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朔良―そのままの君でいい 2 

朔良の主治医が先日、語っていたことを思い出す。
小橋を休日に呼び出し、朔良の事を頼みたいと主治医は頭を下げた。

「わざわざ呼び出してまで、患者の事を頼むなんて、先生にしちゃ珍しいですね。」

それだけで特別な患者なのだろうと、感じていた。
「君にリハビリしてほしい子は、僕がうんと小さなころから見てきた子なんだ。見たこともないくらい綺麗な子なんだよ。きっと君も驚くと思う。」
「へぇ。それは楽しみだ。一体どんな子なんです?」

そう言われると、少し気になる。

「いい子だよ。ただ足だけじゃなく、少しばかり内側にも問題を抱えているんだ。繊細だけど癇癪持ちで、症状は軽いけど時々パニックを起こす。心を開いているのは家族以外で、ただ一人だけだ。一つ違いの従兄弟の言う事しか聞かない。打ち解けて仲良くなるのには、君でも時間がかかると思う。」
「それは、どういうことでしょう?」
「会えばわかると思うが……自分の事が嫌いなんだよ。朔良君は過去に有った不幸なことが、全て自分のせいで起きたと思っている。出来れば朔良君が前向きになれるようにしてほしいんだ。」
「それはまた難問だな。怪我に関係するリハビリなら、少しは経験もあるし対処法も分かると思うんですけどね。」
「心理カウンセラーとしての君ではなく、君が本来持っている明るさに掛けたいんだ。小さなころから知っているから、本当は僕が何とかしたいんだけど、時間も取れなくてね。力になってやってくれ。君なら僕よりも年も近いしきっと朔良君も、心を開くんじゃないかと思うんだ。頼むよ。」
「困ったなぁ。綺麗な子だなんて言えば、僕が断らないと思って話しているでしょう?」
「ばれていたか?はははっ。君が面食いなのは昔から知っているからな。」
「先生には叶わないな。……え~と、午前中なら空き時間がありますから、様子見でいれてみますか?」
「本当のことを言うと、朔良君は今、一生懸命変わろうとしているんだ。いじらしくて何とか手を貸してやりたくてね。」
「そんなに可愛いんですか?」
「ああ。息子のようにね。」

そこまで思い入れのある患者を託したいと言う。
小橋は少なからず興味もわいて、二つ返事で引き受けた。

初めて朔良に会った日、小橋は想像以上の美貌に、思わず「なるほどね。」と口にした。
うっかり発したその言葉に、目の前で一瞬強張った朔良の表情を、小橋は見逃さなかった。
一瞬で氷の壁を作って、向こう側に行ってしまった気がする。

*****

早く老人になりたいと口にした朔良の上気した頬は、桜の花片のように薄く色づいて透明だった。磁器人形のように毛穴を感じさせない滑らかな肌は、本来なら稚けない子供のものだ。
二十歳を過ぎていると言うのに、髭が生える兆しはあるのだろうか。生まれつき薄い体質かもしれないと思う。
もしも少女ならば、どれだけの美少女になっただろう。
朔良がいたたまれなくなるくらいの長い間見つめた後に、小橋はふっと柔らかく破顔した。

「駄目だ。想像してみたけれど朔良君は年をとっても、あまり変わらない気がする。」
「……そうですか。」
「そんな露骨にがっかりしなくてもいいんじゃない?おいで。マッサージをするよ。」
「はい。」

小橋が主治医にどこまで話を聞いているのか、朔良には分からない。
もうあまり詳しくは覚えていないが、乱暴された後、恐ろしい病気に感染していないか調べる為、心のケアも含めてしばらく入院していた。
そんなことを、小橋は知っているのだろうか。一回り違っているなら、その頃小橋はまだ学生だったはずだ。
主治医の友人と言いながら、見た目からしても、年はずいぶん離れている気がする。
どんな知り合いなのか、詳しく聞いた事は無かった。

リハビリに通う毎日、とりとめのない会話を交わす中で、小橋と話をしていると不思議に気持ちが楽になる気がしていた。
時折り話の中で、小橋は朔良が欲しい言葉をくれた。
心理カウンセラーの勉強もしていたと言うから、そのせいかもしれない。
リハビリに通う必要が無くなっても、朔良は小橋に会いたくて、プールに顔を出した。
朔良がそう口にする事は無かったけれど……




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

朔良の知らないところで、交わされた朔良の主治医と小橋の会話。
でも、どうやら主治医はすべてを話してはいないみたいです。

 ( -ω-)y─┛~~~~「見たこともないくらい綺麗な子なんだよ。」
(〃▽〃)「楽しみ~~」


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