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新しいパパができました・1 

俺の作ったカレーをてんこ盛りにして食いながら、昨夜、母親が言った。

「あのね。会わせたい人がいるの。できれば、明日の放課後、早く帰ってきてくれないかな。」

とうとうこの日が来たかと、密かに思った。

「じゃ、バイト誰かに代わってもらえるか聞いてみるよ。会わせたい人って、彼氏?結婚するつもりなの?」

「まあ・・・ね。澤田詩鶴さんて言うの。楽しみにしててね。」

母親は、素敵な人なのうふふ、と、笑う。
はいはい、ごちそうさま。

この最近、休日といえば仕事三昧だったのが、頭の先からつま先までおしゃれして出かけたりするのに気が付いていた。
ジャージで仕事している姿とは全然違っていて、たまのフェミニンな洋服は、ちょっと可愛らしくも見えたりした。
出かけたとき、帰りに余り聞いたことのない、高そうな店の洋菓子を土産にするのも、思いっきり甘党の俺にはちょっと良い感じの気の使い方だった。

いい年こいた母ちゃんに彼氏ができて、頬を染めるのはさすがに笑えるけど、これまで苦労してきたのは十分知っている。
幸せそうに笑うと、女性っていくつになってもちょっと可愛いかもと思ってしまう。
幸せになれよ・・・なんていったら、まるで花嫁の父みたいだ、俺。
やめとこ。

あ、自己紹介しておくね。

この浮かれまくっている母ちゃんの名は、津田亜由美(あゆみ)42歳
俺、津田柾(まさき)は16歳、ぴちぴち(死語)の現役高校生でっす。

風邪も引かないのが自慢だったマッチョの俺の親父が、土木工事現場で突然脳内出血で亡くなってから、早くも、七年の月日が経っていた。
別に父ちゃんだけが、俺の親父なんだ~、他のやつを父親だなんて認めたくないと、わめくような子供でもないし、母ちゃんを誰かに取られる気がする~とすねる年でもない。
目の前にきたら、多少はむかつくかもしれないが、俺が独り立ちした後、伴侶を見つけてくれたほうが良いんじゃないかと思っていた。

うちの母親は、人形作りを生業にしている。
母ちゃんの人形は、俗に言うビスクドール(陶器人形)というもので、頭部や手足を粘土で作り陶器のように窯で焼く。
よく分からないけど、フランスのアンティークドールの作り方をそのまま写しているらしい。

精巧な色ガラスの瞳をはめ込み、その視線は夜など静かに何かを求めて絡むような気がして、なるべく夜は仕事場には近寄らないことにしている。
まあ、眺めているとちょっと・・・色っぽく、官能的というのだろうか。
薄く開いた桜色の唇や、物憂げにけぶる長い睫毛にはそうっと触れたくなるような艶めいた色気が滴っている。
俺も母ちゃんの息子だから、綺麗なものにはじつはかなり弱い・・・と思う。
そういったものが怖いというガキの感覚から、綺麗なものが好きという感覚に代わったのは思春期を過ぎた頃からだろうか。
4,50センチの人形は、いつも何かものいいたげな表情で、俺の周囲に当たり前にいた。

母親の作る球体間接人形は、結構、人気があるらしくて即売会などすると、見事に即日完売らしい。
驚くべきことに、ポストカード、写真集なども出てるらしいんだ・・・マニアック。
中高生や、主婦に大人気なんだってさ。
自分のものになった人形の写真をアップして、よその子と交換などもするらしい。
ありがたいことです。
お人形を可愛がってくださる愛好家のおかげで、俺が、こんなに大きくなりました。

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母ちゃんは、いつも夜遅くまで仕事をしていて、俺が学校に出かける頃には大抵眠っている。

出来上がった人形は、大抵が綺麗な中性的な顔の美少年で、繊細なチュールレースやフリルのロココ調の驚くほど精巧な貴族の衣装を身に着けていた。
エドワード、ステファン、ルイ、フランソワ、そんなくすぐったい名前のタグが付いている。
彼らは物言わぬ人形でありながら、人を夢中にさせる艶のある肌と饒舌な瞳(グラス・アイ)を持っていた。
宝石ならぬ、ガラス玉だけどね。
人形を作る過程を少しは知っているけれど、頭や胴体や手足が木箱にばらばらと部品で入っているのは、ちょっとなじめない。
山ほどの頭部が、目玉の入るのを待っていた。
目玉が、転がっているのを眺めるのも、ただのパーツなのにちょっと苦手。
ガキの頃は泣いたこともあるらしいけど、人形に育ててもらったような俺は、今や何の文句も申しません。

学校へ行く前、ちらと覗いた工房に真新しい人形が見えた。
ロッキングチェアに、深く身体を預けまるで眠っているように見える、金髪碧眼美少年を作ることの多い母親にしては珍しい黒い髪の大型の人形だった。
ばら色の頬に、差し込んだ朝日が当たって、陶器の肌がつやつやと光っていた。
何か、安らかな寝息すら聞こえてくるような、そんな穏やかな顔をしていた。
ちょっと気になったが、早朝補修があるのでだっしゅ。

忙しい母親だったが、何とか母親業を放棄するまいとしているらしく、テーブルの上には普段は眠る前に作った弁当が置いてあった。
今日も弁当箱が乗っているはずだったが、仕事が押しているのか、そこには何も無かった。
たまにはこんな日もある。
まあ、一世一代のおしゃれでもしてくれ。
俺も良い息子を演じて、どんな野郎が来ても母をよろしくお願いしますくらいのことは言うからさ。

一応、仕事場に向かって「行ってきます!」と大声を掛けて、俺は登校した。
帰宅時間は、メールで知らせたのでいいか・・・。
どうせ、これから部屋の掃除だの、飯作りに追われるはずだから。
がんばれよ、母ちゃん。

「うわ~、やべっ、遅れるっ!」

一瞬、ロッキングチェアに座った新作人形と視線が絡んだ気がしたけど、時間に追われて俺は家を飛び出した。

新しいパパ・2へ続きます。

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明日も、がんばります。   此花
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明日もがんばりますって、昨日書いたのにがんばれなかった・・・・゜゜・(/□\*)・゜゜・わ~ん
日付、越えちゃった。
新しいお話、始めました。
ストックがないので、滞るかもしれません。ほら。もう初日から、こけたし。
しかもBL場面は、おそらくうんと向こうのほうかと思われます。

実は此花は、なるとさんという人形作家さんのお作りになった球体間接人形の顔がとても好きです。
以前貼っていた写真もお願いしてお借りしました。
とても欲しいのですが、陶器なのでパパが買ってはいけませんと言うのです。
亡くなって棺に入れたとき、燃え残るものは駄目だそうです。つまんないぞ。
ギャラリーの素敵写真で我慢しています。

http://p4room.mda.or.jp/~naruto/
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