朔良―そのままの君でいい 13
「じゃ、帰ります。」
「え~っ!?」
小橋は慌てた。
必死に告白して、ここまでやっと連れて来たのに、帰られたのでは苦労が無駄になる。
「待って、朔良君。すまない。直ぐに開けるよ。ただ言い訳だけ先にさせてくれるかな。いつもはこうじゃないんだよ。僕はどちらかというときちんとしている方だと自分では思ってる……どうぞ。」
重い鉄の扉が、やっと開いて朔良は足を踏み入れた。
想像通りの温もりのある空間だった。小橋の言う通り、そこまできちんと片づけられてはいないが、それでも雑然としてはいない。
仕事に懸命で、自分の事に手が回らないという印象を受けた。
「座っても?」
「あ。どうぞ。後、何か飲む?アルコールもあるけど?」
「では、ジンジャーエールを下さい。」
「ちょっと待っててね。ソファに掛けていて。」
小さなキッチンで甲斐甲斐しくグラスを用意する小橋が、朔良が座っているソファから見えた。
初めて訪れた部屋なのに、何故か心地よい。ずっと欲しかった居場所を手に入れた気がして、朔良は涙ぐんだ。
小橋に見られないように、そっと涙をぬぐったが、ずっと朔良を目の端でとらえていた小橋は朔良の様子に気付いた。
「朔良君。今日はゆっくりできる?」
「はい。」
「そう、良かった。疲れていなければ、夕食の買い物に出ようか?」
「作るんですか?」
「そうしたいんだけど、いいかな?一人暮らしが長いから、少しは料理もできるよ。何が食べたい?」
「北京ダック。」
「朔良君……あのね。」
「冗談です。」
顔色も変えない朔良の冗談に、小橋はふいた。
「やっぱり見栄張るの止めようかなあ。晩御飯はレトルトのカレーでいい?サラダは作るから。」
「いいですよ。でも、どうしてですか?」
「どうしてって、少しでも長く一緒にいたいからに決まってるじゃないか。」
「そうですね。来年の今頃は、きっと僕はいなくなりますから。旭日さんの言う、ぴちぴちに囲まれて……あ、それ以前に受験勉強が忙しくなるかな。」
「朔良君。小父さんをいじめると、後悔するぞ。」
くすくすと朔良が笑う。
「小父さんだなんて思っていませんよ……って言ったのに、信じないんですか?」
小橋はグラスを取り上げると、冷たいジンジャーエールを一口飲んだ。
そのまま近寄ると、ついと朔良の顎を持ち上げた。
朔良が頷くと、小橋の顔が近づいて来る。こくりと喉を冷たい飲み物が流れてゆく。
首筋に溢れたジンジャーエールを、小橋は舐めとった。
朔良の腕が、小橋の背に回り、二人は何度も口づけた。浅く深く、求め合うキスは、ジンジャーエールの味がした。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
- 関連記事
-
- お絵かき 朔良2 (2014/04/18)
- お絵かき 朔良 (2014/04/15)
- 番外編 それからの朔良 【後編】 (2014/04/10)
- 番外編 それからの朔良 【前編】 (2014/04/08)
- 朔良―そのままの君でいい 16 【最終話】追記、あとがき (2014/04/07)
- 朔良―そのままの君でいい 15 (2014/04/06)
- 朔良―そのままの君でいい 14 (2014/04/05)
- 朔良―そのままの君でいい 13 (2014/04/04)
- 朔良―そのままの君でいい 12 (2014/04/03)
- 朔良―そのままの君でいい 11 (2014/04/02)
- 朔良―そのままの君でいい 10 (2014/04/01)
- 朔良―そのままの君でいい 9 (2014/03/31)
- 朔良―そのままの君でいい 8 (2014/03/30)
- 朔良―そのままの君でいい 7 (2014/03/29)
- 朔良―そのままの君でいい 6 (2014/03/28)
- 嘘つきな唇 >
- 朔良―そのままの君でいい
- 2
- 0