終(つい)の花 1
小高い山の上にある神社の石段を、駆けてゆく小さな影が有った。
忙しなく息を切らせて登ってゆく。
「どうか叔母上に、丈夫なやや(子供)が生まれますように。」
小さな両手を合わせてそう呟くと、ガラガラと鈴を鳴らして小石を一つ置いた。
どうやら願掛けをしているらしい。
往復するたび、足元に並べる小石が増えてゆく。
まだ前髪の少年の名は、相馬直正(そうまなおまさ)。まだ寺子屋に通う前で6歳になったばかりである。
「どうか叔母上に、丈夫なやや(子供)が生まれますように。」
陣痛の始まった叔母の身を案じて、直正は何度も階段を駆け上がり祈りを捧げた。
*****
隣の家に嫁した叔母が子を宿した時から、神社に通い手を合わせるのが直正の日課になっていた。
産み月を迎えた叔母は、直正の父親の妹だった。余り丈夫な性質ではなかったため、なかなか子宝には恵まれなかったのだが、嫁して七年目にやっと念願の子供を宿した。
家人はもとより、姉妹しかいない甥の直正の喜びようは、相当なものだった。
ある宴席で、臨月に入った腹の子が、男か女かで大いに盛り上がった。
直正も傍に居て小さな妹をあやしていたのだが、叔母の家系は女腹だから女に違いないという大人達の会話を小耳にはさんだ直正が、ぽつりと事も無げに口にした。
「叔母上のややなら、男児に決まっておりますのに……。」
「まあ、直正。そんなことを軽々に言ってはなりませぬよ。子は天からの授かりものなのですから。男でも女でも元気に生まれてくれれば、それだけでよろしいのです。」
聞きとがめた母は、即座に直正をたしなめた。
「直さまは、わたくしに男児が生まれて来ると思うのですか?」
大きな腹を抱えた叔母が、直正に栃餅を勧めながら笑顔を浮かべた。
「はい。叔母上。わたしはややの夢を見たのです。」
「夢を?どのような夢です?」
「もうすぐ直正さまのお傍にまいりますから、待っていてくださいと白い着物を着た小さな男の子がわたしの夢枕に立ったのです。叔母上によく似ていたので、わたしにはすぐにお腹のややが会いに来たのだとわかりました。待っているから、遊ぼうねと、その子とわたしは固くげんまんをしたのです。」
「直正。それは正夢だろうよ。良かったのう、濱田の家も嫡男を得て万々歳じゃ。」
舅の言葉に、満座の大人はどっと笑ったが、きっぱりと言い切った直正に、母は呆れて小さくため息をついた。
「直正。お前は姉妹ばかりの中にいて、弟が欲しいと思っているからそんな夢を見たのでしょう。お腹のややが会いに来るなど、荒唐無稽なことは武士が容易く口にするものではありませぬ。」
「……はい、母上。」
「義姉上さま。それでも直さまのお気持ち、わたくしはとてもうれしく思います。濱田の家に男児が生まれてくれれば、お舅さまもどれほどお喜びになるでしょう。直さま。ややが生まれたら、仲良くしてやってくださいね。」
「はい。叔母上。」
直正は明るい顔を向けた。
「直正は、きっと仲よく致します。ですから、どうぞお体に気を付けて元気なややを産んでください。」
直正は、叔母に向かって丁寧にお辞儀をした。
「ありがとう、直さま。わたくしは体が丈夫ではないので、子を産むのが怖いと思っておりましたが、この子を直さまが待っていてくださると思うと、力が湧きます。」
「大丈夫です。叔母上。無事にややが生まれるように、直正が毎日、神仏にお願いに参りますから。」
「まあ……うれしい。」
えへんと咳払いをして、夫が帰って来た。
「どうやら内儀は、わたしが傍に居るよりも直正の夢の方が力になるらしいな。」
「あ……あなた。お帰りなさいませ。直ぐに、すすぎの湯をお持ちいたします。お帰りに気が付かず、申し訳ございませぬ。」
「よいよい。楽しげな様子だったので声を掛けなかったのだ。それに、桶など持たせて、身重の体に何かあったらなんとする。直正に叱られるではないか。」
「叔父上、お帰りなさいませ。夢の話をしていたのです。」
「うん。直正は、神仏に願まで掛けてくれているのだな。ありがたいことだ。」
「はい。お任せください、叔父上。」
「忝い、相馬直正どの。今後もよろしく頼む。」
神妙に叔父も頭を下げ、場は和やかだった。
お読みいただきありがとうございます。
一人目の主人公はまだちびっこで、しかももう一人は母上のお腹の中にいるという……(*⌒▽⌒*)♪えっへっへ。
BLの欠片もないぞっ!■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
|ω・`) ……これからだもん……
会津弁を使いたいのですが、なかなかむつかしいのです。お友だちに会津出身の方がいるけど、小説書いてるのは話したことがないので力になってもらえないのです……(´・ω・`)
誰か、アドバイザーになって下さらないかなぁ……アプリと翻訳サイトがあるので、どうしようかと思ったのですが、会津武士はきちんと礼法を学び綺麗な言葉を話していたので、方言はあまり使っていません。
少しは使いたいので、時々入れてゆこうと思います。
よろしくお願いします。 此花咲耶
忙しなく息を切らせて登ってゆく。
「どうか叔母上に、丈夫なやや(子供)が生まれますように。」
小さな両手を合わせてそう呟くと、ガラガラと鈴を鳴らして小石を一つ置いた。
どうやら願掛けをしているらしい。
往復するたび、足元に並べる小石が増えてゆく。
まだ前髪の少年の名は、相馬直正(そうまなおまさ)。まだ寺子屋に通う前で6歳になったばかりである。
「どうか叔母上に、丈夫なやや(子供)が生まれますように。」
陣痛の始まった叔母の身を案じて、直正は何度も階段を駆け上がり祈りを捧げた。
*****
隣の家に嫁した叔母が子を宿した時から、神社に通い手を合わせるのが直正の日課になっていた。
産み月を迎えた叔母は、直正の父親の妹だった。余り丈夫な性質ではなかったため、なかなか子宝には恵まれなかったのだが、嫁して七年目にやっと念願の子供を宿した。
家人はもとより、姉妹しかいない甥の直正の喜びようは、相当なものだった。
ある宴席で、臨月に入った腹の子が、男か女かで大いに盛り上がった。
直正も傍に居て小さな妹をあやしていたのだが、叔母の家系は女腹だから女に違いないという大人達の会話を小耳にはさんだ直正が、ぽつりと事も無げに口にした。
「叔母上のややなら、男児に決まっておりますのに……。」
「まあ、直正。そんなことを軽々に言ってはなりませぬよ。子は天からの授かりものなのですから。男でも女でも元気に生まれてくれれば、それだけでよろしいのです。」
聞きとがめた母は、即座に直正をたしなめた。
「直さまは、わたくしに男児が生まれて来ると思うのですか?」
大きな腹を抱えた叔母が、直正に栃餅を勧めながら笑顔を浮かべた。
「はい。叔母上。わたしはややの夢を見たのです。」
「夢を?どのような夢です?」
「もうすぐ直正さまのお傍にまいりますから、待っていてくださいと白い着物を着た小さな男の子がわたしの夢枕に立ったのです。叔母上によく似ていたので、わたしにはすぐにお腹のややが会いに来たのだとわかりました。待っているから、遊ぼうねと、その子とわたしは固くげんまんをしたのです。」
「直正。それは正夢だろうよ。良かったのう、濱田の家も嫡男を得て万々歳じゃ。」
舅の言葉に、満座の大人はどっと笑ったが、きっぱりと言い切った直正に、母は呆れて小さくため息をついた。
「直正。お前は姉妹ばかりの中にいて、弟が欲しいと思っているからそんな夢を見たのでしょう。お腹のややが会いに来るなど、荒唐無稽なことは武士が容易く口にするものではありませぬ。」
「……はい、母上。」
「義姉上さま。それでも直さまのお気持ち、わたくしはとてもうれしく思います。濱田の家に男児が生まれてくれれば、お舅さまもどれほどお喜びになるでしょう。直さま。ややが生まれたら、仲良くしてやってくださいね。」
「はい。叔母上。」
直正は明るい顔を向けた。
「直正は、きっと仲よく致します。ですから、どうぞお体に気を付けて元気なややを産んでください。」
直正は、叔母に向かって丁寧にお辞儀をした。
「ありがとう、直さま。わたくしは体が丈夫ではないので、子を産むのが怖いと思っておりましたが、この子を直さまが待っていてくださると思うと、力が湧きます。」
「大丈夫です。叔母上。無事にややが生まれるように、直正が毎日、神仏にお願いに参りますから。」
「まあ……うれしい。」
えへんと咳払いをして、夫が帰って来た。
「どうやら内儀は、わたしが傍に居るよりも直正の夢の方が力になるらしいな。」
「あ……あなた。お帰りなさいませ。直ぐに、すすぎの湯をお持ちいたします。お帰りに気が付かず、申し訳ございませぬ。」
「よいよい。楽しげな様子だったので声を掛けなかったのだ。それに、桶など持たせて、身重の体に何かあったらなんとする。直正に叱られるではないか。」
「叔父上、お帰りなさいませ。夢の話をしていたのです。」
「うん。直正は、神仏に願まで掛けてくれているのだな。ありがたいことだ。」
「はい。お任せください、叔父上。」
「忝い、相馬直正どの。今後もよろしく頼む。」
神妙に叔父も頭を下げ、場は和やかだった。
お読みいただきありがとうございます。
一人目の主人公はまだちびっこで、しかももう一人は母上のお腹の中にいるという……(*⌒▽⌒*)♪えっへっへ。
BLの欠片もないぞっ!■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
|ω・`) ……これからだもん……
会津弁を使いたいのですが、なかなかむつかしいのです。お友だちに会津出身の方がいるけど、小説書いてるのは話したことがないので力になってもらえないのです……(´・ω・`)
誰か、アドバイザーになって下さらないかなぁ……アプリと翻訳サイトがあるので、どうしようかと思ったのですが、会津武士はきちんと礼法を学び綺麗な言葉を話していたので、方言はあまり使っていません。
少しは使いたいので、時々入れてゆこうと思います。
よろしくお願いします。 此花咲耶
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