朔良―そのままの君でいい 8
「朔良君……」
腕の中にいる華奢な生き物を抱きしめた小橋は、僥倖に震えていた。
朔良が求めていたものを、小橋は初めて理解した気がする。
この青年はこれほどまでに、純粋に誰かに愛されたかったのだ。
朔良の欲求と小橋の告白が奇跡のように合致した。
小橋はそっと朔良の唇に触れた。柔らかな感触に互いの鼓動がはねる。
合わさった桜色の二枚貝は薄く開き、ぎこちなく小橋に応えた。朔良の濡れた頬に朱が走っていた。
「ああ……どうしよう、朔良君。嬉しさの余り叫びたいよ。ちょっと叫んでもいい?」
「……小橋……先生?ここで?」
小橋は朔良を抱きしめたまま、本当にその場で両手を上げてやったぁ!万歳!と大声で叫び、朔良を笑わせた。
「朔良君。そんなにおかしい?泣きながら笑わなくても……」
「あはは……っ。おかしいですよ、だって万歳する姿って、選挙の時くらいしか見たことないです。」
「それだけ嬉しいんだよ。感動してるって言った方が良いかな。本当にずっとこうして朔良君に触れるのを夢見て来たんだからね。気持ちが通じるなんて思ってもみなかった。信じられないよ。」
「触っていたじゃないですか。週に三回。」
「それは、理学療法士としての仕事の部分だ。その時間は誓って、僕は邪な気持ちを抱いてない。ひたすら朔良君の筋肉とだけ対話していたんだよ。」
「ええ。先生を信じます。今の僕を見て、誰も半年前までまともに一人で歩けなかったとは思わないでしょうね。」
「最高の褒め言葉だ。君もいつか、誰かにそう言われたら、今の僕の気持ちが判るよ。」
「先生のようになれるように、頑張ります。手を貸して下さいね、小橋先生。」
返事の代わりに、もう一度朔良を抱きしめ唇を落とした小橋だった。
*****
「話をしよう、朔良君。うんとたくさん。取りあえず、どこかで食事でもする?」
「僕も先生と話がしたいです。僕は先生の事を何も知らないから。」
「そう?僕の人生なんて柔道三昧で変わった事なんてないけど、面白い話ならいっぱいあるよ。」
促されて朔良は立ち上がった。
二人で部屋の外に出ると、そこには数人の看護師が手に手にモップなどを持ち待ち構えていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
一気読みして、たくさんの拍手をくださった方、ありがとうございます。
嬉しくて、此花舞踊りです~くるくる~ ヾ(〃^∇^)ノ
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