嘘つきな唇 17
何度か、手のひらに転がるUSBスティックが滲んだ。
*****
しばらく経って教室に帰ろうとした里流は、用具置き場の傍を通る数人の話声を聞いた。
「なんで今頃……?」
会話の中に出てきた「サクラ」という名前に思わず聞き耳を立てる。
扉の隙間から覗くと、悪ぶってつるんでいる顔に見覚えがあった。制服を着崩した三年生は、確か籍だけは陸上部にあったはずだ。
「……朔良姫が事故ったのは結局、織田のせいなんだろ?」
「二人乗りした自転車が転倒したから、そうじゃねえ?島本が現場で見たんだが、轢かれた自転車がありえない位捻じ曲がってたらしい。まだあれくらいの怪我で済んで良かったって話じゃないか?」
「島本は?」
「見舞いに行きたいんだろうけど、そうはいかないよなぁ……あいつ、素直じゃないからさ。出会いが最悪だったから、無理ないけど。」
「俺ら全員ダブりが決まって荒れてた頃だったからな。朔良ちゃんが運悪く、溜り場に入部届けなんぞ持ってくるからカモネギになっちゃったんだよ。」
「まあ、あんな顔してちゃ仕方な……っ?」
思わず部室から飛び出た里流を、数人が見咎めた。
「あらら……。もしかして今の聞かれちゃった?」
「先公かと思って、びびったぞ、馬鹿野郎。二年の野球部か?」
「あ、はい。忘れ物を取りに来たんで。」
彼らは回り込んで、里流の顔をじろじろと覗き込んだ。既に一限目は始まっている時間帯だったが、進路の決まっている三年生は、ほぼ自習になっている。
「なあ、平和ボケの野球部。今聞いた事口外するなよ?俺等はもうすぐ卒業するし、朔良姫も島本さんとやっと縁が切れるんだから。」
「俺達も、愛しの朔良姫には色々な意味でお世話になったから、何とかしてやりたいと思ってたんだぜ。」
里流には彼らの会話が今一つ理解できなかった。
「あの……?良くわからないんですけど……。縁が切れるって、どういうことですか?朔良姫って、織田朔良のことですか?」
「そうだよ~。初心な子はこれ以上何も知らない方が良いよ~。首突っ込むなよ?」
「そうそう。突っ込むのはあれだけでいい。」
「これはお堅い野球部とは関係ない、陸上部の極秘機密事項だからね。」
「ま、朔良姫も怪我でハイジャンはできないらしいし、陸上部も俺等が卒業したら廃部だろうけどね。」
「俺等は大学に入って、普通の男の子に戻ります~。」
顔を見合わせた三年生は、くすくす笑ってそれ以上何も語らなかった。
傷心の里流も、今は誰とも関わりたくはない。静かに部室に鍵を掛けると、それ以上何も言わずに教室へ移動した。
しかし、その話を沢口に何気なく振って、里流は自分の知らなかった事実に驚愕する。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
(´・ω・`) 「?」←超奥手らしい里流です。
しかも男子校育ち。おにゃのこと恋愛とかできそうにない感じです。うふふ~(〃゚∇゚〃)
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