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朔良咲く 20 

母の用意したもの。
花飾りのついた白いふわふわのニットの帽子、これは病気で髪の毛が抜けた子供がかぶれるようにと配慮されたものだ。
クリスタルビーズの煌めくカチューシャ、ボビンレースのシュシュ、女の子の好みそうな白や薄桃色の小物がぷりきゅあの紙バッグに、ぎゅうぎゅう詰めに入っている。パジャマの上に羽織るガウンも、それぞれにおしゃれなものだった。
院長に電話した母は、仕入れた情報を元に病児学級に通う5人の女の子、全てのサイズを揃えていた。

*****

「さくらちゃんっ!ありがと~!」

感動の面持ちでバッグを抱きしめたいずみが、椅子に座り足をバタバタさせている。
婦長の計らいで朔良は少しの間、看護師の休憩室を借りて、二人きりで少女と面会する事が出来た。

「やっぱり、ぷりきゅあの王子さまだったんだ~、さくらちゃん。すてき!すてき!」
「いずみちゃんが喜んでくれて、僕もうれしいよ。これは僕のマ……お母さんが、いずみちゃん達にって準備してくれたんだ。気に入った?」
「いずちゃん、うれしい。みんなもすごくうれしいって。可愛いものがたくさん入ってるのね。」
「そう、良かった。ぷりきゅあのダンス踊れるように、リハビリ頑張ってね。僕も負けないように頑張るから。」
「さくらちゃん。ダンス踊れるの?」
「ん~。」

しばらく躊躇した朔良は、周囲を見渡すとコートを脱いだ。灰紫色のスーツが光を弾く。
きっといずみの目には、朔良はきらきらの王子さまに見えている。
そんな視線を感じた。

「いずみ姫。ダンスのお相手をお願いします。」
「きゃあ……」
「お手をどうぞ。」

朔良が跪いて差し出す手に、いずみはそっと自分の手を乗せた。
抱き上げると羽根のように軽いいずみを腕の中に抱えたまま、朔良はほんの少しワルツのステップを踏んだ。
くるくる回ると、いずみが声を上げて笑う。

「今度会う時までには、もっと上手に踊れるようになっておくね。」
「さくらちゃん。帰る前に、いずちゃんに魔法をかけてください。」
「魔法?」
「いずちゃん、東京の病院で、頭の中を手術するの。この前の手術では、おできが大きすぎて取れなかったって、ママと先生がお話していたの……。先生のお友達がアメリカから帰って来るって。」
「僕の魔法でいいの?」
「さくらちゃんの魔法がいいの。いずちゃんが、こわくないように魔法をかけて……王子さま。」

浮んだ涙が零れそうになっている。
朔良はいつかのように、どうしようもなくなってぎこちなく手を伸ばすと、いずみの両頬に触れた。
そのまま小さな頭を胸に抱きしめた。

「大丈夫。怖くないよ……。大丈夫、きっとうまくいく。僕が応援するからね。大丈夫。」
「さくらちゃん……」
「いつか……もう一度、ダンスを踊ろうね。」

誰かの鼓動の音が、自分を落ち着かせたように、きっといずみの気持ちも安らかになる。
そして、朔良はいずみの額に軽く触れた。

「ちゅ……するの?」
「魔法のキスだよ。」
「王子さまのキス~?やったぁ!」

いずみはにっこりと笑った。
いずみの不安が頬を転がり落ちて、胸に勇気の灯りが点いた。

「いずみちゃん。お姫さまのキス、僕にもしてくれる?」
「うん。さくらちゃんも……手術するの?」
「ううん。僕は前に、足の手術をしたんだよ。大きな傷跡が残ってるの、見てみる?」

線路のようになった足首の傷を見て、いずみは目を丸くした。

「おっきな傷。さくらちゃん……痛かった?」
「もう治ったから、平気。でも僕は我ままだから、リハビリしたくなくて、色々な人にいっぱい迷惑をかけてしまったんだ。痛いのが嫌いで、病院から逃げ出したこともあったんだよ。」
「さくらちゃん、こわかったのね。ごめんなさい、すればいいよ。いずちゃんも手術したくなくて泣いたから、ママにごめんなさいするの。」
「そう……。」

不覚にもいずみの言葉に打たれて、朔良は泣きそうになった。

「僕も、ごめんなさいするよ。」
「さくらちゃん。いずちゃんがお姫さまのキスをしてあげる。ここに来て。」

坐ったいずみの前に、朔良は跪いた。
手を伸ばしたいずみが、朔良の髪を払うとちゅ……と軽い音を立てて、小鳥のキスを贈った。

「さくらちゃんが、泣かないでがんばれますように。」




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

朔良がプレゼントしたものよりも、もらったものは大きかったかもしれません。

(〃゚∇゚〃) さくらちゃん~♡
[壁]ω・) どんどんBLから遠くなってゆく~

 ヾ(〃^∇^)ノま、いいか~!


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4 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> 子供は、特に幼子は、純心+純真です。
> だから その言葉は、良きも悪しきも 理性が働く大人より 心に響く威力があります。

素直に思わず耳を傾けてしまう朔良なのです。
子供って時々びっくりするほど、深いところを突いてくることがありますね。

> 王子様のキスの魔法
> その魔法で いずみちゃんの手術が 成功して欲しいですね。

はい。上手く行けば良いなぁと思います。そしていつか再会できますように。

> 朔良も いずみちゃんにかけられた魔法で 未来に向かって頑張れるよね!

いずみちゃんのキスで朔良の頑なな心も、素直になれば良いと思います。
ゆっくりでもどかしいのですけれど……

 
> ビビディ・バブテ・ィ゙ブゥ♪(●・ω・)ノ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゚...byebye☆

(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)けいったんさんの魔法~
コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2014/03/12 (Wed) 20:11 | REPLY |   

此花咲耶  

ちよさま

> 長らくごぶさたいたしました(^ω^;)
> 毎日立ち寄りはしていたのですが、
> なかなかコメできずすみませぬ~

お久しぶり~ふなのでっす。(〃゚∇゚〃)
いえいえ、お読みいただきありがとうございます。うれしいです。
>
> 不安な事が解決していないのに、
> いずみちゃんの前向きな、
> 真摯なお言葉に、心が洗われますね。

自分のことでいっぱいのはずなのに、周りのことがとてもよく見えているいずみちゃんなのです。
とても素直で可愛いです。

> 閉ざされてた朔良の心も、
> 何やら変化の兆しの予感~!?

頑なな朔良の心にも、いずみちゃんは上手に寄り添っている気がします。
さすがに払いのけたりは出来ないみたいです。(〃゚∇゚〃) 「さくらちゃん~」

> その時に、そばにいてくれるのは…
> どなたなのかな!?

(°∇°;) ……あ。←
しまった~、このままだと朔良がひとりぼっちだ~

 ヾ(〃^∇^)ノ自力でがんばれ~
( *`ω´)おいっ!

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2014/03/12 (Wed) 20:04 | REPLY |   

けいったん  

子供は、特に幼子は、純心+純真です。
だから その言葉は、良きも悪しきも 理性が働く大人より 心に響く威力があります。

王子様のキスの魔法
その魔法で いずみちゃんの手術が 成功して欲しいですね。

朔良も いずみちゃんにかけられた魔法で 未来に向かって頑張れるよね!
 
ビビディ・バブテ・ィ゙ブゥ♪(●・ω・)ノ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゚...byebye☆


2014/03/12 (Wed) 10:46 | REPLY |   

ちよ  

長らくごぶさたいたしました(^ω^;)
毎日立ち寄りはしていたのですが、
なかなかコメできずすみませぬ~

不安な事が解決していないのに、
いずみちゃんの前向きな、
真摯なお言葉に、心が洗われますね。

閉ざされてた朔良の心も、
何やら変化の兆しの予感~!?
その時に、そばにいてくれるのは…
どなたなのかな!?




2014/03/12 (Wed) 07:43 | EDIT | REPLY |   

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