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アンドロイドSⅤは挑発する 3 

視線が外されないので、あっくんは困ってしまった。

「どうしよう、音羽。あっさり契約されてしまったみたい。胸に手を置いて、指紋と声紋の認証をするはずなんだけど」
「そうだね。何か不具合かな」
「音矢に連絡を取ることは可能?」

音羽は既に、連絡を取っていた。

「今、つながったんだけどね、一度契約を結んだアンドロイドは、研究所に持ち帰って初期設定に戻さなければいけないって言っている」
「初期設定……って?」
「まあ、簡単に言うならハードの交換をするみたいなものかな?パソコンのようにデータを消してから再出荷するんじゃないかな。今はアンドロイドのモニターを繰り返しているそうだから……ん?」

音羽が電話で話しているのを見た、青ざめたアンドロイドが、静かに口を開いた。

「ご主人様。わたしは返品されるのですか?理由は何でしょうか?」
「契約の仕方が嫌なの……あの、君が嫌いなわけじゃないよ?」
「最愛のご主人様にお仕えするための、形ばかりの契約です。どうぞこのままお傍においてください。わたしはご主人様をお慕いしています。離れたくありません」
「どうしよう……音羽……」

あっくんはちらりと音羽の顔色を窺った。

「そういえば以前、返品されたアンドロイドは、外見が気に入らなかったら特殊な炉に入れて、溶かしてしまうとか言っていたな。初期化するときに設定は変えればいいが、外見は作り直す方が、経費が掛からないそうだよ」
「そうなの?」

忙しいあっくんは、工学博士の音矢と交わした以前の会話をすっかり忘れている。
アンドロイドは悲し気な顔をして、視線を彷徨わせた。

「中心の骨格などは、特殊な素材でできておりますので、産業廃棄物として処分されると思います……外観は、すべてどろどろに溶かしたのち、新しい型に入れて形成され……記憶を失くしたわたしは……また、新しいご主人様のもとに赴くことに……くすん」
「泣かないで……?」
「これは、ただの結露です……から、ご心配なさらないでください」
「だって、泣いているのに……」
「そう見えるだけです……最新型ですから、機能に影響はありません」

あっくんは覚悟を決めて、音羽の方に向き直った。

「音羽。契約の言葉を、不実だとは思わない?」
「そんなの形ばかりのものだよ。あっくんを信じている」
「ブルネットと黒い瞳は好き?」
「ブロンドと碧の眼の次にね。いつでも君が一番だよ」
「音羽~♡」
「あっくん。ほら、あの子にここに居てもいいよって言ってあげないと」
「そうだった~。どきどきさせちゃってごめんね。今日からよろしくね」
「ご主人様」

こうして、透明な肌と絹糸のような黒髪を持つアンドロイドは、厚志と音羽の元にやってきた。
万能お手伝いロボットとして。




何とか逗留に成功したアンドロイドです。
これからどんな生活が待っているのでしょうか。


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