嘘つきな唇 22
彩はやりきれなかった。
拳を握りしめて、鈍色の空を仰いだ。
「……俺のしてきたことはなんだったんだよ。何の意味もないじゃないか……」
勝手に転院を決めた朔良にも腹が立ったし、それを許した親も理解できなかった。
傍に居て欲しいと縋るように望まれ、苦痛が少しでも和らぐのであればと、全てをなげうった。自分のせいで朔良が怪我をしたと、いつも彩は自分を責めていた。
完全に元通りと言う訳にはいかないだろうが、頑張り次第では生活するのに支障のないところまで回復するかもしれないと言う外科医の言葉が、支える彩の一縷の望みだった。
しかし朔良は少しの痛みに音をあげ、リハビリは遅々として進まず、効果は得られなかった。
「だって……すごく痛いんだよ。」
「もういい。好きにしろ。小さな子みたいに何時も朔良は泣きごとばかりだ。俺は頑張れない奴は嫌いだ。」
思わず、声を荒げて病室を後にした。
二言目には言い訳をする朔良に、少しずつ不満が重なって陰鬱な気持ちになる。
交通事故に遭った朔良を支えてやりたいと思って来たが、空回りする自分を感じていた。
同学年の友人たちは皆、大学へと進み希望に満ちた未来を夢見ている。だが、彩の選択は無駄な徒労に終わった気がする。
外の空気を吸い落ち着きを取り戻した彩が、そっと病室を覗いた時、朔良は布団をかぶってめそめそと泣きぬれていた。
今度こそ、もう朔良の面倒は見ないと、きっぱりと引導を渡すつもりだったが出来なかった。
「朔良……ごめん。言いすぎた。足が動かなくて不安なのは朔良なのにな。ずっと病院にいるとつらいよな。」
「おにいちゃん……ごめん……なさい。頑張れなくて、ごめんね……明日から、ちゃんとリハビリするから。」
厚ぼったくなった目は、あれからずっと泣いていたのだろう。小さな弟のような朔良は、いつまでも兄を慕って離そうとしない。
「焦らずにゆっくりやろう。俺もちゃんと付き合うから。」
「うん……」
結局、彩は朔良を見捨てられなかった。
*****
両親は既に、近くの総合病院へと転院手続きを済ませていた。
リハビリ施設はあるが、加療の必要はなく入院は出来ないため通院することになった。
朔良に甘い両親は、一粒種が怪我をして足を引きずる姿が不憫でならないらしい。自宅のリビングを改装し、リハビリできるようにバーを設置していたのにはさすがに彩も呆れた。
「叔母さん。これ前の病院にあったのと同じものですか?」
「ええ。朔良は彩君の言うことはよく聞くでしょう?おにいちゃんに褒めてもらえるようにおうちでも頑張るんだっていうから、業者を紹介してもらったの。」
「今度こそ、くじけずに頑張れよ。朔良。」
「うん!」
そう励ましたものの、頭のどこかではこれまでと同じことが繰り返されるだろうと思っていた。
そして、それはすぐに現実のものになる。
退院した朔良を自宅に送り届けたのち、自家用車で走っていた彩は野球部のロード練習に目を止めた。
白い息を吐きながら、懸命に走る一群の中に里流を見つけた。毎日の練習の成果で、自分が知っている頃よりも少し腰回りが逞しくなった気がする。
頑張ってるなぁと、声を掛けたい欲求にかられたが、今の自分にはそんな資格はなかった。里流の手を離し朔良の傍に居る事にしたと決めたのは自分だった。里流に語った夢もどうなるかわからない。
彩はアクセルを強く踏んだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
だめっこ朔良め~。
なかなか進展しませぬな~(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
拳を握りしめて、鈍色の空を仰いだ。
「……俺のしてきたことはなんだったんだよ。何の意味もないじゃないか……」
勝手に転院を決めた朔良にも腹が立ったし、それを許した親も理解できなかった。
傍に居て欲しいと縋るように望まれ、苦痛が少しでも和らぐのであればと、全てをなげうった。自分のせいで朔良が怪我をしたと、いつも彩は自分を責めていた。
完全に元通りと言う訳にはいかないだろうが、頑張り次第では生活するのに支障のないところまで回復するかもしれないと言う外科医の言葉が、支える彩の一縷の望みだった。
しかし朔良は少しの痛みに音をあげ、リハビリは遅々として進まず、効果は得られなかった。
「だって……すごく痛いんだよ。」
「もういい。好きにしろ。小さな子みたいに何時も朔良は泣きごとばかりだ。俺は頑張れない奴は嫌いだ。」
思わず、声を荒げて病室を後にした。
二言目には言い訳をする朔良に、少しずつ不満が重なって陰鬱な気持ちになる。
交通事故に遭った朔良を支えてやりたいと思って来たが、空回りする自分を感じていた。
同学年の友人たちは皆、大学へと進み希望に満ちた未来を夢見ている。だが、彩の選択は無駄な徒労に終わった気がする。
外の空気を吸い落ち着きを取り戻した彩が、そっと病室を覗いた時、朔良は布団をかぶってめそめそと泣きぬれていた。
今度こそ、もう朔良の面倒は見ないと、きっぱりと引導を渡すつもりだったが出来なかった。
「朔良……ごめん。言いすぎた。足が動かなくて不安なのは朔良なのにな。ずっと病院にいるとつらいよな。」
「おにいちゃん……ごめん……なさい。頑張れなくて、ごめんね……明日から、ちゃんとリハビリするから。」
厚ぼったくなった目は、あれからずっと泣いていたのだろう。小さな弟のような朔良は、いつまでも兄を慕って離そうとしない。
「焦らずにゆっくりやろう。俺もちゃんと付き合うから。」
「うん……」
結局、彩は朔良を見捨てられなかった。
*****
両親は既に、近くの総合病院へと転院手続きを済ませていた。
リハビリ施設はあるが、加療の必要はなく入院は出来ないため通院することになった。
朔良に甘い両親は、一粒種が怪我をして足を引きずる姿が不憫でならないらしい。自宅のリビングを改装し、リハビリできるようにバーを設置していたのにはさすがに彩も呆れた。
「叔母さん。これ前の病院にあったのと同じものですか?」
「ええ。朔良は彩君の言うことはよく聞くでしょう?おにいちゃんに褒めてもらえるようにおうちでも頑張るんだっていうから、業者を紹介してもらったの。」
「今度こそ、くじけずに頑張れよ。朔良。」
「うん!」
そう励ましたものの、頭のどこかではこれまでと同じことが繰り返されるだろうと思っていた。
そして、それはすぐに現実のものになる。
退院した朔良を自宅に送り届けたのち、自家用車で走っていた彩は野球部のロード練習に目を止めた。
白い息を吐きながら、懸命に走る一群の中に里流を見つけた。毎日の練習の成果で、自分が知っている頃よりも少し腰回りが逞しくなった気がする。
頑張ってるなぁと、声を掛けたい欲求にかられたが、今の自分にはそんな資格はなかった。里流の手を離し朔良の傍に居る事にしたと決めたのは自分だった。里流に語った夢もどうなるかわからない。
彩はアクセルを強く踏んだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
だめっこ朔良め~。
なかなか進展しませぬな~(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
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