向かう猛禽類のように空を舞った。
狙いは的確だった。
「おーーりゃあーーっ!」
「ぐわっ!」
パン!
乾いた銃声が響く。
同時に、その場にもんどりうって転がったのは、隼ではなく趙と名乗った男の方だった。全身を鞭のようにして、周二が男の頭に一閃、飛び蹴りを入れた。跳ね飛んだ男の肩に膝を落とし押さえつけると、迷わず鎖骨の際と肩の付け根に朱美の細いナイフを突き立てる。筋肉が捩じれて手にした銃がごとりと落ちた。
「ぐわあーーーっっ!」
男は激痛に転げまわった。
隼は蒼白になった顔を向けた。
「し……周二くん……?」
「隼!無事かっ!」
「周二くん………双葉ちゃんが泣いてる……」
「大丈夫だ、何ともない!双葉はびっくりしただけだ。」
「怪我してない?だいじょうぶ?」
「ああ。ちゃんと守ったな、隼。おまえも怪我はないか。」
「よ……かった~。周二くん、やっぱり来てくれた……ふぇぇ~ん……怖かった~。」
脱力の余り、隼はその場にぺたりとしゃがみ込んでしまった。周二を追って走ってきた朱美が、隼の肩口のベビーキャリアが破れているのを見て、呻く趙に蹴りを入れた。
「全く!どいつもこいつも往生際の悪い男ばっかり!木本さん、お願い。すぐに関西に連絡とって。」
「わかりました。すぐに後見人の長老方に指示を仰ぎます。いっそ蛆虫はまとめて……消えてもらいましょうかね?」
木本がちらりと見やったら、運転をしていた男は顔色を変えて急発進し、趙という兄貴分をその場に残して走り去った。おそらく逃げた雑魚は、沢木が回した警察の検問に引っかかるだろう。
まだ籍を入れていない朱美と子供の存在を趙に教えたのは、既に消された大門だった。
墨花会若頭の大門は、関東に逃げた英龍水(はなぶさりゅうすい)の妻子の存在を知っていた。速やかに探し、密かに始末しろと趙に指示を出した。驚いた事に、朱美の実家と木庭組、妾の料理屋まで襲撃リストに入っていた。趙の懐から、数個の手りゅう弾と印をつけた地図が出てきた。おそらく、車中にもかなりの武器が隠されているはずだ。
墨花会の全てを知る大門は、そこまでして墨花会組長になりたかったのだ。以前、龍水から直接、惚れた女がいると聞いていた。披露目を済ませていない朱美と双葉が表に出る前に、血脈を消してしまう気だった。
周二たちは、大門の始末が済み、既に抗争は終結していると思っていた。だから、まさか朱美と双葉に大門の刺客が放たれていると考えなかった。
朱美の顔を知らない趙は、大門から聞いた情報を頼りに、血眼になって割烹を探り当てた。
ここまで二人を始末しにやって来たことは、周二にとっても木本にとっても想定外だった。
「こいつが探してた張の兄貴分か。手が省けたな、朱美。張の妹の居場所を聞いてやれ。」
「それより前に、こいつの方があたしに用があるんじゃない?ねぇ、何の御用かしら……?ずいぶん、探し回ってたそうじゃない?この懐の手りゅう弾で、あたしをどうしたいの……?言いたくなるように、ピンを抜いて、あんたの口の中にほおりこんであげましょうか?」
朱美は肩口に刺さった暗器を、ぐいと直も深く打ち込んだ。
「……ぐひぃっ……」
脂汗を浮かべてその場に失禁した趙の姿を見て、思わず周二は吹いた。
「情けねぇな。それでも、刺客かよ。ここまできたら悪党らしく腹くくれっつ~の。」
実際、冗談では済まない状況だった。
もしも、全員そろった妾の料理屋が襲撃されていたら、その場に居た者は全て木端微塵に吹き飛ばされていたかもしれない。
土壇場で、隼の姿に気を取られたのが趙の不運だった。
「俺には、ねんねの声は聞こえなかったですね。」
「あたしも、耳はいい方だけど、何も気が付かなかったわ。」
「他の奴に聞こえてたまるかよ。隼の声は、俺にだけ届く周波数なんだよ。な?隼。」
「うん。」
隼を守る周二の野生の聴覚が、皆の命を救った。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
隼まっしぐらに走る周二は、ちょっとだけかっこよかったかな?
ヾ(〃^∇^)ノ「隼~」
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「周二くん……」
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