終(つい)の花 2
それからしばらくして、叔母は大変な難産の末、玉のような男児を産んだ。
「おめでとうございます。ご立派な若さまでございますよ。」
汗だくの産婆が告げると、待ちかねていた夫、舅は躍り上がって喜んだ。
「でかした!嫡男をあげたか!」
直ぐに隣りの直正の家にも、使いが走った。
「父上。ついに、お爺さまになられましたな。これに安堵していっそ楽隠居なさいませ。」
「何を言う。大事な跡取りの教育を、お前なぞに任せられるか。会津武士としての生きざまをだな……おお、来たか、あがれあがれ直正。既に守り役は適任者が居ったな。」
「確かに。これ以上の適任者は居りませんな。」
湯あみを終え、綺麗になって運ばれてきた赤子の頬をつつき、直正はにこにこと笑っていた。
つついた指を乳の代わりに吸おうと、赤子が追って口を開ける。
「まあ……この子は何てかわいいのでしょう。ばばさま。そっと抱き上げてもよろしいですか?」
「ややはまだ、目も見えておりませぬ。若さまが抱けるのは首が座ってからですよ。今少しお待ちくださいね。」
産婆がたしなめた。
「ああ、待ち遠しいなぁ。早く大きくならないかなぁ。春になったら、わたしと一緒に遊ぼうね。ずっと待っていたんだよ。やっと会えたね……」
赤子を覗き込んだ直正は、小さな耳にそっと囁いた。
濱田家に生まれた嫡男は、一衛(かずえ)と名付けられ、これから激動の時代を直正と共に生きてゆく。
夢の中で固くげんまんした約束を、直正は忘れていなかった。
成長した一衛も、直正をどこまでも慕った。
穏やかに時は流れてゆく。
*****
直正は胸を躍らせて、肥後の守(小刀)で竹を削る父の手元を見つめていた。
「さぁ、直正。もうすぐできるぞ。」
「父上。この竹とんぼは、お寺の大屋根まで飛びましょうか。」
「さあな。直正の手で、上手く飛ぶかな?」
「上手くいったら、一衛に見せてやります。」
休みの父が幼い嫡男の為にこしらえているのは、竹とんぼだった。
「ほら、できた。」
「わぁ!父上、ありがとうございます。」
「飛ばしてみろ。」
「はいっ。」
直正の小さな手では、まだ竹とんぼは高く飛ばなかった。ぽとりと足元に落ちた竹とんぼを悲しげに拾う直正に、力が足りないのだと父は笑った。
「ここへ持っておいで。直正。」
「なかなか、上手く飛びませぬ……」
「掌を強くすり合わせて、こうするのだ。そらっ。」
父は手を添えた。
「わあ~、飛んだ、飛んだ!!」
手から離れて、ぶんと大きな弧を描き、高く青空に跳ね上がった小さな玩具を追いかけて、直正は走ってゆく。
四月。
頬を弄る風が柔らかくなっている。
会津では、やっと凍てついた長い冬が終わろうとしていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
ちびっこ一衛が生まれました。(。・”・。)ノ ばぶ~♪
「か……かわいいです~♡」キュ━.+゚*(о゚д゚о)*゚+.━ン♡ ←直正はこんな感じになっています。
早く大きくなぁれ。 此花咲耶
下書きのままだった……すまぬ~(´・ω・`)
「おめでとうございます。ご立派な若さまでございますよ。」
汗だくの産婆が告げると、待ちかねていた夫、舅は躍り上がって喜んだ。
「でかした!嫡男をあげたか!」
直ぐに隣りの直正の家にも、使いが走った。
「父上。ついに、お爺さまになられましたな。これに安堵していっそ楽隠居なさいませ。」
「何を言う。大事な跡取りの教育を、お前なぞに任せられるか。会津武士としての生きざまをだな……おお、来たか、あがれあがれ直正。既に守り役は適任者が居ったな。」
「確かに。これ以上の適任者は居りませんな。」
湯あみを終え、綺麗になって運ばれてきた赤子の頬をつつき、直正はにこにこと笑っていた。
つついた指を乳の代わりに吸おうと、赤子が追って口を開ける。
「まあ……この子は何てかわいいのでしょう。ばばさま。そっと抱き上げてもよろしいですか?」
「ややはまだ、目も見えておりませぬ。若さまが抱けるのは首が座ってからですよ。今少しお待ちくださいね。」
産婆がたしなめた。
「ああ、待ち遠しいなぁ。早く大きくならないかなぁ。春になったら、わたしと一緒に遊ぼうね。ずっと待っていたんだよ。やっと会えたね……」
赤子を覗き込んだ直正は、小さな耳にそっと囁いた。
濱田家に生まれた嫡男は、一衛(かずえ)と名付けられ、これから激動の時代を直正と共に生きてゆく。
夢の中で固くげんまんした約束を、直正は忘れていなかった。
成長した一衛も、直正をどこまでも慕った。
穏やかに時は流れてゆく。
*****
直正は胸を躍らせて、肥後の守(小刀)で竹を削る父の手元を見つめていた。
「さぁ、直正。もうすぐできるぞ。」
「父上。この竹とんぼは、お寺の大屋根まで飛びましょうか。」
「さあな。直正の手で、上手く飛ぶかな?」
「上手くいったら、一衛に見せてやります。」
休みの父が幼い嫡男の為にこしらえているのは、竹とんぼだった。
「ほら、できた。」
「わぁ!父上、ありがとうございます。」
「飛ばしてみろ。」
「はいっ。」
直正の小さな手では、まだ竹とんぼは高く飛ばなかった。ぽとりと足元に落ちた竹とんぼを悲しげに拾う直正に、力が足りないのだと父は笑った。
「ここへ持っておいで。直正。」
「なかなか、上手く飛びませぬ……」
「掌を強くすり合わせて、こうするのだ。そらっ。」
父は手を添えた。
「わあ~、飛んだ、飛んだ!!」
手から離れて、ぶんと大きな弧を描き、高く青空に跳ね上がった小さな玩具を追いかけて、直正は走ってゆく。
四月。
頬を弄る風が柔らかくなっている。
会津では、やっと凍てついた長い冬が終わろうとしていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
ちびっこ一衛が生まれました。(。・”・。)ノ ばぶ~♪
「か……かわいいです~♡」キュ━.+゚*(о゚д゚о)*゚+.━ン♡ ←直正はこんな感じになっています。
早く大きくなぁれ。 此花咲耶
下書きのままだった……すまぬ~(´・ω・`)
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