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紅蓮の虹・17 

「コウゲイ。」

懐かしい友人を呼ぶように、ひらひらと振袖を翻して少年は側に来た。

「どこへ行っていたんだ?」

「敵の陣容を眺めてきた。」

首にかけた、十字架のねじれた鎖を直してやりながら、ふとその白い細首に背負った運命の重さを思う。

「コウゲイは空を飛べるから、羨ましい。」

どうやら、彼はコウゲイが何者か知っている風だった。

「四郎もいつか・・・」

「いつか・・・?」

「・・・ううん、なんでもない。」

色素の薄い少年は、眩しげに目を細めてコウゲイを見た。

憧れさえ混じえて注がれる視線を外し、コウゲイは陣中にはためく大量の花クルスの旗印を見た。

今のコウゲイに、この踏みにじられる旗印を守ることができるのだろうか。

重税に耐えかねた、島原の民があちこちの村々で決起して、続々と原城に入ってくる。

その大方は、女、子供、老人が多かった。

例え籠城戦に向く城の造りだとしても、貧しい人々に兵糧の貯えはなく、農民の中に武器を使える者はそれほど多くはなかった・・・・

この先の勝敗は、火を見るより明らかだった。




コウゲイは、四郎を守るために自分がそこにいると知っていた。

身を焼かれ、そのまま存在することさえ危うくなっても、何度でも繰り返し時空を超えて四郎を守る。

誰がそう決めたのか、流れてくる記憶の中で幾度も四郎のために運命を変えようと、時の中で燃える炎に焼かれ、のたうつコウゲイの姿が見えた。

伸ばした指先に、届かなかった四郎の屍が横たわる。

肩先から袈裟懸けに斬られた跡も、いつか命を落とした時の致命傷だった。

瀕死の状態でコウゲイは、四郎を救い上げた。

もし、このまま転生に失敗しても、いつか記憶を取り戻し元の四郎に戻れるようにと。

何も知らない赤子の形にして、コウゲイは遠い未来に託した。

それが俺。

だからコウゲイは、あれほどせつなく俺の名を呼ぶのだ。

「わたしの虹・・・」と。



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