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新しいパパができました・11 

しばらく何事も無く日々は過ぎ、母ちゃんの足のギブスが外れてしばらくしてから、家事から解放された澤田は当初の予定通り、学校に来ることになった。

進路を決める大切な時期に、転校することになって大変だろうと思うけど、ちびの澤田は俺のお下がりの制服を着て編入してきた。
朝、鏡に映った自分の姿を見ているのは、どこか一年生の入学式の朝の風景のようでちょっと笑えた。

「変じゃない?ぼく、ちゃんとしてる?」

「大丈夫。似合ってるよ。」

ちょっと嬉しげな顔をした澤田を連れて、登校した朝は想像通り大騒ぎだったが数日たった今はもう落ち着いた。
それよりも編入のためにどうやら戸籍を移動させたらしいが、後でそれが大事になった。

学校に通い始めて5日目、朝っぱらから正門前に胡散臭い輩が、何人もたむろしているのが目を引いた。

昼休みにも、窓から覗くとまだ車が止まっていたりして、教室でも噂になっていた。

「あいつら、絶対、堅気じゃないよね。」

「ひとりずつ、すげぇ覗き込んでいたから、誰か探しているのかな。」

「そんなやばいやつ、この学校には居ないだろ。誰を探してるんだろ?」

そんな声に不思議といやな予感が働いて、放課後、3年生の教室へ急ぐ。

「すみません。澤田詩鶴を呼んでもらえますか?」

「澤田?あ、今日は買い物があるからって、補講受けずに帰ったみたいだよ。」

脱兎のごとく駆け出した俺は、自分の感がまるで野生動物並みだったのに驚いた。
想像通り裏門を越えたばかりの交差点のところで、澤田は黒塗りの車に押し込まれる寸前だった。
単純な澤田は、きっと裏門から抜けるだろうと思っていた。
スーパーマンは、すんでのところで間に合った。

「は、放してっ!ぼくは、帰りません。」

「お嬢ちゃん。そんな聞き分けのないこと言ってると、血のつながったおじさんが泣いちゃうよ。」

「嘘です。おじさんが泣くなんて、放してっ!やだーーっ!」

俺に気づいて必死に抗って伸ばした手を、かろうじてぐいと掴んだ。

「おまえら!日の在るうちから、誘拐かよっ!」

澤田を背中にかばった俺は、今、仁王立ちの武蔵坊弁慶になっていた。

「柾くんっ!」

ところが背中にすがった澤田が、今度は向きを変えて俺を背中にかばおうとする。

「だめ。逃げてっ!」

「何言ってんだよ、おまえが逃げろって!」

見交わした目で、瞬時にこれしかないと悟った。

「詩鶴!来い。」

「柾くんっ。」

掴んだ華奢な手首の細さに驚きながら、俺たちはその場から全速力で逃げた。
小さな恋のメロディのように。
卒業の、ダスティンホフマンのように。
まるで、曽根崎心中の道行きのように・・・って、作者古すぎ。

息せき切って、追っ手をまくため、車の通らない細い道ばかりを駆け抜け、公園の土管の中で、一息入れた。
このまま自宅に帰るのは、危険すぎる。
学校に来たということは、そこら辺は当に調査済みだろう。
息を切らした白く血の気の引いた思いつめた顔を見ていると、詳しいことは判らないが何か口に出来ないことを背負っているようで、かわいそうになってくる。

噛み締めた唇が小刻みに震えているのは、今泣くと俺の負担になると知っているからだ。
短い間だけど、こいつの感情の中には表現前に一つ「我慢」が入っているような気がする。
何を我慢しているのかは、よく分からないが今も、こうして自分を押し殺そうとしている。

「なあ。聞いてもいいか?」

指で唇を押さえて、震えを収めて澤田が俺を見上げた。
返事の代わりに、小さくうなずいた。

「あいつら、誰?」

「あ。きっと・・・おじさんが頼んだ人たち。」

「どうするつもりなんだ?」

「こわい・・・よ。帰りたくない・・・柾く・・・ん。」

「詩鶴。」

震える指先に気が付いて、思わず俺は両手のひらで小さな手を握りこんでいた。
どくんと胸が騒ぎ、何故か口にした名が澤田から詩鶴になっていたことに驚く。
ほんの少し、抱き合って小さな子供にするように背中をとんとんと叩いてなだめてやった。

「大丈夫、俺がいるから。」

ぱたぱたと腕に落ちたのは、温かい涙だった。
手首の傷跡は、あいつらに何か関係があるのか?

「護ってやるから・・・」は、心の内側で呟き、言葉の代わりに包み込む腕に力を込めた。

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おじさんと、詩鶴くんには何が遭ったのでしょう・・・・゜゜・(/▽\*)・゜゜・きゃあ。    
此花
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