朔良―そのままの君でいい 10
「後先考えないで、力押しみたいなことやってるから、こうなるんだ。」
小橋はがしがしと頭を掻いた。
島本に対する朔良の冷たい態度は、先ほど自分の胸の中で泣いた人物と同じだとは思えない。
「あの……朔良君。そこまで言うと気の毒というか……すまない、君。反射的につい投げてしまった。どこも傷めてはいないか?」
「頑丈ですから、大丈夫ですよ、このくらい。それに、少しくらい投げられて壊れるような繊細さはこの人にはありません。」
「あの……朔良君?君、ほんとに先ほどからひどくない……?」
容赦なく辛辣な言葉を島本にぶつける朔良に、小橋は何と言葉を掛けて良いのか困ってしまう。
すると、朔良はふっと悪戯な瞳を三日月の形にして、島本に見えないようにして唇にしっと指を当てた。その姿は、どこか嬉しそうに見えた。
「まあ、心配して飛んで来てくたのは確かだし……一応、ありがとうございます。……と、言っておくかな。」
「いや。役に立たなくてすまなかった。」
「それと、これからは小橋先生が僕の傍に居てくださるので、あんたはもう安心してくれていいから。」
「傍に……?それは……そういう事なのか?」
「ええ、そういう意味です。」
くすっと、小さく朔良は笑った。
「そうか!良かったなぁ!朔良ひ……朔良。」
朔良は口調を変えた。いつものように、高飛車な朔良になっていたが、眼差しは優しい。
「だから、あんたももう自由になっていい。僕には、元々失ったものはないんだから。」
島本がくしゃと顔をゆがめるのを見ると、朔良は再び冷たく吐き捨てた。
「……泣き顔、汚い。」
「こら、朔良君、言いすぎ。」
「ぷんっ。」
「朔良……っ!朔良……!」
手を伸ばしかけた島本は、そのまま拳を握り込んだ。真正面から朔良に触れる勇気は、まだないらしい。
朔良の足元に座り込んだ島本の目線に、朔良は降りた。
ふっと微笑む朔良は、島本の知る氷の朔良ではなかった。
「あのね……あんたにも、教わったことが有るよ。」
「俺に……?」
「うん。過去は変えられないけど、その気にさえなれば未来は変えられるって分かった。今の僕の為に、昏い過去が有ったんだって、やっと思えるようになったから。」
「そうか。俺はこの病院で再び出会った朔良に救われた気がしてる。強くなったな。前は綺麗なだけのお人形みたいだったのに。」
「お互い、今を大切にしろってことだね。いつか、いずみちゃんに会った時に、笑顔で会えるように僕も頑張るから。」
「……朔良は、どこかへ行くのか?どこへ行くか、聞いてもいいか?」
「そうだよ。でもどこへ行くかは教えてあげない。」
「朔良……」
「いつかまた、どこかで会うこともあるよ……あげるよ、それ。」
朔良は優雅にハンカチを渡すと小橋に向き直った。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
Σ( ̄口 ̄*)「朔良が優しい……?」
( *`ω´) 「僕は、いつだって菩薩のように優しいもん。」
(°∇°;) 「え~と……ほんと?」
(〃゚∇゚〃) 「うん。」
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