朔良―そのままの君でいい 9
「何かあったんですか?」
「何が有ったって?その部屋の中ですよ。森本先生の研究室です。」
「は……?」
「織田さん、大丈夫だったんですか?妙な大声が森本先生の部屋から聞こえて来たと、患者さんがナースステーションに血相変えて走って来たんです。だから、わたし達。ねぇ、看護師長?」
「そうですよ。森本先生が顔色を変えて、織田さんが部屋にいるっておっしゃったものだから……若いナース達が、すっかり慌ててしまって。」
「もしかすると病院の裏手の山から、猪か猿でも入って来たのかもしれないって、みんな大騒ぎ。」
「もし動物じゃないなら不審者が侵入したんじゃないかって、言いだす者もいて、今、玄関の警備員さんを呼びに行ったところです。」
「何でも、大型犬が盛ってるみたいな声だったそうですよ。」
「いや~ん、気味悪い。」
小橋は絶句した。
「盛……って。」
「……あの……すみません。」
朔良はちらと小橋を見やった後、仕方なく頭を下げた。
「僕の足のマッサージを小橋先生がしてくださっていたのですが、余りに痛かったので思わず叫んでしまったんです。……その……盛った犬みたいな大声は、僕の声です。」
看護師たちは顔を見合わせた。
「うそ~!」
「え~、そうなんですか?織田さんの声なら、わたし達も分かると思うんですけど……」
「でも、まあ、声の正体がわかって一安心しました。じゃ、わたし達、持ち場に戻りま~す。」
「申し訳ありませんでした。」
「あっ!そう言えば誰か島本先生を呼びに行ったんじゃなかった?」
「行きましたよ、外科のナースが数人……あ、来た。島本先生だ~!」
「喧嘩強いんでしょ?ほら、前に酔っ払いが暴れた時も、島本先生が捕まえて警察に突き出したんじゃなかった?」
「そうそう……ほら、気合入ってるんじゃない?誰か、言わないと。」
そこにいた看護師が手を振ったのに、島本は気付いたが、誤解したままだった。
朔良の姿を確かめ、側に佇む小橋を見て、島本は何を思ったかすごい勢いで走ってきた。
「貴様が不審者かーっ!朔良姫……朔良から離れろ!」
「あ……違っ……!」
小橋に言い訳を許さぬまま、島本は襟首をつかむと締め上げようとしたが、実際空中に飛んだのは島本の方だった。
「せいっ!」
腕を掴まれたまま、綺麗に背負い投げを決められて、島本は床に落とされた。
「う~!あたたっ……」
「……何してるの?」
「く……っ……くそ~、不審者に襲われてたんじゃなかったのか?朔良。」
「誤解だって説明しようとしているのに、いきなり飛び掛かって来るからこんなことになるんですよ。」
「織田朔良が不審者に襲われてるって、外科のナースが血相変えて走って来たんだよ。慌てるだろう?」
「はぁ?小橋先生は柔道の有段者ですよ。それに……こんな白昼堂々、医者の部屋で誰が襲うって?ちょっと考えればわかるでしょう。」
「すまん。事態をちゃんと確認すべきだった。」
「僕を幾つだと。それに、助けに来て投げられたら何の意味もないでしょう、みっともない。」
しょんぼりとその場に恥じ入る島本に朔良は容赦なかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
|ω・`) お騒がせして申し訳ない……←小橋
\(゜ロ\)(/ロ゜)/「朔良ーーっ!」
あと、もう少しで終わります。お付き合いくださればうれしいです。此花咲耶
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