新しいパパができました・17
「君。津田くんと言ったっけ。聞きたいことがあるなら、聞いても良いよ。」
残念ながら回りくどい性分じゃない俺は、真っ直ぐに言葉をぶつけた。
「あいつは、何故詩鶴のことを違う名前で呼ぶんですか?」
「・・・あいつは・・・すみません、伯父さんって人は、詩鶴に何をしてたんですか?」
「後、あんた・・・あなたは、詩鶴の味方?それとも、敵ですか?」
「やれやれ、なんともストレートにぶつけてくる客人だね。」
床にへたり込んでいる詩鶴に手を貸して、ベッドの上に抱え上げたそいつは脈を取り、耳元に今日は大丈夫のようだねと、そっとささやいた。
「詩津さんというのは、詩鶴を生んだ母親の名だよ。そこに写真があるだろう。」
静かに眠り続ける、詩鶴の父親の枕辺に幸せな家族写真が置かれていた。
「子供を妊娠しているときに、胃がんになっていてね、手遅れだったんだよ。ずっと、胃が痛むのはつわりが酷いせいだと思っていたから。」
「家が総合病院なのに、手遅れ・・・?」
「そう、恥ずかしながら。しかも産婦人科は、妊娠成功率が高い病院として、不妊治療では国内ではトップクラスなんだ。」
「だから、問題のない妊婦として、きっと見落とされたんだね。妊婦に放射線はよほどのことがない限り、使用しないから。」
「何で詩鶴のことを詩津って、お母さんの名前で呼ぶんですか?似てるからわざと?」
詩鶴の従兄は、詩鶴に向かって話してもいいかと聞いたが、詩鶴はうんと頷かなかった。
左右に強く頭を振ったきり、再度ベッドに身体を投げ出して、身を震わせていた。
白衣の男は詩鶴の従兄で、澤田天音(あまね)と名乗った。
澤田天音は、小さくあごをしゃくって俺を外へと誘い、俺は横目で詩鶴が身じろぎもしないのを確かめて、付いていった。
「向こうで話そう。」と、言われるまま、付いていった人気のない特別室のあるフロアには明るく陽が差して、広い廊下はギャラリーのように洒落た絵画が飾られて、とても病院とは思えない。
まるで、都内の有名な画廊のような風情だった。
「詩鶴の母親も、あの部屋で亡くなったんだよ。」
「後、話しかけたうちの父の確執の話だけどね、本当は詩鶴の母親と父が結婚するはずだったんだ。」
思わず驚いて、初対面なのに、そんな大事な話を俺にしても良いんですか?と聞いたら、君は詩鶴の騎士だからねと口角を上げた。
今一つ、こいつが詩鶴にとって、どういうやつなのか掴めないまま、俺は話を聞いた。
「運命としか、言いようがないね。詩鶴の父親とぼくの父は兄弟で、詩津さんを争って勝ったのは詩鶴の父親だったんだ。」
「父は君も気づいているだろうけど、少しばかり神経が繊細すぎるというか物事が全て自分中心に回っていないと許せない性質(たち)なんだ。」
母ちゃん、俺は今ものすごく重要な話を、軽く世間話をするように聞いている気がする。
このまま、この脳天気な俺がこんな話を聞いていて良いのかと思うけど、話は続いたんだ。
「父はね、表向き祝福する振りをして、詩津さんを自分のものにしたんだ。・・・女の人は、そういうのって分かるんだろうね、結婚をやめたいと伯父に告げたそうだけど、伯父は父が一番ショックを受ける方法で・・・宿った詩鶴ごと丸々彼女を愛したんだ。きちんと籍も入れてね。」
すっげぇ、男前・・・のような気がするけど、実際はどうなんだろう。
それって彼女のおなかの中に、誰か他のやつの子供が宿っているってことだろ?
しかも、相手は自分の兄ちゃんで・・・?
あ。一つ疑問。
「あの。天音さんは、詩鶴よりずいぶん年が・・・」
「ああ、つまり父には既に本妻がいて、詩津さんを愛人にするつもりだったんだよ。両方欲しかったんだよ、父は。」
「円満な家庭を持ちながら、儚げでずっと聖少女のような詩津さんと、恋をしたいと本気で思っていたようだね。」
欲が深い男だね・・・と、天音さんは笑っていたが、俺の少ない脳みそを総動員しても、詩鶴の伯父というやつの思考回路は分からなかった。
詩鶴の母親が、一番大好きな人と結婚できたのは確かで、二人は幸せに暮らした。
だけど、そのお腹には実の兄の子供の詩鶴が宿り、しかも彼女は余命僅かだった・・・?
昼ドラだ~・・・
「あ。詩鶴。」
二人の会話を、悲しそうな顔で聞いている詩鶴と目があった。
「聞いちゃだめって言ったのに・・・。言うこと聞かないなんて、パパは悲しいよ、柾くん。」
「ごめん、詩鶴。」
この顛末・・・どうなるの。
俺は何もかもリセットして、詩鶴だけ連れて家に帰りたかった。
今すぐに。
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本日、やっと地デジ対応のテレビが届いた此花のおうちです。
日本列島は荒れ模様でした。
設定完了と同時に、アンテナがどこかへ飛んでゆきました。
(´;ω;`)・・・
ケーブルも届かない、インターネットの光も届かない。
ここは、日本なのか・・・?
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