2ntブログ

番外編 それからの朔良 【前編】 

朔良は彩を呼び出し、小橋を紹介することにした。
いつまでも、恋人のできた彩を祝福できない狭量な弟ではいたくなかったし、旭日とも会ってもらいたかった。

「あの……おにいちゃん、紹介します。こちら、リハビリの先生で小橋旭日さん。理学療法士の先生です。」
「朔良が通っているプールの?初めまして。朔良がいつもお世話になっています。従兄弟の織田彩です。」
「小橋です。」
「家もすぐ近所なので、一つ違いの朔良とは、子供のころから兄弟同然なんです。」
「そうですか。」

小橋の方はと言えば、「おにいちゃん」と朔良が口走った時に、彩が朔良にとっては特別な存在なのだと気づいてしまった。話の中で「おにいちゃん」と朔良が口にする度、妙に胸の中がざわつく理由が何となくわかった気がする。
兄弟同然で育ったと言う、快活な青年。自分の方が後から朔良と知り合ったと言うだけで、何故かこいつには叶わないと言う印象を受けてしまい、思わず顔が強張る。
朔良の知らない歴史を知っている彩が、一体どういう人物なのかわからないまま小橋は対峙していた。
しかし、彩は相変わらずの飄々とした口ぶりで、二人の関係をあっさりと看破した。

「小橋さんは、朔良と付き合っているんですよね?朔良は鼻っ柱が強いから、機嫌を取るのに骨が折れるでしょう?」
「ええ、それはまあ……。あの……何故、付き合って居ると……?」

それには答えず、彩は頭を下げた。

「朔良をよろしく頼みます。朔良が誰かを紹介したいなんて言って来たのは初めてなんです。本当の朔良は、ご存知ですか?いつも朔良は、仏頂面で機嫌が悪そうにしているでしょう?最初は、小橋さんも戸惑ったんじゃありませんか?」
「そうですね。でもすぐに分かりました。朔良君は、とても素直な患者でしたし、人嫌いに見えるけど、それは相手が良く分からないから、不安で踏み込めないだけではないかと……と思っています。」
「そう!そうなんです。」

彩は人好きのする満面の笑みを、朔良に向けた。

「……良かったなあ、朔良。この人は朔良の事をとてもよくわかってくれているじゃないか。大抵の人は、朔良の上っ面だけを見て、とっつきにくいって言うのにな。ちゃんと、朔良の内側を見てくれているんだな。」
「うん。」

朱の走った頬で、朔良は小橋を見つめていた。

「だとすると、当面の問題はおばさんだな?いきなり、この人と付き合ってますとは言えないよなぁ。」
「絶対言えない。きっとマ……お母さんは僕が誰かと付き合うなんて言ったら卒倒するよ。でも、いつかはきちんと話したいと思ってる。」
「いつだったか、バレンタインに山ほどチョコレートが届いた時、朔良が女の子と付き合うのは嫌よ、絶対に家に連れて来ないでねって言い放ったのは知ってるけど。相手が男ってのはどうなのかな。」
「わかんない……僕も考えたこともなかったから。」
「カムフラージュを考えるか。二人で出かけたりすることも増えるだろうからね。」
「うん。一緒にいたいよ。」
「おばさんは面食いだから、つきあう相手が朔良よりも綺麗な子なら問題ないはずなんだ。」
「うん。」
「でもさ、どう考えても周囲には、適任がいないよな。」
「あの……僕が言うのもおかしいと思うけど。朔良君より綺麗な子と言うのは難しいんじゃないか。」

きっぱりと当事者の小橋が言い切った。

「小橋さんもそう思います?そうなんですよ。僕も朔良より綺麗な子って、見たことが無いです。」
「……じゃ、この案は無しだな。」

話は振り出しに戻った。

*****

「朔良のおばさんはちょっと変わっているから、俺には落としどころが分からないぞ。」
「……僕はいつも一緒にいるから、マ……お母さんを変わっているとは思わない。過保護だとは思うけど。」
「ぷ……。朔良君。無理しなくても、ママでいいよ。」
「叔母さんが、朔良が二十歳になった時に、朔良に恋人の条件を出しただろう?覚えているか?」
「ん~っと。確かママが僕の恋人に出した条件は……ちゃんと僕を守れるだけの腕っぷしがあること。ある程度の経済力があること。だったかな。」
「そして、もう一つ。叔母さん的に重要な事。並んで絵になることだ。」

彩と小橋は顔を見合わせた。

「ね?この条件、どう思います?」
「……母親として朔良君の事を大切に思っているのは確かだと思うけど。腕っぷしというのは、女の子に出す条件ではないような気がするなぁ。後、朔良君ならともかく、並んで絵になるというのは……」
「僕も最初聞いた時、叔母さんは冗談で言っているんだろうと思ったんです。でも、叔母さんは、朔良に関しては冗談を言うタイプではないし。」
「う~ん。」

三人は顔を見合わせまま、でない答えを探していたが、取りあえずお茶でも飲もうと言う事になった。
茶菓子は、小橋が二時間並んで朔良のために買って来た、うさぎやのシュークリームだ。

「朔良、うさぎやの洋菓子好きだよなぁ。」
「うん、好き。ありがとう、旭日さん。」

朔良はいそいそと、運んできた小皿に盛り付けた。
小ぶりのシュークリームには甘さを控えたカスタードがたっぷりと入り、カットフルーツと生クリームでデコレーションされホワイトチョコレートでコーティングされている。小さなチョコレートでできた兎が、てっぺんで跳ねていた。

「ん~、おいしそう~。可愛いよね、これ。」

何が食べたい?と聞いたら、迷わずうさぎやのシュークリームと返事が返って来て、それは確実に店頭で二時間並ぶことを意味していた。大の男が洋菓子店にいるだけで浮いているのに、朔良はそういう事は無頓着だった。
小橋が自分のために買って来てくれたことだけが嬉しかった。

「あそこ二時間待ちでしょう。お気の毒です。」
「いや。朔良君が好きだから。」
「朔良。二時間も並ばせるんじゃないよ。大体、自分が並びもしない癖に、無理を言うんだから。そんな我ままじゃ、いつか小橋さんに嫌われるぞ。」
「え?だって……何が食べたいって旭日さんが聞いたから……嫌いになる……?うりゅ……」

しょんぼりとうつむく朔良に、旭日は慌てた。
睫毛が濡れて、涙が零れ落ちるのではないかと焦った。

「あ~!……そうだ、思いだした!僕も食べたかったんだ。だから朔良君が悪いんじゃない。僕が食べたかったから、買って来たんだよ。」
「……すん……」

朔良は黙って小橋のシャツにしがみついた。
甘やかしてくれる小橋が、宥めるように抱いた朔良の頭を撫でてくれる。
抱きあう二人を見た彩は、ついため息交じりに口にした。

「尻に敷かれる覚悟はある……んだ。」





本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

朔良のその後のお話です。
彩とママに、旭日さんを紹介するのでっす。(`・ω・´)


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ




関連記事

1 Comments

nichika  

二時間待ち・・・わっまた来ます

2014/04/10 (Thu) 20:32 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment