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紅蓮の虹・45 

「そなたの気持ちは、この四郎にも重々わかっている。」


四郎は花のような笑顔を浮かべた。


「酷な願いと承知して重ねて頼む。聞いてもらえないだろうか。」


山田右衛門作と言う男は、とうとうその場に泣き伏してしまった。


「おまえにも、薄々わかっているだろうが、いずれこの城は落ちる。」


「腹の子も氷水にさらすような領主が、いまさら我等の命乞いをうけようはずもない。」


「ですから・・・

ですから、わたしも共に参りたいのです。」


四郎は、走り書きの草稿を山田右衛門作の胸に押し当てた。


そこには山田右衛門作の元の主人への忠誠と、四郎に仕える気持ちが微塵もないことが書かれている。


「では、わたしたちの決起の意味は誰が伝えるのだ。」


「天草の真実を白日に晒してこそ、この無謀な命がけの決起が無駄ではなかったことになる。」


「今、ここにいるものは全て私の、友である。」


「山田右衛門作、先にバライソで待っている。」


微笑む四郎の悲しみは深かった。


裏切りの汚名を着せられ、この先彼が生きて行く辛さは四郎にも容易に想像できた。


取り調べも過酷を極めるに違いなかった。


それでも、あえて内通しろと四郎は言う。


37000もの人々の、命の証を残すことを、山田右衛門作に求めたのだ。


このままでは歴史に埋もれてしまうだろう、雲仙の硫黄で焼かれた、子供達の姿。


茄子一本にまでかけられる、重税に掛け合った庄屋はみのを被せられ、火をつけられた・・・


火ぶくれになって、逃げ惑う彼らを手を叩いて「踊れ!」とはやし立てた松倉の手勢。


決して、これまでに消えた命の存在を、無に帰してはならなかった。
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