新しいパパができました・4
「はじめまして。今日からきみのパパです。」
驚いたのは、まず母親とのあまりの年齢差。
俺より一個、年上ということだが半端無く若く見えるのは、少女めいた作りの繊細さとやたらと華奢なせいだろうか。
これって、最近流れている携帯電話のCMでなかったっけ?
若いツバメに入れ込んだ母親に向かって、白い犬のお父さんが吠えてた。
「17歳って嘘だろ、おまえ。13,4の中坊にしか見えないぞ。」
一瞬息を呑んだ後、そいつは悲しげにうつむき小さく呟いた。
「ひどい・・・パパに向かって・・・」
「ぜったい、認めない。」
そいつ。
澤田詩鶴(さわだしつる)はくるりと踵を返すと、母ちゃんのベッドの上に顔を埋めた。
「うわぁあ~~~んっ・・・亜由美さ~~~んっ・・・ぼくのこと、認めてくれないって。」
「ぼ・・・ぼく、家族ができるの、うんと楽しみにしていたのに・・・こんな・・・いきなり、息子が反抗期だなんてっ。どうしたら・・・いいのっ。」
さめざめと泣く澤田詩鶴に俺は呆然としていた。
母親は、ちょっと困った顔をして笑って見せた。
「だからっ。反抗期云々じゃなくて、自分よりガキに見えるやつを父親だなんて認められないだろって言ってるの。」
「おまえは知らないだろうけど、俺の父ちゃんは、アームレスリング全国上位のマッチョだったんだぜ。」
「マッチョ・・・じゃあ・・・筋肉つければ、パパって認めてくれる・・・?」
「似合わねぇ・・・」
筋肉の付いた澤田を想像して、全力で噴きそうになった。
俺は涙ぐんだそいつに返事をせずに、ベッドの母ちゃんに声をかけた。
「しばらく、入院するのか?」
「ううん。もうすること無いから、精算して帰るよ。一応しばらく車椅子だから、よろしく面倒見てね。」
「おうっ・・・じゃ、レンタルの申し込みしてくる。こいつはどうするの?」
手の甲で滴を払って、男らしくそいつは宣言した。
「亜由美さんと柾くんが心配だから、パパも一緒に行く。」
だから、認めてねぇし。
****************************************
どうやら今朝、学校へ行く前に俺が見たのはこいつらしかった。
すっぽんぽんだったんで、てっきり人形だと思ったんだけど、夕べ遅くまで新作のイメージのモデルをしていたらしい。
朝日が細く差す作業場の椅子の上で眠りこけてたときには、薔薇色の肌しか見なかったけど、こうして眺めてみても、こいつには身体中、金色の産毛しか生えてないんじゃないかと思う。
どう見ても、17歳の男子には見えないなんて、これもある意味、気の毒だよな。
昨夜は、義経の子供の頃の人形が欲しいと注文を貰って、大張り切りの母ちゃんは着せ替えよろしく、自分の着物を着せて写真を撮りイメージソースを作っていたらしい。
遮那王・・・牛若丸だっけ?
その昔、川俣喜八郎という人の平家物語の人形に、どっぷりと魅せられていた母ちゃんは、和ものの注文にすっかり舞い上がっていた。
「だって、あんたがモデルじゃ、弁慶にしかならないでしょ?」
そりゃま、俺が薄物羽織ってひらひらと跳ぶのは想像しにくいと思うけど・・・弁慶かよ。
ガキの頃は、散々モデルやらされたけどね。
「俺のガタイの良いのは、父ちゃんに似たからな。」
直ぐそこに、俺が父ちゃんの肩に乗った写真がある。
強くて優しい父ちゃんは、俺の永遠の憧れだった。
強い男になりたかった。
白い布を掛けられて、そこに横たわるよそよそしい遺体の前で母ちゃんは崩れ泣いていた。
その場で俺は、父ちゃんに誓った。
早くに亡くなってしまった父ちゃんの代わりに、母ちゃんを守れるように俺は強くなる。
見ててくれ、父ちゃん。
俺、父ちゃんみたいな、男の中の男になって母ちゃんを守るから。
いつか、好きなやつができたんなら、大切な母ちゃんを託してもいいと思っていたけど、こんな浮世離れした男の出来損ないに俺は母ちゃんを預けるのか・・・?と想像して、いやいや、それはないと首を振った。
父ちゃんの写真は、変わらず笑っていたけど俺は息子として、こんなやつに母ちゃんを渡すわけにはいかなかった。
**************************************************
「ただいま~。」
おまえの家じゃないだろ。
「ぼくの部屋は・・・えっと、亜由美さんと一緒の部屋で良いから・・・あっ。」
俺は、そいつの荷物を掻っ攫うと、居間の片隅に投げつけた。
きっと涙ぐんでいるだろうが、どうでもいい。
「客が泊まるのは、ここしかないんだ。悪いな。澤田さん。」
「そ、そう・・・?」
しょんぼりと投げつけられた荷物を拾って、たんすの前にそっと寄せるのを眺めていたら、行き場の無い可哀想な家なき子を想像してしまった。
向こうを向いた細い肩が震えているのは、きっと泣くのを我慢してる。
睫毛に涙が光ってるのも普通に可愛いとは思うけど、こいつを「父親」として見ろというなら答えは「否」だ。
澤田は、黙って眺めてる分には本当に綺麗な客人だった。
********************************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、こけないようにがんばります。 此花
驚いたのは、まず母親とのあまりの年齢差。
俺より一個、年上ということだが半端無く若く見えるのは、少女めいた作りの繊細さとやたらと華奢なせいだろうか。
これって、最近流れている携帯電話のCMでなかったっけ?
若いツバメに入れ込んだ母親に向かって、白い犬のお父さんが吠えてた。
「17歳って嘘だろ、おまえ。13,4の中坊にしか見えないぞ。」
一瞬息を呑んだ後、そいつは悲しげにうつむき小さく呟いた。
「ひどい・・・パパに向かって・・・」
「ぜったい、認めない。」
そいつ。
澤田詩鶴(さわだしつる)はくるりと踵を返すと、母ちゃんのベッドの上に顔を埋めた。
「うわぁあ~~~んっ・・・亜由美さ~~~んっ・・・ぼくのこと、認めてくれないって。」
「ぼ・・・ぼく、家族ができるの、うんと楽しみにしていたのに・・・こんな・・・いきなり、息子が反抗期だなんてっ。どうしたら・・・いいのっ。」
さめざめと泣く澤田詩鶴に俺は呆然としていた。
母親は、ちょっと困った顔をして笑って見せた。
「だからっ。反抗期云々じゃなくて、自分よりガキに見えるやつを父親だなんて認められないだろって言ってるの。」
「おまえは知らないだろうけど、俺の父ちゃんは、アームレスリング全国上位のマッチョだったんだぜ。」
「マッチョ・・・じゃあ・・・筋肉つければ、パパって認めてくれる・・・?」
「似合わねぇ・・・」
筋肉の付いた澤田を想像して、全力で噴きそうになった。
俺は涙ぐんだそいつに返事をせずに、ベッドの母ちゃんに声をかけた。
「しばらく、入院するのか?」
「ううん。もうすること無いから、精算して帰るよ。一応しばらく車椅子だから、よろしく面倒見てね。」
「おうっ・・・じゃ、レンタルの申し込みしてくる。こいつはどうするの?」
手の甲で滴を払って、男らしくそいつは宣言した。
「亜由美さんと柾くんが心配だから、パパも一緒に行く。」
だから、認めてねぇし。
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どうやら今朝、学校へ行く前に俺が見たのはこいつらしかった。
すっぽんぽんだったんで、てっきり人形だと思ったんだけど、夕べ遅くまで新作のイメージのモデルをしていたらしい。
朝日が細く差す作業場の椅子の上で眠りこけてたときには、薔薇色の肌しか見なかったけど、こうして眺めてみても、こいつには身体中、金色の産毛しか生えてないんじゃないかと思う。
どう見ても、17歳の男子には見えないなんて、これもある意味、気の毒だよな。
昨夜は、義経の子供の頃の人形が欲しいと注文を貰って、大張り切りの母ちゃんは着せ替えよろしく、自分の着物を着せて写真を撮りイメージソースを作っていたらしい。
遮那王・・・牛若丸だっけ?
その昔、川俣喜八郎という人の平家物語の人形に、どっぷりと魅せられていた母ちゃんは、和ものの注文にすっかり舞い上がっていた。
「だって、あんたがモデルじゃ、弁慶にしかならないでしょ?」
そりゃま、俺が薄物羽織ってひらひらと跳ぶのは想像しにくいと思うけど・・・弁慶かよ。
ガキの頃は、散々モデルやらされたけどね。
「俺のガタイの良いのは、父ちゃんに似たからな。」
直ぐそこに、俺が父ちゃんの肩に乗った写真がある。
強くて優しい父ちゃんは、俺の永遠の憧れだった。
強い男になりたかった。
白い布を掛けられて、そこに横たわるよそよそしい遺体の前で母ちゃんは崩れ泣いていた。
その場で俺は、父ちゃんに誓った。
早くに亡くなってしまった父ちゃんの代わりに、母ちゃんを守れるように俺は強くなる。
見ててくれ、父ちゃん。
俺、父ちゃんみたいな、男の中の男になって母ちゃんを守るから。
いつか、好きなやつができたんなら、大切な母ちゃんを託してもいいと思っていたけど、こんな浮世離れした男の出来損ないに俺は母ちゃんを預けるのか・・・?と想像して、いやいや、それはないと首を振った。
父ちゃんの写真は、変わらず笑っていたけど俺は息子として、こんなやつに母ちゃんを渡すわけにはいかなかった。
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「ただいま~。」
おまえの家じゃないだろ。
「ぼくの部屋は・・・えっと、亜由美さんと一緒の部屋で良いから・・・あっ。」
俺は、そいつの荷物を掻っ攫うと、居間の片隅に投げつけた。
きっと涙ぐんでいるだろうが、どうでもいい。
「客が泊まるのは、ここしかないんだ。悪いな。澤田さん。」
「そ、そう・・・?」
しょんぼりと投げつけられた荷物を拾って、たんすの前にそっと寄せるのを眺めていたら、行き場の無い可哀想な家なき子を想像してしまった。
向こうを向いた細い肩が震えているのは、きっと泣くのを我慢してる。
睫毛に涙が光ってるのも普通に可愛いとは思うけど、こいつを「父親」として見ろというなら答えは「否」だ。
澤田は、黙って眺めてる分には本当に綺麗な客人だった。
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