新しいパパができました・15
白い病院内は、恐ろしく近代的で眩いくらいに清潔だった。
広い待合室、受付などはまるでホテルのようだし、重々しい空気じゃないのが気持ちまで軽くさせる。
だから、安心して受付の美人のお姉さんに聞けたんだ。
「澤田詩鶴君に、会いたいのですが呼んでいただけますか?」
瞬時に二人居た受付のお姉さんが見交わした顔がこわばり、ほんの少し口が開いて表情が呆けたようになった。
「どちらさまでしょうか?」
「津田柾といいます。」
しばらくこちらで待つようにと通された待合室は特別な作りになっているのか、ソファが半端なく心地よかった。
空調が静かに運転するのが、まるで規則正しい鼓動のようだ。
しってる?赤ん坊ってね、規則正しい音を聞かせていると熟睡するんだよ、何か、お母さんの体内で聞いていた鼓動を思い出すんだってさ・・・
朝、早かったからさ・・・zzzz・・・
初めて通された待合室で、信じられないことに、俺は何の緊張感もなく爆睡してしまった。
***********************************
誰かが・・・髪を優しく撫ぜる。
「無防備だね。」
誰かがくすと笑う声を聞いたような気がして、俺は薄目を開けた。
あっぷ!
「うわっ!近っ!」
ソファからもんどりうって転がり落ちたのを、そいつが笑い転げながら眺めていた。
「かわいい客人だね。詩鶴の友人?」
可愛いと言われて、上背に自信がある俺はたちまちむかついたが、覚醒するうちに敵陣にいると気が付いて、極力感じのいい笑顔を浮かべ挨拶をすることにする。
あの柄の悪い、伯父と言う人に似てはいたが、本人ではなかった。
そこにも、正直ほっとしていた。
「はじめまして。津田柾といいます。」
「君。詩鶴の、知り合いだって?」
「は・・・い。ちょっと、関わりがあって、詩鶴・・・くんは、しばらく俺の家に来ていました。」
そいつも白衣を着ていたから、医者なのだと思う。
昨夜のあいつに、少し似ている気がするから親戚なのかな。
「こんなところまで来るなんて。詩鶴を守る騎士のようだね。」
そう言って、その人は自己紹介もせず俺をこっちだよと、案内した。
「詩鶴に会わせてあげる。でも・・・ちょっと、驚くことになるかもしれないよ。一応、その心積もりでいてね。」
脳内に大量の疑問符を飛ばしながら、まだ覚醒仕切っていない俺は、そいつにくっついて病院の一角へと案内された。
不思議なことに、これから行くところへの、直通のエレベーターらしかった。
「あの・・・あなたは、詩鶴の・・・?」
「ああ。ぼくは、立場上は従兄になるのかな。たぶん、君のところへお邪魔して、失礼なことを言ったのはぼくの父だと思う。」
迷惑をかけたのだろうねと、そいつは少し暗い顔をした。
それに関しては、いいえとも言えず仕方なく俺は、聞こえない振りをするしかなかった。
「詩鶴の父親が、植物状態になっているのは知っている?」
「はい。少しだけ話を聞きました。」
「いいかい、これはオフレコで、君は今からぼくに聞いたことを忘れる。いいね?」
話が飲み込めないまま、俺は頷いた。
エレベーターが動き出し、そいつは背中を向けたまま、詩鶴のことを話した。
この病院は、詩鶴の父親名義にはなっているが、億単位の借金があること。
資産すべてを手放すには、未成年の詩鶴個人ではどうにもならないこと。
後見人として入ってきた伯父の家族は、経営の全てを握り、自宅以外の資産の殆どをのっとられている。。
後見人としての伯父と、詩鶴の父親にはある確執が有って、詩鶴の父親が意識不明の今、確執は全て詩鶴に向けられていること。
「確執・・・って?」
「行けばわかる。・・・たぶんね。あの子はね、ぼくの父からは逃れられないんだ。」
******************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
原稿を書き、うっかり保存しないで閉じた時、涙って生理的に出るんだと知りました。
ぎりぎり間に合いました。 此花
広い待合室、受付などはまるでホテルのようだし、重々しい空気じゃないのが気持ちまで軽くさせる。
だから、安心して受付の美人のお姉さんに聞けたんだ。
「澤田詩鶴君に、会いたいのですが呼んでいただけますか?」
瞬時に二人居た受付のお姉さんが見交わした顔がこわばり、ほんの少し口が開いて表情が呆けたようになった。
「どちらさまでしょうか?」
「津田柾といいます。」
しばらくこちらで待つようにと通された待合室は特別な作りになっているのか、ソファが半端なく心地よかった。
空調が静かに運転するのが、まるで規則正しい鼓動のようだ。
しってる?赤ん坊ってね、規則正しい音を聞かせていると熟睡するんだよ、何か、お母さんの体内で聞いていた鼓動を思い出すんだってさ・・・
朝、早かったからさ・・・zzzz・・・
初めて通された待合室で、信じられないことに、俺は何の緊張感もなく爆睡してしまった。
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誰かが・・・髪を優しく撫ぜる。
「無防備だね。」
誰かがくすと笑う声を聞いたような気がして、俺は薄目を開けた。
あっぷ!
「うわっ!近っ!」
ソファからもんどりうって転がり落ちたのを、そいつが笑い転げながら眺めていた。
「かわいい客人だね。詩鶴の友人?」
可愛いと言われて、上背に自信がある俺はたちまちむかついたが、覚醒するうちに敵陣にいると気が付いて、極力感じのいい笑顔を浮かべ挨拶をすることにする。
あの柄の悪い、伯父と言う人に似てはいたが、本人ではなかった。
そこにも、正直ほっとしていた。
「はじめまして。津田柾といいます。」
「君。詩鶴の、知り合いだって?」
「は・・・い。ちょっと、関わりがあって、詩鶴・・・くんは、しばらく俺の家に来ていました。」
そいつも白衣を着ていたから、医者なのだと思う。
昨夜のあいつに、少し似ている気がするから親戚なのかな。
「こんなところまで来るなんて。詩鶴を守る騎士のようだね。」
そう言って、その人は自己紹介もせず俺をこっちだよと、案内した。
「詩鶴に会わせてあげる。でも・・・ちょっと、驚くことになるかもしれないよ。一応、その心積もりでいてね。」
脳内に大量の疑問符を飛ばしながら、まだ覚醒仕切っていない俺は、そいつにくっついて病院の一角へと案内された。
不思議なことに、これから行くところへの、直通のエレベーターらしかった。
「あの・・・あなたは、詩鶴の・・・?」
「ああ。ぼくは、立場上は従兄になるのかな。たぶん、君のところへお邪魔して、失礼なことを言ったのはぼくの父だと思う。」
迷惑をかけたのだろうねと、そいつは少し暗い顔をした。
それに関しては、いいえとも言えず仕方なく俺は、聞こえない振りをするしかなかった。
「詩鶴の父親が、植物状態になっているのは知っている?」
「はい。少しだけ話を聞きました。」
「いいかい、これはオフレコで、君は今からぼくに聞いたことを忘れる。いいね?」
話が飲み込めないまま、俺は頷いた。
エレベーターが動き出し、そいつは背中を向けたまま、詩鶴のことを話した。
この病院は、詩鶴の父親名義にはなっているが、億単位の借金があること。
資産すべてを手放すには、未成年の詩鶴個人ではどうにもならないこと。
後見人として入ってきた伯父の家族は、経営の全てを握り、自宅以外の資産の殆どをのっとられている。。
後見人としての伯父と、詩鶴の父親にはある確執が有って、詩鶴の父親が意識不明の今、確執は全て詩鶴に向けられていること。
「確執・・・って?」
「行けばわかる。・・・たぶんね。あの子はね、ぼくの父からは逃れられないんだ。」
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いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
原稿を書き、うっかり保存しないで閉じた時、涙って生理的に出るんだと知りました。
ぎりぎり間に合いました。 此花
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