おとうと・5 【R-18】
苦手な方はお読みになりませんように、お願いします。R-18です。
家政婦の腕を振り切って、駆けあがったら詩鶴と誰かが、もみ合っているようだった。
「ぃやーーーーーっ!」
何かが割れる音と、倒れ込むような音がした。
「詩鶴っ!どうしたんだ!」
部屋には内側から鍵がかかっていて開かない。
天音は胸騒ぎを感じ、がんがんと重いマホガニーの扉を叩き、内部で息をひそめる存在に怒鳴った。
「詩鶴!開けなさい!詩鶴!誰かといるのか!・・・」
どのくらい、そうしていただろう。
静かに出てきた男に、天音は驚愕した。
ちらりと寄越した目線にはただならぬものが含まれ、思わず天音は戦慄した。
それは鉄格子のついた病室に入院している患者の物だった。
「お父さん・・・?ここで、何をなさってたんです?」
それには答えず、父は横をすり抜け詩鶴のくぐもった嗚咽だけが、灯りの無い部屋から聞こえてきた。
引きつるような細い鳴き声に天音は驚いて室内にはいり、灯りをつけた。
「いや・・・いや・・・違う・・・っ!」
寝台に倒れ込んだ詩鶴は、打ち捨てられたような妙な格好で、一目で何があったか天音は理解した。
そこにいるのが、詩鶴なのが理解できなかった。
一体、なぜこんなことになってるんだ・・・?
ひくひくと痙攣を起こす大切な従弟に、天音はそっと手を差し伸べた。
指先が触れると同時に、電流に弾かれたように飛び上がった詩鶴が叫んだ。
「ぃやーーーーっ!」
走り出そうとして、体の自由が利かなかったらしくもんどりうって詩鶴は転がり、何かから逃れるように体を丸めた。
「ぃやーーーっ・・・触らないで!違う・・・違う―――ぅっ・・・」
「詩鶴!どうしたんだ・・・?詩鶴?」
「あ・・・?」
天音の声に反応し、懸命に合わない目の焦点を合わせて、やっと視線を絡ませた詩鶴は天音お兄ちゃん・・・と言いかけてそのまま気を失ってしまった。
医者の家に育ち、医学生となった天音には多少の心得があったが、今はそれが恨めしかった。
見覚えのある長いガーゼの女性もののドレスがまくれ上がって、下着をつけていない下肢が剥き出しになっていた。
白い丸い詩鶴の尻から続く細い腿に、つっと一筋の血の滴りを認めてしまった。
最奥が傷付けられて、出血したのは間違いない。
信じられなかったが、事実だった。
詩鶴は天音の実の父親に、乱暴されたのだ。
********************
天音はそのまま階下に降りると、すべてを知っていそうな家政婦と対峙した。
「・・・申し訳ないけど、包み隠さず話してくれるかな?知っていることをすべて。」
家政婦は困った顔をしていたが、むしろやっと肩の荷が下りるといった風だった。
「いつから、こういうことになったの?」
佐々岡さんと呼んで詩鶴が慕っていたのは、天音も知っていた。
高い給料で雇われながら、目の届かないのを良いことに手抜き家事しかしていないのも天音は知っていた。
現に下から見上げれば、階段の隅々には綿ぼこりが舞う始末だった。
「天音さんが、東京の大学にお行きになって、しばらくしてからのことです。」
「悟先生は、詩鶴さんとは殆ど関わっておいでではなかったのですが、病院主催の桜祭りで詩鶴さんが参加されてその夜・・・から様子が変でした。」
確かに自分も詩鶴に久しぶりに会ったとき、過去に出会った初恋の美しい人を思い起こしてしまった。
倒れ込んだ詩鶴が着ていた長いドレスは、赤子だった詩鶴を詩津から預かった日に着ていたものだ。
満開の桜の下、降り注ぐ花弁が風にあおられ花吹雪になって、その人を花の精だと思った。
「天音さんはご存じではないかもしれませんが、ご兄弟で詩鶴さんのお母様を奪い合った話はこの病院に勤めている古参の者なら、誰でも知っているお話です。」
天音の脳内で、それ以上は聞くなと警鐘が鳴っていた。
「・・・ああ、その話なら、僕も昔聞いたことがある。確か・・・身重の詩津さんが選んだのは聡叔父さんだったんだよね。」
天音の口にしたのは出まかせだった。
普通に聞けばおそらく煙に巻いてしまい、その場しのぎの言い訳をしてこの場から去ろうとするに違いないと見当をつけた。
「天音さん。ご存じだったんですか?」
「ええ・・・。例え知っていても、息子の立場では口にできないこともありますから・・・」
「こういうことは・・・その・・・母の事もありますからね・・・」
天音の笑顔に大抵の女性は好印象を持つ。
それは過去に、この家政婦にも実証済みだった。
「ああ、それで!」
「小さいころからお二人が仲良しだったのは、やはりご兄弟だと知っていらしたからなんですねぇ。」
天音の中で、大切にしてきたものが音を立てて、崩れ落ちたような気がしていた。
これまで自分が信じてきたものは、すべて砂上の楼閣だったのか・・・
ぐらつく足元を踏ん張って、その場に立っているのがやっとだった。
********************************
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。 詩鶴:「天音お兄ちゃん・・・此花が~」
(`・ω・´) 天音:「かわいそうな、詩鶴。いつかあいつやっつけてやるからな!」
ヾ(。`Д´。)ノ 此花:「出演快諾しといて文句言うな~~!!」←作者横暴
拙作「新しいパパができました」の前の話になります。
詩鶴が生まれたところから、お話は始まります。
よろしくお願いします。
拍手もポチもありがとうございます。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。
- 関連記事
-
- おとうと・15 【最終話】と【あとがき】 (2011/03/14)
- おとうと・14 (2011/03/11)
- おとうと・13 (2011/03/10)
- おとうと・12 (2011/03/09)
- おとうと・11 (2011/03/08)
- おとうと・10 (2011/03/07)
- おとうと・9 (2011/03/06)
- おとうと・8 (2011/03/05)
- おとうと・7 (2011/03/04)
- おとうと・6 (2011/03/03)
- おとうと・5 【R-18】 (2011/03/02)
- おとうと・4 (2011/03/01)
- おとうと・3 (2011/02/28)
- おとうと・2 (2011/02/27)
- おとうと (2011/02/26)