アンドロイドSⅤは挑発する 2
やがて、あっくんは、健気にもきりりと涙を拭いた。
「……音羽が家政婦さんを頼みたいのなら、ぼくは反対しません」
「そう?君がいいなら、ちょうど家政婦を雇うべきだと考えていたから、渡りに船でいいかなと思っていたんだ。兄貴に、電話しておくよ」
「あっくんは、音羽に迷惑ばかりかけているから……止める権利がありません」
「あっくん。権利だなんて……違うよ。僕は君に迷惑をかけられたなんて思ってない。まあ、時々は失敗はするけど、可愛いもんだ」
「音羽……」
「君はいつも一生懸命だ。それは誰よりも僕が知っている。いいかい?君も僕も仕事を持っているだろう?両方すべてを完璧にこなすのは、物理的に無理だ。物事には、適材適所という言葉がある。できないことは誰かに助けてもらえばいい。僕はね、家電が壊れるたびに、あっくんが悲しむのを見るのが辛いんだよ」
「くすん……」
「作られたものはいつかは壊れるんだから、気にすることはないんだよ。早いか遅いかの違いだけだ。ぼくにとっては、あっくんが笑っていてくれる方が、大事だよ」
「音羽~大好き♡」
「ぼくもだ」
……ばかっぷる。
二人で住むようになってから半年経った。
そういえば、破壊された電子レンジは三台目だったかな……と、キスをしながらぼんやり音羽が考えた時、玄関のチャイムが鳴った。
「お荷物です」
「差出人は?」
「え~っと……秋月音矢さんです、相手の御住所はマサチューセッツ州……ですね」
「兄貴だ。まだ、受けると一言も言っていないのに、早速送りつけてきたのか?気が早いな」
そういえば以前にも同じことがあった。
お手伝いロボットと嘘をついて、あっくんは最愛の音羽のところに、手術前の綺麗な体を見てもらおうとやって来たのだった。
その時は、音矢に頼み込んだのだが、今回は違う。
おそらく今回は、正真正銘のお手伝いロボットのはず……
「う~ん、それにしても、何となくこの木箱も……デジャブ……だな」
がっしりとした木箱を開封すると、何重にも段ボールが層になり、隙間には発泡スチロールの細かな緩衝材が詰め込まれていた。柔らかい上品な薄紙でくるまれたお手伝いロボットは、音羽の趣味全開の金髪碧眼……ではなく。
「……ん?」
「どうかしたの?音羽」
「おかしいな。僕の趣味に合わせるなら、金髪碧眼のあっくんタイプのアンドロイドを送りつけてくると思ったんだが……この子は黒髪だな。しかも相変わらず、余計なオプションが付いている……」
「ぼくの好きな音羽の黒髪~♡」
そっとアンドロイドの薄紙をはいで、あっくんは唇を寄せた。
細い艶やかな絹糸のような癖のない黒髪が、はらりと額に流れた。
「可愛い。……音羽、起動する方法は?」
「マニュアルは、アンドロイドAUの時と同じみたいだよ」
音羽との出会いをすっかり忘れて、あっくんは、分厚い説明書を取り上げた。
「え~と……契約の言葉。…… I, atushi,take you, androidsv ,to be my lawfully wedded wife/husband , to have and to hold from this day forward,for better or for worse, for richer, for poorer,in sickness and in health,to love and to cherish,and I promise to be faithful to you until death do us part.
私、厚志は、アンドロイドsvを、法的に婚姻した妻(夫)とし、今日より
良いときも悪いときも、富めるときも貧しいときも、病めるときも健やかなるときも、愛し慈しみ、そして、死がふたりを分かつまで、貞節を守ることをここに誓います……って、今度も前と同じ誓いの言葉なの?」
アンドロイドは上半身を起こした。
「……yes」
「あっ。だめ、だめ。あっくんは音羽と誓いの言葉を交わしているから、重婚になってしまう」
音羽は、慌てふためく厚志ことあっくんを、優しく包むような視線で見守っていた。
「今のは取り消しにします。いいこと?」
「いいえ。もう、誓いは交わされました、ご主人さま。どうぞよろしくお願いいたします。お傍において、可愛がってください」
きっぱりと告げて、三つ指をついた真っ裸の黒髪の美形のアンドロイドは、返事を待つようにじっとあっくんを見つめる。
まっすぐな視線は、どこか熱を帯びてあっくんに注がれていた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
何処かデジャブなアンドロイドとの出会いの儀式です。
仲よくなれるかな……(*´▽`*)
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よろしくお願いします。
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「……音羽が家政婦さんを頼みたいのなら、ぼくは反対しません」
「そう?君がいいなら、ちょうど家政婦を雇うべきだと考えていたから、渡りに船でいいかなと思っていたんだ。兄貴に、電話しておくよ」
「あっくんは、音羽に迷惑ばかりかけているから……止める権利がありません」
「あっくん。権利だなんて……違うよ。僕は君に迷惑をかけられたなんて思ってない。まあ、時々は失敗はするけど、可愛いもんだ」
「音羽……」
「君はいつも一生懸命だ。それは誰よりも僕が知っている。いいかい?君も僕も仕事を持っているだろう?両方すべてを完璧にこなすのは、物理的に無理だ。物事には、適材適所という言葉がある。できないことは誰かに助けてもらえばいい。僕はね、家電が壊れるたびに、あっくんが悲しむのを見るのが辛いんだよ」
「くすん……」
「作られたものはいつかは壊れるんだから、気にすることはないんだよ。早いか遅いかの違いだけだ。ぼくにとっては、あっくんが笑っていてくれる方が、大事だよ」
「音羽~大好き♡」
「ぼくもだ」
……ばかっぷる。
二人で住むようになってから半年経った。
そういえば、破壊された電子レンジは三台目だったかな……と、キスをしながらぼんやり音羽が考えた時、玄関のチャイムが鳴った。
「お荷物です」
「差出人は?」
「え~っと……秋月音矢さんです、相手の御住所はマサチューセッツ州……ですね」
「兄貴だ。まだ、受けると一言も言っていないのに、早速送りつけてきたのか?気が早いな」
そういえば以前にも同じことがあった。
お手伝いロボットと嘘をついて、あっくんは最愛の音羽のところに、手術前の綺麗な体を見てもらおうとやって来たのだった。
その時は、音矢に頼み込んだのだが、今回は違う。
おそらく今回は、正真正銘のお手伝いロボットのはず……
「う~ん、それにしても、何となくこの木箱も……デジャブ……だな」
がっしりとした木箱を開封すると、何重にも段ボールが層になり、隙間には発泡スチロールの細かな緩衝材が詰め込まれていた。柔らかい上品な薄紙でくるまれたお手伝いロボットは、音羽の趣味全開の金髪碧眼……ではなく。
「……ん?」
「どうかしたの?音羽」
「おかしいな。僕の趣味に合わせるなら、金髪碧眼のあっくんタイプのアンドロイドを送りつけてくると思ったんだが……この子は黒髪だな。しかも相変わらず、余計なオプションが付いている……」
「ぼくの好きな音羽の黒髪~♡」
そっとアンドロイドの薄紙をはいで、あっくんは唇を寄せた。
細い艶やかな絹糸のような癖のない黒髪が、はらりと額に流れた。
「可愛い。……音羽、起動する方法は?」
「マニュアルは、アンドロイドAUの時と同じみたいだよ」
音羽との出会いをすっかり忘れて、あっくんは、分厚い説明書を取り上げた。
「え~と……契約の言葉。…… I, atushi,take you, androidsv ,to be my lawfully wedded wife/husband , to have and to hold from this day forward,for better or for worse, for richer, for poorer,in sickness and in health,to love and to cherish,and I promise to be faithful to you until death do us part.
私、厚志は、アンドロイドsvを、法的に婚姻した妻(夫)とし、今日より
良いときも悪いときも、富めるときも貧しいときも、病めるときも健やかなるときも、愛し慈しみ、そして、死がふたりを分かつまで、貞節を守ることをここに誓います……って、今度も前と同じ誓いの言葉なの?」
アンドロイドは上半身を起こした。
「……yes」
「あっ。だめ、だめ。あっくんは音羽と誓いの言葉を交わしているから、重婚になってしまう」
音羽は、慌てふためく厚志ことあっくんを、優しく包むような視線で見守っていた。
「今のは取り消しにします。いいこと?」
「いいえ。もう、誓いは交わされました、ご主人さま。どうぞよろしくお願いいたします。お傍において、可愛がってください」
きっぱりと告げて、三つ指をついた真っ裸の黒髪の美形のアンドロイドは、返事を待つようにじっとあっくんを見つめる。
まっすぐな視線は、どこか熱を帯びてあっくんに注がれていた。
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