朔良―そのままの君でいい １
朔良は主治医に勧められて、温水プールでの水中歩行訓練を行っていた。
インストラクターを務める小橋は、主治医の友人だと紹介されていた。
柔和な笑顔が印象的な小橋は、朔良を上手く操縦する。周囲は心配したが、人嫌いで飽きっぽい朔良にしては途中で投げ出すこともなく、根気よくリハビリを頑張っていた。
「そうそう……、ゆっくりでいいからね。音楽に合わせて同じリズムで歩くんだ。」
「足を上げなきゃ駄目だよ。楽をしてたら訓練にならない。」
「真っ直ぐ僕に目を向けて。姿勢を正しくしてね。腕をしっかりと振る、そう。その調子だ、昨日よりいいよ、朔良君。」
水の中では体重が軽くなるため、膝への負担がかからなくなる。全体的に落ちた筋肉をつけるには効果的だった。
朔良がプールを使用する時間は、利用者の少ない平日の午前中だ。
便宜を図ってもらい、殆ど貸切状態になっている。
膝までしかない小さなプールは、水流を自動的に起こし、足に負荷を掛けるように計算されている特別なものだった。インストラクターの小橋は、健康運動実践指導者と理学療法士、心理カウンセラーの資格を持ち、プールと老人施設で働いていた。
「……きっつ～……」
プールサイドに腰を下ろし、肩で息をする朔良の肩に、ふわりと大きなバスタオルが掛けられた。
「お疲れさま。後で、撮ってあるビデオを見てみるかい？最初のころと比べると、別人のように姿勢が良くなっているよ。」
水滴を拭う朔良は首を振った。
「先生が見て良くなっているのなら、それでいいです。自分を見るのは好きじゃないから。」
「そう？僕は楽しみなんだけどな。努力が形になるのは、見ていて心地のいいものだよ？」
「褒められるのは嫌いじゃないから、先生が褒めてくれるだけでいいです。」
「そうか。じゃあ、いっぱい褒めてあげよう。よしよし、よく頑張った。えらかったね、朔良君。」
「僕はもう、頭を撫でられて喜ぶような子供じゃありませんよ。」
そう言いながら朔良は、どこか嬉しそうだった。
小橋はバスタオルを取り上げると、朔良の濡れた頭に被せごしごしと乱暴に拭いた。
自分を壊れ物のように扱わない小橋の態度を、最初はうがった目で見て居た朔良も、今は誰に対してもそうなのだと知っている。
たまに老人施設からやって来る膝関節症の男性や、療育園からやって来る肢体不自由児とも会うが、小橋の話しぶりや接し方は朔良に対するものと変わらなかった。
リハビリ後はマッサージをしながら、時間の許す限り互いに色々な話をする。
二人で過ごす時間は、瞬く間に過ぎた。
＊＊＊＊＊
「そう言えば、先生っておいくつなんですか？」
「朔良君は、２１だったっけ？」
「はい。三月生まれなので、先日。」
「いいねぇ。君の目の前にある選択肢は限りなくたくさんある。僕は君より一回りも上だよ。」
「そうなんですか？じゃあ、３３歳……三つか四つくらいは、上かなって思っていましたけど。３０歳超えているとは思いませんでした。」
「そう？だったら見栄を張って、もう少し若く言っておけばよかったかな。朔良君の目には、僕なんぞはいい年のおっさんの部類に入るんだろうね。」
「年齢を聞くと、そう思います。」
「そうか、やっぱり。僕も１０代のころは、３０代は十分おっさんだと思ってたよ。でも、自分が３０になると分かると思うけど、気持ちはなかなか年を取らなくて、まだ若いままなんだ。大人になれなくて、困っている。朔良君は、年の割に落ち着いて見えるね。」
「僕は、早く老人になりたいんです。」
「……は？それはまた……何故だい？今が一番いい時じゃないか。」
「この顔が……皺だらけになれば、目立たなくなるかと思って……」
小橋はまじまじと朔良を見つめた。
新しいお話です。どうぞよろしくお願いします。(〃ﾟ∇ﾟ〃)
だめっこ朔良は、ちゃんと恋する朔良になるでしょうか。
( *｀ω´) 「ぷんっ。だめっこじゃないもん。」
インストラクターを務める小橋は、主治医の友人だと紹介されていた。
柔和な笑顔が印象的な小橋は、朔良を上手く操縦する。周囲は心配したが、人嫌いで飽きっぽい朔良にしては途中で投げ出すこともなく、根気よくリハビリを頑張っていた。
「そうそう……、ゆっくりでいいからね。音楽に合わせて同じリズムで歩くんだ。」
「足を上げなきゃ駄目だよ。楽をしてたら訓練にならない。」
「真っ直ぐ僕に目を向けて。姿勢を正しくしてね。腕をしっかりと振る、そう。その調子だ、昨日よりいいよ、朔良君。」
水の中では体重が軽くなるため、膝への負担がかからなくなる。全体的に落ちた筋肉をつけるには効果的だった。
朔良がプールを使用する時間は、利用者の少ない平日の午前中だ。
便宜を図ってもらい、殆ど貸切状態になっている。
膝までしかない小さなプールは、水流を自動的に起こし、足に負荷を掛けるように計算されている特別なものだった。インストラクターの小橋は、健康運動実践指導者と理学療法士、心理カウンセラーの資格を持ち、プールと老人施設で働いていた。
「……きっつ～……」
プールサイドに腰を下ろし、肩で息をする朔良の肩に、ふわりと大きなバスタオルが掛けられた。
「お疲れさま。後で、撮ってあるビデオを見てみるかい？最初のころと比べると、別人のように姿勢が良くなっているよ。」
水滴を拭う朔良は首を振った。
「先生が見て良くなっているのなら、それでいいです。自分を見るのは好きじゃないから。」
「そう？僕は楽しみなんだけどな。努力が形になるのは、見ていて心地のいいものだよ？」
「褒められるのは嫌いじゃないから、先生が褒めてくれるだけでいいです。」
「そうか。じゃあ、いっぱい褒めてあげよう。よしよし、よく頑張った。えらかったね、朔良君。」
「僕はもう、頭を撫でられて喜ぶような子供じゃありませんよ。」
そう言いながら朔良は、どこか嬉しそうだった。
小橋はバスタオルを取り上げると、朔良の濡れた頭に被せごしごしと乱暴に拭いた。
自分を壊れ物のように扱わない小橋の態度を、最初はうがった目で見て居た朔良も、今は誰に対してもそうなのだと知っている。
たまに老人施設からやって来る膝関節症の男性や、療育園からやって来る肢体不自由児とも会うが、小橋の話しぶりや接し方は朔良に対するものと変わらなかった。
リハビリ後はマッサージをしながら、時間の許す限り互いに色々な話をする。
二人で過ごす時間は、瞬く間に過ぎた。
＊＊＊＊＊
「そう言えば、先生っておいくつなんですか？」
「朔良君は、２１だったっけ？」
「はい。三月生まれなので、先日。」
「いいねぇ。君の目の前にある選択肢は限りなくたくさんある。僕は君より一回りも上だよ。」
「そうなんですか？じゃあ、３３歳……三つか四つくらいは、上かなって思っていましたけど。３０歳超えているとは思いませんでした。」
「そう？だったら見栄を張って、もう少し若く言っておけばよかったかな。朔良君の目には、僕なんぞはいい年のおっさんの部類に入るんだろうね。」
「年齢を聞くと、そう思います。」
「そうか、やっぱり。僕も１０代のころは、３０代は十分おっさんだと思ってたよ。でも、自分が３０になると分かると思うけど、気持ちはなかなか年を取らなくて、まだ若いままなんだ。大人になれなくて、困っている。朔良君は、年の割に落ち着いて見えるね。」
「僕は、早く老人になりたいんです。」
「……は？それはまた……何故だい？今が一番いい時じゃないか。」
「この顔が……皺だらけになれば、目立たなくなるかと思って……」
小橋はまじまじと朔良を見つめた。
新しいお話です。どうぞよろしくお願いします。(〃ﾟ∇ﾟ〃)
だめっこ朔良は、ちゃんと恋する朔良になるでしょうか。
( *｀ω´) 「ぷんっ。だめっこじゃないもん。」
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