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紅蓮の虹・23 

屋敷を飛び出た俺に、コウゲイが上空から声をかけてきた。

「わたしの虹。飛ぶ方が早い。」

もうすっかり慣れた、暖かい白い光に包まれて俺はコウゲイと一体になった。

傍目にはどんな風に見えているのだろう。

紅い龍は、人に関わるべきじゃないというさっきまでの悟りすら投げ捨てて、百合の元に向かった。

すぐ側を、雲が流れているのがわかる。

結局、コウゲイと俺は二人で一つ、似たようなものなのかもしれなかった。

でも、それはずっと後になって俺の思い込みだったと気が付くのだ。

コウゲイと俺。

「守るもの」と「守られるもの」



  
不思議なことに、俺は百合の気配を感じていた。

コウゲイの力なのかもしれない。

一直線に、俺(と、コウゲイ)は百合と父親のいる場所に降り立った。

言い争う声に、悲鳴が混じる。

「お父さんなんて、何もしてくれたことなかったじゃない!」

「いまさら、取ってつけたように父親面したって、遅いのよ!」

「お母さんが死んだのだって、毎日お父さんが責めたからでしょ。」

「・・・悪いことをしたら、誰だって責めるさ。」

「勇気が死んだのだって、お母さんのせいじゃないのに、毎日毎日責めるからお母さんは、悲しくてお酒に溺れたんだわ!」

思いがけず、反撃に有って百合の父親は分が悪かった。

言いなりに、入ってきた金を渡す娘のはずだった。

ギャンブルの付けで、首が回らなくなった父親は、取立人と共に百合の元へ来たのだった。

「・・・さてと・・。お話を伺いましょうか。」

~~~~~~

「誰だ!?」

唐突に現れた、細身のコウゲイの迫力に一瞬たじろいだ一応百合の父親。

そこにいた人型は最初であった時よりも、少し大人のコウゲイだった。

おお~!

正直言って、ちょっとかっこいいぞ。

「お母さまからの委任状です。」

コウゲイは、ゆるく丸めた用紙を見せた。

「親権のね。」

百合は俺の姿を認めて、やっと安堵の表情を浮かべた。

「虹。」

「申し遅れました。」

「わたくし、百合さんと仲良くさせていただいております、虹の父親で辰神ともうします。」

たつがみって・・・?

まんまじゃん・・・

俺は吹きそうになるのをこらえた。

コウゲイは、日本でも有数の企業の名を出し、会長だと名乗った。

そういえば、そんな名前だったけど関係あるの・・・?。

ま、いいけど。

「本来なら、弁護士が参る所、今日は彼女と三人で食事の約束をしておりましたので・・・」

「お父様とは、既に縁も切れているそうで。

娘の先行きが心配だからと治療の合間に、病院の許可も頂いて院長立会いの元、先日養子縁組を致しました。」


「書類は持参しておりますが、何か有ったのですか、百合?」

コウゲイはずっと以前からの知り合いを装った。

百合も俺の目配せに気が付いて、向き直った。

「お待ちしていました。辰神さん。」

「母の葬儀の節は、お世話になりました。」

皆さん。

お芝居お上手です。

大変、よくできました。


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