新しいパパができました・13
温かいお茶を飲んだら少し落ち着いたようで、泣くのをやめた詩鶴は、ちょっと困ったような泣き笑いの顔を向けてきた。
「おなか、すいたね・・・。」
腹なんて、すいていないくせに。
でも俺は頷いて、詩鶴は冷凍庫から煮込みハンバーグを取り出して、電子レンジにかけた。
「・・・どんだけ、作ったんだよ、ハンバーグ。」
「三食毎日食べて、一週間はあるように作ったよ。」
「あ。もしかすると、柾くん。飽きたとか言う?」
詩鶴は泣きながら笑った。
「そうだよねぇ・・・もっと早くに気が付けばよかった。ごめんね・・・馬鹿の一つ覚えみたいに、ぼく・・・いつだって、後から気が付くんだ。いやになる・・・」
「責めたんじゃないぞ。」
「う・・・ん・・・、うん・・・わ、わかってるけど・・・」
テーブルに突っ伏したきり、もう涙が止まることは無かった。
えぐえぐと、引きつるようにしゃくりあげながら、詩鶴は一時間余りも涙にくれ、次に顔を上げたときに、柾くんにお話があります、と決心をつけたように告げたのだった。
頬がこわばっていた。
****************************************
「あのね・・・。テレビなんかで、名前は知っているかな。」
「ぼくは、京都の鴨川総合病院の、跡取り息子です。」
「えっ。」
脳外科に世話になるような人は、ひょっとしたら知っているかもしれない。
たぶん誰かがテレビで見たと、言い出せば周囲がうなずくような神の手を持つスーパードクターがいる病院だった。
大きな脳腫瘍で、余命いくばくかとか言う患者が、助かって家族が感涙に咽んでいるのを特番で見たことがあるような気がする。
詩鶴はそんな大きな病院の跡取り息子なのだそうだ。
「すっげ・・・」
俺は、そんな安易な感想しか言えなかったが、詩鶴は言葉を続けた。
「でも、それも二年前までの話だよ。父が倒れてしまったから。」
ほっと、小さく息を継いだ詩鶴が言うには、2年前にそれほど腕の良かった父親が悪性腫瘍で倒れ、今は家の総合病院で植物状態になっているらしい。
医者の不養生ということなのだろうか。
「ぼく・・・ね。小さい頃から、お父さんに憧れていて、まるで神さまみたいに大勢の人を助けられる医者になりたいとずっと思ってた。」
「うん。詩鶴は親父の背中を見て、ちゃんと育ってたってことなんだな。いいじゃん。」
ほんの少し嬉しそうに詩鶴は微笑んで、でも直ぐに顔が曇った。
「まるで、ドラマの中のような話だよ。ぼくはね、ずっとお医者様になりたかったから、勉強以外は何もしないで最近まで過ごしてきたんだ。周囲に、どれだけ迷惑かけているか何も気が付かないでね。」
詩鶴は、自分が病院の後を継ぐべく懸命に勉強をがんばっていたらしい。
家が病院だからといって、なまじっかなことで医者になれるなんて、さすがに俺でも思っていない。
「父が突然倒れて、病院をどうするかって途方にくれていたのだけど、叔父さんが勤めていた大学病院をやめて、父の代わりに病院に戻ってくれることになったんだ。」
ほんの少し、違和感があった。
「叔父さんって・・・。さっきの、あの柄の悪いやつなのか?」
詩鶴はうなずいた。
********************************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、こけないようにがんばります。何とか間に合いましたが、危うくなっています。
本日短めになってしまいました。
少しずつ、詩鶴君が語ります。
此花
「おなか、すいたね・・・。」
腹なんて、すいていないくせに。
でも俺は頷いて、詩鶴は冷凍庫から煮込みハンバーグを取り出して、電子レンジにかけた。
「・・・どんだけ、作ったんだよ、ハンバーグ。」
「三食毎日食べて、一週間はあるように作ったよ。」
「あ。もしかすると、柾くん。飽きたとか言う?」
詩鶴は泣きながら笑った。
「そうだよねぇ・・・もっと早くに気が付けばよかった。ごめんね・・・馬鹿の一つ覚えみたいに、ぼく・・・いつだって、後から気が付くんだ。いやになる・・・」
「責めたんじゃないぞ。」
「う・・・ん・・・、うん・・・わ、わかってるけど・・・」
テーブルに突っ伏したきり、もう涙が止まることは無かった。
えぐえぐと、引きつるようにしゃくりあげながら、詩鶴は一時間余りも涙にくれ、次に顔を上げたときに、柾くんにお話があります、と決心をつけたように告げたのだった。
頬がこわばっていた。
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「あのね・・・。テレビなんかで、名前は知っているかな。」
「ぼくは、京都の鴨川総合病院の、跡取り息子です。」
「えっ。」
脳外科に世話になるような人は、ひょっとしたら知っているかもしれない。
たぶん誰かがテレビで見たと、言い出せば周囲がうなずくような神の手を持つスーパードクターがいる病院だった。
大きな脳腫瘍で、余命いくばくかとか言う患者が、助かって家族が感涙に咽んでいるのを特番で見たことがあるような気がする。
詩鶴はそんな大きな病院の跡取り息子なのだそうだ。
「すっげ・・・」
俺は、そんな安易な感想しか言えなかったが、詩鶴は言葉を続けた。
「でも、それも二年前までの話だよ。父が倒れてしまったから。」
ほっと、小さく息を継いだ詩鶴が言うには、2年前にそれほど腕の良かった父親が悪性腫瘍で倒れ、今は家の総合病院で植物状態になっているらしい。
医者の不養生ということなのだろうか。
「ぼく・・・ね。小さい頃から、お父さんに憧れていて、まるで神さまみたいに大勢の人を助けられる医者になりたいとずっと思ってた。」
「うん。詩鶴は親父の背中を見て、ちゃんと育ってたってことなんだな。いいじゃん。」
ほんの少し嬉しそうに詩鶴は微笑んで、でも直ぐに顔が曇った。
「まるで、ドラマの中のような話だよ。ぼくはね、ずっとお医者様になりたかったから、勉強以外は何もしないで最近まで過ごしてきたんだ。周囲に、どれだけ迷惑かけているか何も気が付かないでね。」
詩鶴は、自分が病院の後を継ぐべく懸命に勉強をがんばっていたらしい。
家が病院だからといって、なまじっかなことで医者になれるなんて、さすがに俺でも思っていない。
「父が突然倒れて、病院をどうするかって途方にくれていたのだけど、叔父さんが勤めていた大学病院をやめて、父の代わりに病院に戻ってくれることになったんだ。」
ほんの少し、違和感があった。
「叔父さんって・・・。さっきの、あの柄の悪いやつなのか?」
詩鶴はうなずいた。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、こけないようにがんばります。何とか間に合いましたが、危うくなっています。
本日短めになってしまいました。
少しずつ、詩鶴君が語ります。
此花
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