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長月の夢喰い(獏)・3 

BL観潮楼秋企画【長月の夢喰い(獏)・3】

獏(ばく):体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎にそれぞれ似ているとされるが、その昔に神が動物を創造した際に、余った半端物を用いて獏を創造したためと言われている。
人の悪夢を喰う。


<前回までのあらすじ>

勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。

兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。

当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。

だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
兄弟は今は、芝居小屋に身をよせ弥一郎は、座付き作家、笹目は、当代一の花形女形、月華は子役となっている。

*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*

冷ややかな坂崎の視線に屈する事無く、まだ前髪の少年は、ひたと正面から幼い弟達を護るように前に座り決意を陳べた。
目元の赤いのは、おそらく懸命に零れ落ちるものを堪えているのに相違なかった。

「我等が父上は武士にしては心弱い所もありましたが、決して卑怯者ではありませぬ。」

稚児顔・piosama



「もう一度、仔細をお調べいただいて、お吟味後は、嫡男、弥一郎がお家を継ぎとうございます。」
「必ずや、藩のお役に立ってご覧に入れまする故、何とぞ寛大なご処置を賜りますように、よろしくお願いいたします。」

瀬良弥一郎は、心陰流の道場でも、「小天狗」とあだ名されるほどの抜きん出た剣の素質を持っていた。
藩校でも一目置かれるほどの利発さは,ゆくゆくは藩中枢に躍り出るだろうと言われていた。

だが結局、城代家老、坂崎采女(うねめ)は、必死のその声を握りつぶし瀬良家を断絶させたのだ。

使者が「上意である」と血も涙もない沙汰を告げたとき、かしこまっていながら俯いたその頬は、静かに流れる涙でしとどに濡れていたと聞いた。

泣き喚くでもなく罵るでもなく、小さな侍は沙汰を頂戴し健気に頭を下げた。
だが、その小さな肩は余りの非情さに打ちのめされて、細かに震えていたという。

背景なし・稚児・pioさま


凡庸として人が良く、無駄な正義感だけが強かった勘定吟味役の瀬良が、もう少し話の分かる輩であったなら・・・と、今も思う。
「許せ。」と心で呟いた。
今更「どうにもならぬ。」のだと・・・

生真面目な瀬良を始末したが、決して瀬良と言う男を憎く思っていたわけではなかった。
むしろ、素直で曲がったことの嫌いな優しい男を、坂崎は今も心のどこかで慈しみ愛していた。
腹黒い自分に無いものを欲するように、日向で快活に笑う瀬良を眩しいと思っていた。

「のう、相模屋、家を継がしたところで、あの堅物が生きておるのと同じことじゃ。あの小童は、父親と同じ目をしておった。」
「真面目で真摯な生き方など、この時代には似合わぬ。面白おかしく金を使うて浮世の春を楽しまねばのう。」
「まこと、城代さまのおっしゃるとおり。おかげさまでこの相模屋の金蔵は、千両箱の積み場所に困るばかりに成っておりますよ。」

「あの世とやらに参ってしまった、忠義な瀬良様にはいずれ向こうで詫びを入れると致しましょう。」

彼等は夜毎、見目の良い男女を侍らし、忘れようとするように色に溺れ、遊興に耽った。

「瀬良に似合いの妻女が、あの豊かな乳房を差し出してくれば聞いてやらないでもなかったが、身持ちが堅すぎて話にもならぬ。」
「あのような育ちきらぬ童では忠行の代わりにもならぬ。見目良いが幼すぎて惜しいのう。」
「いっそあの哀れな幼子三人、相模屋に下げ渡してゆっくり稚児遊びをさせて眺めるのも一興かな。のう・・・そなたは良い女子じゃ。」

側女を引き寄せ、たわわな胸元に手を滑らせた。

「それ、稚児のよさも分からぬ城代さまがお望みじゃ、赤貝も蛤も剥き身を広げて、たんと召し上がっていただくのじゃ。」

日の高い内から、生きながらに畜生道に落ちた三人が、ぴちゃ・・・と音を立てて赤い臓物を貪った。






城代家老、坂崎采女ひでぇ・・・と、思わず読み返してヾ(。`Д´。)ノ「こらぁ~~!!」←自分で書いておいて。お話少し長くなりまして、9話続きます。
次回は兄上の恋人「おにゃのこ」が出て参ります。
時代物は書くのは楽しいのですが、どうしても見慣れない単語とかも多いです。
自覚はあるのですが、ごめんね。          此花
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観潮楼さま秋企画
こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!
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3 Comments

此花咲耶  

NoTitle

どれだけ丁寧に、ありがとうございました↑ を繰り返してるんだろう・・・失礼致しました。
加虐場面に、必死で文章おかしくなってます・・・

2010/10/06 (Wed) 01:05 | REPLY |   

此花咲耶  

NoTitle

pioさま

城代家老は、権力をかさに来てやりたい放題です。
これでは父上も成仏できるわけがない、兄弟が仇討を思いつくわけですよね。
五七五返し。

「兄上も 流血必死の 鬼畜道」 by-笹目

純情可憐な作者の愛情が、降り注ぐと酷い目に遭うようになっています。そういえば柊一郎くんも、かなりの愛を注がれてます。手を引いてもらって歩くイラスト、すごく好きです。(ここに書くな~!)
一歩ずつ歩きながら小さく「・・・好き」「・・・好き」って言ってる気がします。大好き♪
次回はお話が動きます。
コメントありがとうございました。ありがとうございました。
美麗絵イメージ損ねないように・・・あ・・・すっごく酷い箇所があるけど大丈夫かなぁ・・・がんばりますっ。

2010/10/05 (Tue) 23:46 | REPLY |   

pio  

NoTitle

無情な世にいては、清廉潔白も罪なのでしょうか………。これこそ不条理です。父上様~~よよよ(;;)
兄上、血を流してー?!

見たいのに 見たくないのに 見たいのに
何故か五七五。

2010/10/05 (Tue) 22:20 | REPLY |   

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