嘘つきな唇 15
がんがんと頭痛がする。
それでもいつも通りの時間に目が覚め、身支度をした。彩が朝のランニングにもう付き合う事は無いと理解していても、頭の片隅でもしかしたらこの扉の向こうに彩がいたら……と思ってしまう。
「おはようっす。」
「あ……」
ドアの向こうにいたのは、副キャプテンの沢口だった。
沢口は里流の顔を見るなり、やっぱりと口にした。
「また、くよくよ考えてたんだろ?」
「またって……なんだよ。」
「織田先輩の事が心配で、ろくに寝てないって顔をしてる。分かりやすいな、里流。その分じゃ携帯も見てないだろ?」
「携帯?」
思わずごそごそと引っ張り出した携帯は、点滅していた。母親に負担を掛けるのが嫌で、壊れるまでガラケーで済ませると周囲に宣言し、皆とのLINEの会話にも入る事は無かった。羨ましいと思ったこともあるが、不便を感じた事は無い。
「沢口がメール……?」
「どうせ見てないだろうと思ったから、朝一できたんだよ。夕べ、織田先輩と少しだけ話が出来たんだ。皆が心配してるだろうからって言ってた。織田先輩らしいよな。」
「うん。」
「しばらく入院した織田朔良の傍に居るから、里流に伝えてくれって言ってた。メールをしようと思ったけど、やりかけた事もあるし会ってきちんと話をするって。何かさ……織田朔良の怪我って深刻らしいんだ。詳しく聞いたわけじゃないけど。」
「そう……」
「学校に来たら、部室に来てくれって織田先輩からの伝言だ。あのさ……」
「ん?」
「何を言われても泣くなよ?話なら聞いてやるから。……おい!里流!」
沢口の言葉には答えずに、里流は横をすり抜けて走り出した。少しでも早く、彩に会いたかった。
*****
たった1日しか経っていないのに、久しぶりに会う気がする。
真っ直ぐに部室へと向かった里流は、息を整えて彩の前に立った。努めて平静を装った。
「おはようございます。」
「心配させたみたいだな。」
「彩さんは大丈夫なんですか?あの、怪我とかは……」
「座ろうか。……少し打ち身があるくらいだ。大丈夫、朔良の怪我に比べればこのくらい何ともないよ。」
織田朔良の名前が出て、やっと里流は気付く。深刻だと言う朔良の怪我を、彩がどれほど重く感じているか……
「沢口に伝言を頼んだんだ。直接電話をしようと思ったんだが、考えが上手くまとまらなくてどうしてもできなかった。俺は……これから先、朔良が元気になるまで自分の事を考えるのを止めようと思う。」
「それは……責任を感じているから?」
「そういうことだ。朔良の両親は不可抗力だって許してくれたけど、今回の事故は間違いなく俺のせいで起こったんだ。不運が重なったと言えば、そうなんだろうけど過失の言い訳をする気はない。朔良には元の生活を取り戻すのは難しいそうだ。あいつには、もう一生ハイジャンプはできないし、まともに歩けるようになるかどうかもわからない。俺にはどう謝っていいのかさえわからない。」
里流はじっと彩を見つめていた。
彩が続ける言葉を、里流はもう知っている。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
離れようとする彩。理解する里流。
互いに思いあっているのに、別れは避けられないのです……(´・ω・`)
それでもいつも通りの時間に目が覚め、身支度をした。彩が朝のランニングにもう付き合う事は無いと理解していても、頭の片隅でもしかしたらこの扉の向こうに彩がいたら……と思ってしまう。
「おはようっす。」
「あ……」
ドアの向こうにいたのは、副キャプテンの沢口だった。
沢口は里流の顔を見るなり、やっぱりと口にした。
「また、くよくよ考えてたんだろ?」
「またって……なんだよ。」
「織田先輩の事が心配で、ろくに寝てないって顔をしてる。分かりやすいな、里流。その分じゃ携帯も見てないだろ?」
「携帯?」
思わずごそごそと引っ張り出した携帯は、点滅していた。母親に負担を掛けるのが嫌で、壊れるまでガラケーで済ませると周囲に宣言し、皆とのLINEの会話にも入る事は無かった。羨ましいと思ったこともあるが、不便を感じた事は無い。
「沢口がメール……?」
「どうせ見てないだろうと思ったから、朝一できたんだよ。夕べ、織田先輩と少しだけ話が出来たんだ。皆が心配してるだろうからって言ってた。織田先輩らしいよな。」
「うん。」
「しばらく入院した織田朔良の傍に居るから、里流に伝えてくれって言ってた。メールをしようと思ったけど、やりかけた事もあるし会ってきちんと話をするって。何かさ……織田朔良の怪我って深刻らしいんだ。詳しく聞いたわけじゃないけど。」
「そう……」
「学校に来たら、部室に来てくれって織田先輩からの伝言だ。あのさ……」
「ん?」
「何を言われても泣くなよ?話なら聞いてやるから。……おい!里流!」
沢口の言葉には答えずに、里流は横をすり抜けて走り出した。少しでも早く、彩に会いたかった。
*****
たった1日しか経っていないのに、久しぶりに会う気がする。
真っ直ぐに部室へと向かった里流は、息を整えて彩の前に立った。努めて平静を装った。
「おはようございます。」
「心配させたみたいだな。」
「彩さんは大丈夫なんですか?あの、怪我とかは……」
「座ろうか。……少し打ち身があるくらいだ。大丈夫、朔良の怪我に比べればこのくらい何ともないよ。」
織田朔良の名前が出て、やっと里流は気付く。深刻だと言う朔良の怪我を、彩がどれほど重く感じているか……
「沢口に伝言を頼んだんだ。直接電話をしようと思ったんだが、考えが上手くまとまらなくてどうしてもできなかった。俺は……これから先、朔良が元気になるまで自分の事を考えるのを止めようと思う。」
「それは……責任を感じているから?」
「そういうことだ。朔良の両親は不可抗力だって許してくれたけど、今回の事故は間違いなく俺のせいで起こったんだ。不運が重なったと言えば、そうなんだろうけど過失の言い訳をする気はない。朔良には元の生活を取り戻すのは難しいそうだ。あいつには、もう一生ハイジャンプはできないし、まともに歩けるようになるかどうかもわからない。俺にはどう謝っていいのかさえわからない。」
里流はじっと彩を見つめていた。
彩が続ける言葉を、里流はもう知っている。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
離れようとする彩。理解する里流。
互いに思いあっているのに、別れは避けられないのです……(´・ω・`)
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