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紅蓮の虹・30 

無垢で、慈悲深い四郎。


誰でも彼を見ると、辛い日々を忘れた。


「わたしは、自分にできることをする。」


そういって、朝も夜も勉学にいそしみ、少しでも農民の暮らし向きが楽になる方法がないか、調べていた。


家の大黒柱が、過去の朝鮮出兵で帰らぬ家には家人の目を盗んで手伝いにもいった。


栄養失調で、俄かに目の見えなくなった少女の家にも四郎は通った。


どんなに陽に当たっても、四郎の肌は穢れなく野山の笹百合の花のように薄く紅を刷いたようになるだけだ。


くすんだ日々の中で、四郎の存在だけが人々の足元を照らしていた。



やがて誰の目にも、四郎は希望の存在になってゆく。


それを、本人が決して望んでいなくても・・・。


人々を集め、飢饉や冷夏が何年も続くことはあるまいと、四郎は人々を励ました。


近隣の大庄屋は、何度目かの交渉に向かい、肩を落として帰ってきたが四郎は彼等をもねぎらった。


「いつか、きっと良い方に向かいます。


はらいそ(天国)におわすぜうすは、全てご存知なのですから。」


四郎と近隣の村々の虐げられた人たちの我慢は、限界に近づいていた。


来年に貯えた、種籾さえむしりとられ、何一つ売るもののない家は娘を売った。

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