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紅蓮の虹・43 

これが、あの輝くようだった四郎なのか・・・と、俺(たち)は息を呑んだ。


病み疲れて、ほおをこけさせた痛々しい姿。


生気を振り絞って、笑みを浮かべ人々の間を蝶が舞うように元気付けながら・・・漂っていた。


「コウゲイ・・・」


束の間、誰も来ない陣幕の後でコウゲイの姿を見つけて、安心したように倒れこんだ四郎。


痛々しい目の下の隈は、もう何日も眠っていないのだろうと想像させた。


四郎はコウゲイの腕の中で、束の間の眠りを得た・・・


37000人もの大群に膨らんだ、キリシタン軍は、何も幕府にたてつくために兵を挙げたのではなかった。


先行きのない命の不安が彼らを追い詰めたのだ。


誰も、何もわかっていなかった・・・



泥のように眠る四郎の、冷えた額に張り付いた細い髪。


できるものなら、コウゲイの力を貸してやりたいと思った。


だが、それは決してしてはならない禁忌だった。


自然界の掟は絶対で、本当ならコウゲイと四郎の関わりも許されない。


「四郎さま。」


四郎を呼ぶ女の声がした。


何から何まで四郎の決済が必要で、四郎の神経はすり減っていた。


重い身体を引きずるように、笑顔で四郎は陣に立つ。


そこに四郎がいること。


変わらぬ姿で、しるべとなること。


それが結束を誓う彼等の、全てだった。


「西の備えを固めよ。」


「銃は、猟師の使うものがまだあるはずだ。」


四郎の背後から姿を眺めるコウゲイの瞳は、濡れていた。



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