嘘つきな唇 18
沢口は里流の話を聞き、振った本人が何も知らないのに驚いたようだった。
「へっ?里流……お前何も知らなかったの?朔良姫の事は、校内じゃ有名な話だぞ。」
「織田朔良が陸上部ってことくらいは知ってるよ。いつも一人でグラウンドの片隅で柔軟とかしてたじゃないか。でも、だからって何が有名なの?」
沢口は困ったなという風に、視線を外してがしがしと頭を掻いた。
「ん~……里流にこういう話をするのは、どうかと思うんだけど……ほら、里流って思いっきりガキっぽいって言うか。恋愛経験ないだろ?」
「奥手って意味……?それって、おれが何も知らない子供だって言いたいわけ?沢口が知らないだけだ。おれだってそれなりに経験位あるよ。」
口をとがらせた里流に、沢口は意外だと言う風に不思議そうな顔を向けた。
「経験ねぇ……織田先輩にキスしてもらったことくらいあるか?あ……ごめん。」
口走った後で、しまったと思ったがもう遅い。里流の傷口に塩を塗ってしまった沢口は、言葉に詰まってしまった。里流の顔にはさっと朱が走り、たちまち強張った。
「キ……ス……くらいどうってことない……よ。それにもう織田先輩は引退して野球部とは何の関係もないんだし。これからは出来るだけ織田朔良の傍に居るつもりだって言ってた。リハビリが大変だからって……」
「里流はそれでいいのか?織田先輩の事、好きだったんだろう?ちゃんと自分の気持ち、伝えたのか?思い込みだけで簡単にあきらめるなよ?」
「そんなことない……織田先輩が自分でそうするって決めたんだ。それに話を聞きながら、織田先輩ならきっとそうするだろうって思ってた。だから、おれにはこれ以上何も言えない。」
「そうか、言えないか。……あのな、さっきの朔良姫の話だけどな、陸上部の三年に島本って奴が居るんだ。三年って言っても、出席日数が足りなくてダブってる奴なんだけど。」
「ダブりって……ここ進学校なのに珍しいね。普通だったら、自主退学とかするんじゃないの?」
「島本の親は父母会の会長だから、どうにかしたんじゃないか?入学式で顔くらいは見たことあると思うぞ。県の教育長が親戚だって話もある。織田朔良はその島本の「女」だって、噂だ。」
「女……?そんなはずないよ……織田朔良は綺麗な顔してるけど、男だよ?」
沢口は里流の両頬に手を伸ばし、むにと引っ張った。
「やっぱり可愛いなぁ、里流は。」
「なっ、何だよ!やめろよ。沢口。」
「だから女ってのは、そういう意味なんだよ。男同士だってセクスはできる。噂だからどこまでが本当かはわからないけど、案外いいところを付いているんじゃないかって俺は思ってるけどな。二人きりで部室の中にはいってくところを見た奴もいるし、事が済むまで他の仲間が外で見張りをしているらしい。」
「……それって、部室で二人が話しているのを、外で待ってただけなんじゃ……?」
「さあな。大分前に、そんな話を陸上部の三年がゲームセンターで話してたって、又聞きした。」
息をひそめて話をする沢口が、嘘を言っているとはとても思えない。真偽はともかくとして、里流の知らない噂話があるのは確かなのだろう。
「朔良姫は何か、弱みでも握られてるんじゃないかな。まぁ、これは俺の想像だけど。」
「……だったら、織田が可哀想だ。おれはいつも一人でいるところしか見たことなかったけど……織田朔良は本気で織田先輩の事が好きなんだよ。おれが知らない子供のころからずっと後ろを追ってたって言ってた……だから、たぶん……きっと今も織田先輩は織田朔良を見捨てられない。」
中学の頃から里流と共に野球部に所属していた沢口は、高校に入って劇的に変化した里流の様子を知っていた。織田彩への思いが、里流を変えたのは誰の目にも明らかだった。
母子家庭で一人っ子の里流は、聞き分けの良い子供のまま育ったような少年で、年頃の仲間との恋愛話にさえ緊張する。
織田朔良のように目を引く華やかな美貌ではなかったが、高校二年生になっても陽に焼けない白い肌は周囲に無垢な印象を与えていた。織田朔良が派手な華美な大輪の薔薇なら、里流は微弱な風にも動揺する清楚な桔梗のように、ひどく心もとなく見えた。
「里流の気持ちが、いつか織田先輩に伝わると良いな。」
「ううん……もういいんだ。織田先輩にはよくしてもらったよ。元々、面倒見のいい先輩と出来の悪い後輩でしかなかったし。今は織田朔良の傍にいるって、織田先輩からきちんと言ってもらって踏ん切りもついたんだ。卒業式も近いしから、それでお終いだ。」
「泣きたいときは、一人で思い詰めるなよ?話し位いつでも聞いてやるから。」
「……なんか……沢口にはおれのこと、ばれてるね。」
「分かりやすいからな、里流は。でも、胸を貸す優先順位は彼女の次だぞ。」
「あはは……沢口ったら、優しいんだか何だか。」
里流は久しぶりに笑った。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
ばっさりぶったぎって新展開に持ってゆきたいのですが、もう少しだけ我慢なのです。
里流はこんなで、ちゃんとBL展開になるのでしょうか。不安~(´・ω・`)
(〃ー〃)大丈夫だもん~
「へっ?里流……お前何も知らなかったの?朔良姫の事は、校内じゃ有名な話だぞ。」
「織田朔良が陸上部ってことくらいは知ってるよ。いつも一人でグラウンドの片隅で柔軟とかしてたじゃないか。でも、だからって何が有名なの?」
沢口は困ったなという風に、視線を外してがしがしと頭を掻いた。
「ん~……里流にこういう話をするのは、どうかと思うんだけど……ほら、里流って思いっきりガキっぽいって言うか。恋愛経験ないだろ?」
「奥手って意味……?それって、おれが何も知らない子供だって言いたいわけ?沢口が知らないだけだ。おれだってそれなりに経験位あるよ。」
口をとがらせた里流に、沢口は意外だと言う風に不思議そうな顔を向けた。
「経験ねぇ……織田先輩にキスしてもらったことくらいあるか?あ……ごめん。」
口走った後で、しまったと思ったがもう遅い。里流の傷口に塩を塗ってしまった沢口は、言葉に詰まってしまった。里流の顔にはさっと朱が走り、たちまち強張った。
「キ……ス……くらいどうってことない……よ。それにもう織田先輩は引退して野球部とは何の関係もないんだし。これからは出来るだけ織田朔良の傍に居るつもりだって言ってた。リハビリが大変だからって……」
「里流はそれでいいのか?織田先輩の事、好きだったんだろう?ちゃんと自分の気持ち、伝えたのか?思い込みだけで簡単にあきらめるなよ?」
「そんなことない……織田先輩が自分でそうするって決めたんだ。それに話を聞きながら、織田先輩ならきっとそうするだろうって思ってた。だから、おれにはこれ以上何も言えない。」
「そうか、言えないか。……あのな、さっきの朔良姫の話だけどな、陸上部の三年に島本って奴が居るんだ。三年って言っても、出席日数が足りなくてダブってる奴なんだけど。」
「ダブりって……ここ進学校なのに珍しいね。普通だったら、自主退学とかするんじゃないの?」
「島本の親は父母会の会長だから、どうにかしたんじゃないか?入学式で顔くらいは見たことあると思うぞ。県の教育長が親戚だって話もある。織田朔良はその島本の「女」だって、噂だ。」
「女……?そんなはずないよ……織田朔良は綺麗な顔してるけど、男だよ?」
沢口は里流の両頬に手を伸ばし、むにと引っ張った。
「やっぱり可愛いなぁ、里流は。」
「なっ、何だよ!やめろよ。沢口。」
「だから女ってのは、そういう意味なんだよ。男同士だってセクスはできる。噂だからどこまでが本当かはわからないけど、案外いいところを付いているんじゃないかって俺は思ってるけどな。二人きりで部室の中にはいってくところを見た奴もいるし、事が済むまで他の仲間が外で見張りをしているらしい。」
「……それって、部室で二人が話しているのを、外で待ってただけなんじゃ……?」
「さあな。大分前に、そんな話を陸上部の三年がゲームセンターで話してたって、又聞きした。」
息をひそめて話をする沢口が、嘘を言っているとはとても思えない。真偽はともかくとして、里流の知らない噂話があるのは確かなのだろう。
「朔良姫は何か、弱みでも握られてるんじゃないかな。まぁ、これは俺の想像だけど。」
「……だったら、織田が可哀想だ。おれはいつも一人でいるところしか見たことなかったけど……織田朔良は本気で織田先輩の事が好きなんだよ。おれが知らない子供のころからずっと後ろを追ってたって言ってた……だから、たぶん……きっと今も織田先輩は織田朔良を見捨てられない。」
中学の頃から里流と共に野球部に所属していた沢口は、高校に入って劇的に変化した里流の様子を知っていた。織田彩への思いが、里流を変えたのは誰の目にも明らかだった。
母子家庭で一人っ子の里流は、聞き分けの良い子供のまま育ったような少年で、年頃の仲間との恋愛話にさえ緊張する。
織田朔良のように目を引く華やかな美貌ではなかったが、高校二年生になっても陽に焼けない白い肌は周囲に無垢な印象を与えていた。織田朔良が派手な華美な大輪の薔薇なら、里流は微弱な風にも動揺する清楚な桔梗のように、ひどく心もとなく見えた。
「里流の気持ちが、いつか織田先輩に伝わると良いな。」
「ううん……もういいんだ。織田先輩にはよくしてもらったよ。元々、面倒見のいい先輩と出来の悪い後輩でしかなかったし。今は織田朔良の傍にいるって、織田先輩からきちんと言ってもらって踏ん切りもついたんだ。卒業式も近いしから、それでお終いだ。」
「泣きたいときは、一人で思い詰めるなよ?話し位いつでも聞いてやるから。」
「……なんか……沢口にはおれのこと、ばれてるね。」
「分かりやすいからな、里流は。でも、胸を貸す優先順位は彼女の次だぞ。」
「あはは……沢口ったら、優しいんだか何だか。」
里流は久しぶりに笑った。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
ばっさりぶったぎって新展開に持ってゆきたいのですが、もう少しだけ我慢なのです。
里流はこんなで、ちゃんとBL展開になるのでしょうか。不安~(´・ω・`)
(〃ー〃)大丈夫だもん~
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