朔良―そのままの君でいい 11
「行きましょうか、小橋先生。」
「あ、うん。……その、ごめん、朔良君。……まさか、僕が叫んだのが原因で、こんなことになるなんて。」
「僕もびっくりしましたよ。まさに、野獣の咆哮だったみたいですね。そういう馬鹿なところは、どこか、あそこで這いつくばっているガマガエルと似ている気がします。」
「馬鹿な上に、ガマガエルって……ひどいなぁ。彼は朔良君には余り好かれてないのかな。」
「ガマガエルが気に入らなければ、ウシガエルでもいいですよ。何なら、四方を鏡で囲って脂汗でも流させてやりたいくらいです。」
「蝦蟇の油売りの口上じゃないか……ははっ。彼は朔良君を助けに来たのに、酷い言われ様だ。何かあったの?」
小橋はふと気になって聞いてみた。
朔良は病院の敷地に植わった、桜の膨らみかけた蕾を指で弾いた。
「正直言うと、あいつを一生許さないと思ったこともありました。でも、もういいんです。」
「……というと?」
「過ぎた話ですよ。車はどこですか?」
過ぎた話が気になるんだけど……と、話を振りたかったが、朔良はどんどんと先を行く。
小橋は肩をすくめて先を行く朔良を追った。
*****
「へぇ。ここが小橋先生の家ですか……?思ったより綺麗だし、広そうですね。」
「中古物件だけどね、一応持家だよ。上ろうか。」
「はい。」
「ただうちは三階なんだ。エレベーターが工事中で使えないんだよ。階段で申し訳ない。」
初めて足を入れた小橋の家は、中古マンションといいながらリフォームも済んでいるせいか、とても清潔な印象だった。
ほんの少し足を流しながら、ゆっくりと朔良が登ってゆく。
「手を貸そうか?」
「結構です……と、言いたいですけど、三階は、ちょっときついです。やっぱり手を貸して下さい。良いリハビリになりそうですけど……きついです。」
「抱き上げたいくらいなんだけれど、叱られそうだからやめておくかな。」
朔良はふと踊り場から階下を見下ろして、思わず歓声を上げた。
「わあ。すごい!」
桜並木を見下ろした形になって、薄桃色の桜花は風に弄られる度、ざっと音を立てて花弁を散らした。
「いい眺めですね。桜をこうやって見下ろして眺めるなんて思いもよりませんでした。小橋先生……?」
「あのね、朔良君。僕の下の名前は旭日というんだ。あさひ。これまで話したこともなかったけど、そう呼んでくれる。いつまでも、小橋先生はないと思うんだ。」
「僕たちは、色々と順番が違っている気がしますね。では、旭日さん。」
「うん。朔良君。」
二人は自然に寄り添って抱き合うと、軽く口づけを交わした。
一陣の風が、桜の大木を揺らし、祝福のように花弁が舞いあがった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
やっとどうにか恋人らしくなってきました。
[壁]ω・)チラッ……「ガマガエルって……?」
♪ψ(=ФωФ)ψ「ヒキガエルでもいいし~」
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